第二十九話 ダメおっさん、皆で料理を食べる
「ガンク殿! 今回の料理は⁉」
ラーナは飯の時だけ見せる、キラキラした目でこちらを見ていた。ふふふ、俺の料理がそこまで食いたいか。それは料理人冥利に尽きるな。まあ早く出してやるか。
「今日の料理は……」
俺はアイテム袋から四人分の料理を取り出す。もちもちのパスタに白いチーズとソースが絡み合い、黄身がパスタに載っている。ベーコンとじゃがいもを薄く切って焼いたものも載せてある。
料理を見て、目を輝かせるサラとリリア。ラーナは自分のアイテム袋からテーブルと椅子を取り出して、さっと椅子に座っていた。
この料理は異世界の勇者が教えてくれたレシピの一つ。
「カルボナーラだ!」
ラーナはうずうずした顔でよだれを垂らしている。流石にクソ師匠の館でメイドをやっているからか、一人で食いだすことはない。だが俺が早く座ってほしいと思っているのだろう。すごく威圧してくる。俺は料理人だぞ。敬え。
「ガンク殿、早く席についてください」
「はいはい」
「早く食べたい!」
「……!」
俺たちは草原の中に丸テーブルと椅子に腰かけて、小さい声で手を合わせる。
『いただきます』
これは異世界の勇者が毎回食事の際にやっていて、いつの間にか俺も取り入れていた挨拶だ。すべての命に感謝していただく。全く異世界の勇者が暮らしていた国はどんな所だったのやら。
ラーナはフォークにパスタを巻き付けて、くるくるっとした後、ゴクリと喉を鳴らしてカルボナーラを口に入れる。ん~! と満足げな声を漏らして、もぐもぐと咀嚼していた。本当に美味そうに食うよな。
俺も一口分をフォークに巻きつけて、いや、男だからすすればいいか。豪快にフォークでパスタを口に入れてすする! うん、やっぱりいい出来だ。牛乳を焦がさないように煮つめた後、チーズをたっぷり入れてトロっとさせる。パスタは前作ったやつだが、発酵させてもちもちとした食感になっている。燻製した自家製ベーコンがとてもいい味出してるなあ。チーズはお気に入りの農場から特別に送ってもらっている奴だぞ、貴族がこぞって金を出すような奴だ。クリームチーズだな。
サラは口にソースをべったりとつけて、目を閉じて満面の笑みを浮かべていた。リリアは流石、貴族令嬢というべきか、スプーンとフォークをしっかりと使ってもぐもぐとしていた。リスみたいな顔だな。うん、小動物が頬にいっぱい食べ物を詰める感じだ。
「リリアは可愛いな」
「!」
リリアは恥ずかしそうな顔をして、目線を背けるが口はもきゅもきゅと動いていた。
サラはそれを見て笑っていたが、口元にべったりとソースがついているからハンカチで拭ってやった。こういう所は野生児だなあ。
「ガンク殿、お代わり!」
ラーナはすぐに食べ終わり、俺の方に手を出す。本当に食いしん坊だな。
「感想は?」
「白いもちもちとした麺とクリーミーな牛乳とチーズの香りとコクがたまりません! ベーコンも燻製された香りがスモーキーで美味しい。それにじゃがいもを焼いたものがカリカリしていて幾らでも食べれます!」
「ふふん、そこまで褒められると嬉しいな」
「ガンク殿の料理は本当に美味しいですよ。冒険者を辞めて料理人になりませんか?」
「いや、それは嫌だ」
ラーナのあまりの言い草に思わず、吹き出しそうになるサラとリリア。
俺は料理が上手な冒険者のままで良いんだよ。料理人になったら、ラーナが俺を離してくれなさそうだ。
まあ俺は家事が不得意なんだがな。そこはサラが洗濯をしてくれるからいいんだけど。
ラーナが白パンも食べたいというので出してやる。
ソースにパンを付けて、うっとりとしていた。
それちょっと汚いから。サラとリリアがまねしちゃうだろ。
「美味しかったです」
「ガンクは何ができないの?」
「俺は家事が苦手だし、戦闘も二十秒しかできないからなあ」
「呪いが解ければいいんだけどねえ」
そうなんだよな。微笑みの魔族にかけられた呪いを解ければ、戦闘も制限なく戦えるし、サラ達の育成もしやすくなる。微笑みの魔族か……あいつが出てくるとしたら十階層以降だろう。まだ二階層だが、どこで引き返すべきか。俺は少し悩んでいた。
何気なく、空を見上げると気持ちよい陽気の日差しと風が吹いていた。ったくダンジョンは呑気なもんだ。
俺たちはそれとなく雑談しながら、三階層の階段に向かうことにした。
「ブモオオ!」
バトルカウ二匹だ。サラはさっとショートソードを抜くと、漆黒の魔獣戦で出した光属性の魔力を纏わせる。
サラの足取りは軽い。バトルカウがこちらに突進してくるが、蝶のようにひらりと躱すと横から肉から骨まで切ってしまう。サラは光属性の魔力を自由に引き出せるようになる練習をしている。いつでも自由に使えればもっと戦闘は楽になる。
もう一匹のバトルカウはリリアが相手をしている。
「リリア、突進を躱して体術で倒してみろ」
「!」
あえてリリアの得意な魔法を封じた練習だ。リリアは魔力層を身に纏うと、ふんすと気合を入れる。そしてリリアめがけて、突進してきたバトルカウの動きを見て、かわ……躱さない⁉ それは危ないと俺は止めに入るが、リリアは透明な魔力の腕を腰から二本出すとバトルカウの突進をいとも簡単に止めてしまった。すごいな、木にぶつかれば、余裕で吹き飛ばす突進なんだが。俺が感心していると透明な魔力の腕で空中にぶん投げる。そして……
「!」
オラオラオラオラオラオラオラァ!
と言わんばかりに透明な腕を伸ばして、空中でバトルカウを殴り続ける。その時のリリアはちょっと笑みを浮かべていて……怖かった。
バトルカウは一定数殴られるとべしゃっと潰れてミンチになると透明になって消えた。
「リリア、なんかやんちゃになったね」
「いや、やんちゃって騒ぎじゃないだろ⁉」
「撲殺天使ちゃんですね」
「撲殺と天使って共存できるの⁉」
俺がサラとラーナにツッコミを入れる。リリアはクスクスと笑いながら、俺の方にバトルカウのお肉と魔石を持ってきた。ったく勘弁してくれ。ちょっと怖いよ。
まあそんな一幕もあったが二階層をずんずんと進む。
バトルカウ以外はフライカウとかノーマルカウとかが居た。
異世界の勇者は飛ぶ牛ってどういうこと⁉ ってびっくりしてたな。
いや、牛だって翼があれば飛ぶだろ。
な?
次話に続く。
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