第二十五話 ダメおっさん、ダンジョンの話を聞く
「なるほどね。私の所に聞きに来たのね」
「そうだ。リリアが意思伝達できないのはかわいそうだからな」
俺達は冒険者ギルドのギルドマスターのマーシャの所に来ていた。
マルクの街では珍しいエルフの女で水色の髪を肩まで垂らした元Aランク冒険者だ。
マーシャは俺とサラとリリアを見て、表情を少し変える。
「ガンク? またあんた、女の子だらけのパーティー組もうとしてるの? 私はいいけど、他の元パーティーの子たちに知られたら刺されるわよ?」
「え? 何でだよ」
『はあ……』
何故かマーシャとサラとリリアにため息をつかれる。表情はあきれたと言った感じだ。別に前の時も今も女の子を指定して集めた訳じゃない。気づいたら俺以外女のパーティーができてたんだよ。嘘じゃないぞ! と、心の中で言い訳するも、マーシャは冷たい目を向けて、サラはにっこりと笑いながらショートソードをカチャカチャ鳴らしている。リリア、魔力操作をするのはやめような。なんか俺に対してだけ人を傷つけてもいいとか思ってないか?
「ガンクは鈍感すぎるのよ」
「本当にね。こいつは天然の女殺しなのよね」
「……?」
『リリアの真似をするのはやめなさい』
俺は無言で首をかしげるが、何故かリリアの真似だと言われてしまった。まあマーシャとサラは諦めたように笑ってるし、リリアは何故か満面の笑みで俺の腰にしがみついている。ちなみにサラが右隣、リリアは左隣だ。全くどういう展開かわからんが、まあ場の空気は緩んだしいいだろう。俺は話を進める。
「で、なんかいいスキルを得る方法はないのか?」
「うーん。そうね。丁度マルクの街の近くに新しいダンジョンができたのよ」
お、ダンジョンか。ダンジョンは様々な場所にできる、魔物や罠が出る天然の迷宮だ。そのダンジョンは富と名声を得られることから冒険者に非常に人気だ。まあダンジョンで死んだら、死体ごとダンジョンに吸収されて、終わりだがな。でもいきなり人の街の近くにダンジョンができるのは珍しいな。普通はもっと街から離れたところにできることが多い。まあダンジョンができる仕組みはよくわかっていないんだがな。
「なるほどな。ダンジョンに行けば、意思伝達ができるスキルの元を得られるかもってことか」
「そうよ。それに調査もしに行かないと駄目だったし。丁度、領主クロイ様から調査依頼が出てたから誰に任せるか考えてたのよ」
「行きたい!」
「……」
マーシャの言葉にサラが嬉しそうに瞳を輝かせて反応するが、リリアは顔を俯かせて、少し暗い顔をする。手は少し震えていた。俺はさりげなくリリアの手に自分の手を乗せてこう言った。
「リリア、魔物は人型種族とは相いれない、所謂敵だ。友好的なやつは殆どいない。やるかやられるかだ」
「……」
「じゃあ、俺やサラが魔物にやられそうになっても、助けてくれないか?」
「……!」
俺の言葉にブンブンと首を横に振って、リリアは意思表示する。目はまだ曇ってはいるが、手の震えは止まっていた。呼吸は少し緊張した様子だが、俺たちを守ろうという意思を感じられた。俺は少しうれしかった。常に引いて物事を見るリリアがこういう話の時に誰かを守るって意思を見せてくれたことが。俺は頷いて話を進める。
「魔物を好きで殺せという訳じゃない。戦いってのは誰かを守るって目的が必要だ。そう言う考えなら戦えるんじゃないか?」
「……」
暫し、俺たちは無言になる。リリアは青色の瞳を沈ませ、深く考え込んでいるようだった。これでダメだったら、リリアは魔法を戦いには使えない。それは本当に依頼を達成できたのかという話にも繋がる。だがそれはどうでもよかった。俺はリリアに一皮むけてほしかった。誰かを傷つけるためじゃなく、守るために力を振るう。そう言う責任感を持った子になってほしかった。
暫く時間がたった。そしてリリアは俺に向かって強く頷いた。
持参した紙にさらさらとペンを走らせる。いつも通り達筆な字を読むとこう書かれていた。
『サラもガンクも大切な……友達。私も見てるだけじゃいや。誰かを守るために戦う』
「リリア!」
「一皮むけたわね」
「よく言った」
サラ、マーシャ、俺の順番に声を発する。リリアは力強く俺の手を掴んでいた。もう瞳に迷いはない。大丈夫そうだな。俺はサラを見るとサラは嬉しそうに俺の目を見てははにかむ。マーシャもかつて「氷姫」と呼ばれた姿はなく、新人冒険者の成長を見て、目を細めていた。勿論俺も嬉しい。リリアはトラウマに立ち向かっていこうともがいている。俺はその助けをするだけだ。
「じゃあ決まりね。ガンク、ちゃんと準備していくのよ」
「そうだな。サラのショートソードもそろそろもっといいやつにしていい頃だ。それにリリア用の杖も買ってやりたい。ポーションも買いそろえていくよ」
「クロイ様にも言っておくわ。ラーナも恐らく来るんじゃない?」
「あいつが来ると飯代が増えるんだよ」
俺の放った一言で応接室に笑いが起きる。サラは腹を抱えて笑い、リリアもクスクスと声を抑えて笑っている。マーシャは目を細めて俺に言う。
「ガンク、前みたいに良い顔するようになったわね」
「何だ? 俺は元々いい顔だぞ」
「え?」
「は?」
俺とマーシャのやり取りにまたサラとリリアが笑う。二人とも瞳が潤んでいて、涙目になっている。腹を抑えて笑うのが苦しそうだ。俺とマーシャも釣られて笑い、良い雰囲気に包まれる。マーシャの一言には誤魔化したが、俺は昔のパーティーの事を思い出していた。異世界の勇者やドワーフの鍛冶担当。氷姫のマーシャや俺、そして魔族大戦の後行方をくらませた修道女。あいつは今どこで何をしてるんだろうな。聖女を探すって言ってたけど……。俺は少しだけ昔の事を考えて遠い目をする。
はあ、俺には沈んだ表情は似合わないな。まあ昔のことは後で考える。今はサラとリリアをしっかり守ってやることだな。ったく壊鬼と呼ばれていたのに本当に丸くなっちまったな。
俺たちはその後、武器屋や魔法具店に行って、サラのショートソードの新しい奴を買ったり、リリアの魔法発動を手助けする杖を買ったりした。
マルクの街の近くにできたダンジョンは出来たばかりなのに十階層は越えているらしい。俺は気づいていなかった。これはマルクの街の異変であることに。
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*???視点
「クックック。壊鬼のガンク。やっと見つけましたよ。あなたの大事なものは全て壊す。それが私の流儀ですから」
ガンクたちが楽し気にマルクの街で買い物をしているのを路地から眺める、一人の男。
その顔には微笑みが”刻まれていた“。
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