第二十六話 ダメおっさん、ダンジョンに向かう
俺たちは翌日、冒険者ギルドに来ていた。マーシャが何やら話があるらしい。応接室に呼ばれると昨日より沈んだマーシャが出迎えてくれた。
「どうしたんだ?」
「あのね、先遣隊が言うにはダンジョンの拡張が始まってるらしいのよ」
「何だって? できたばかりのダンジョンだろ?」
「おかしいのよね。最初から十階層もあるのもそうだし……」
「何か他にもあるのか?」
「先遣隊が戻ってこないのよ。十階層より下に行ったメンバーがね」
「一度戻ってきたんだろ?」
「そうだけど次の調査で戻ってきてないの」
俺とサラとリリアは顔を見合わせる。サラは来る前のキラキラした目が噓のように曇っていた。リリアは深く思考している。俺は腕を組んで少し考える。未踏破のダンジョンは宝箱も良いのが出るから、行きたい気持ちはある。だが俺はサラとリリアの師匠だ。うーむ、ここは一旦引いて、もう少し情報を得るべきか。俺が悩んでいるとマーシャは羊皮紙をこちらに出してくる。うん? なんだ?
「私もあんたたちを行かせたくない。だけど、領主クロイ様とミリル子爵からダンジョンをあんたたちで調査するようにお達しが出てるわ」
「……はあ? またクソ師匠の無茶振りか?」
「そうみたいなのよね」
領主クロイは辺境伯で身分を隠して冒険者をしていたアンブレイン・クロイ・ガンドルフだ。俺の師匠でもあるが……今回は何を考えているんだ?
「私も流石にリリアを連れていくのは危ないって言ったんだけど……意見を変えてくれなかったわ。どうやらミリル子爵の意向が強いみたい」
「だからって……」
「……!」
リリアを見ると私は行きたいと、強い目でこちらに訴えかけていた。手は……震えていたが。ダメだろ、こんな訳の分からんダンジョンにまだ魔物と戦えるかもわからん弟子を連れていくのは。俺は断ろうとするとサラが俺の手に手を重ねて、強く言った。
「あたしもリリアと同じでこのダンジョンに行きたい。よくわからないけどこのダンジョンにあたしの両親やガンクの呪いを解く手がかりがある気がするの」
「うーむ」
サラの目は少しだけ赤く染まり、背中に何かの光が集まっていた。これは……レインブルク一族の力か? 俺は少しだけ悩んだが、しょうがないと頷くことにした。
「はあ、しょうがないな。でも危ないと思ったらすぐに引き返すからな」
「うん。それは大丈夫よ。私も付いていきたいけど……仕事があるから」
「まあそれはしょうがない。ラーナはダンジョンの前で待っているらしいから、大丈夫だ」
「本当にごめんなさいね」
「謝るなよ。悪いのはクソ師匠とミリル子爵だ」
ったく。こんな危険なダンジョンに俺と可愛い弟子を連れて行け、何て何を考えてるんだ。だが、行くと決まったからには戦うしかない。俺の本気の二十秒はしっかり使いどころを見定める必要がある。気合を入れろ、俺。サラもリリアもラーナも俺が守る。それにしてもサラの目と背中の翼はどんな因果があるんだろうな。俺はサラの方をちらりと見るがもう普通の状態に戻っていた。俺はサラとリリアの頭をガシガシと撫でてやる。二人は急にやられて、びっくりしていたが受け入れていた。まあこれはあれだよ。サラが頭を撫でろって良く要求するからだぞ。
俺たちは昨日、時間停止のアイテム袋に作り置きの料理や携帯食料の固焼きパンと干し肉などを入れてある。料理は十日分は作り置きしてある。ラーナがいくら食っても流石に一日二日で無くならないだろう。俺達は回復要員がいないのでポーションやマナポーション、毒消し、麻痺消しなども用意した。水は大量に持ち込んであるが、サラとリリアが水魔法を出せる。
サラのショートソードは鉄から鋼のショートソードにリリアの杖はトレントの杖を買った。鉄より鋼の方が魔力伝達が良い。それに切れ味増加のスキルも織り込み済みだ。金貨二枚くらいしたがまあ俺が金を持ってるから大丈夫だ。トレントの杖は杖なしの時よりも少ない魔力で強い魔法が撃てる。リリアは魔力操作の練度はかなり良くなってる。だから暴発させることもない。
俺たちはマルクの街の近くのダンジョンに足早に歩いていく。
八百屋のおっちゃんや衛兵にあいさつされる。何だかんだ街の人の目線は優しい。だがまだ先遣隊が新ダンジョンから帰ってきていないというのは知らされていない。マルクの街の森とは正反対の門に歩いていくと、ラーナが立っているのが見える。律儀に門の前で待っていたみたいだ。
「ラーナ、あのクソ師匠は何て言ってた」
「ガンク殿にしか任せられない調査だと申していました」
「でも、先遣隊が帰ってこないのよね。危険でしょ?」
俺がラーナに問いかけて、最後はサラが締める。あのクソ師匠が絡むとろくなことがないな。俺はため息をつく。ラーナは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「わたくし個人では本当に申し訳ないと思っています」
「はあ、ラーナが言ってもクソ師匠とミリル子爵が言わなきゃ意味がねえ。いいか、危険を感じたらすぐに戻るからな」
「それは承知しています」
「サラとリリアも行くぞ」
「分かったわ!」
「!」
サラとリリアは初ダンジョンという事もあって緊張しているようだ。それも無理はない。俺の脳裏に魔族大戦で出会った微笑みの魔族の気味の悪い笑みを思い出す。なんで今そのことを思い出すんだ? 何か嫌な予感がした。
俺たちは衛兵に冒険者ギルドカードを見せて、ダンジョンに向かう。まあこの三人は良く俺の家で話しているから仲が良い。だが今日だけはテンションの低いラーナに引きずられて会話が弾まない。はあ、昔は無表情でクールな女だと思っていたが、今は食いしん坊で愛嬌のあるやつだと思っている。こいつに真面目な顔されるとこっちが面食らうんだよ。
「おい、ラーナ。辛気臭い顔をするな」
「これがわたくしの顔です」
ラーナは無表情でそういう。だがこれを見たらどうかな?
「あ、いけない。今日は三人で特別な料理を食べたんだが……」
「はいい? なんでわたくしの居ないところでそういう料理を作るのです⁉」
あーやっぱ飯の話をすると面白いように表情を変えるな。ラーナの眉は吊り上がって、眉間に三本のしわが寄っていた。俺はそんなラーナのでこをピンと弾くとラーナは痛そうな顔をする。
「あ、冗談だった」
「……」
「ぷっ、あははは」
「!」
額を抑えて頬を膨らませてぶすっとした顔をするラーナ。ははは、お前は食い物の話につられて、変な顔をするくらいがちょうどいいのだ。ラーナを見て、笑い転げるサラとクスクスとした顔を隠さないリリア。そうだよ。俺達に緊張は似合わない。これくらいの緩い感じを保たないとダンジョンに飲まれる。ったく、ラーナは強いと思っていたがまだまだ甘ちゃんだな。
俺に特別な料理があるのかないのかを、聞こうとするラーナを宥めながら、ダンジョンに着いた。サラとリリアもさっきよりいい顔してたぞ。ギルドの職員が門番をしているのでクソ師匠からの依頼書を見せると通してくれた。さあここからは何が起こるかわからないぞ。
次話に続く。
小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。




