第二十四話 ダメおっさん、リリアと初クエストを受ける
「さあ、今日はマルクの街の冒険者ギルドで初クエストを受けるぞ」
「やった! 今日はジャイアントスパイダーを倒しに行くわよ!」
「いや、Fランクの誰でもできるクエストだ」
『?』
サラとリリアは同時に首をかしげる。フフフ、なんか姉妹みたいだな。サラは赤髪の短髪だが最近は髪を伸ばしてきている。リリアは金髪のショートボブだな。二人ともまっすぐに俺の目を見てくる。何気に二人とも手を繋いでいるのがいいな。異世界の勇者がいたら萌え~って言ってそうだ。
「まだリリアに実戦は早い。だがFランククエストは誰でもできるが魔法が使えないと不便なクエストばかりだ。だからこそ、俺達で受けて魔法を使う実践にするんだ」
「ガンクの癖に意外としっかり考えてるのね」
「俺は“いつも”しっかり考えてるぞ?」
こつんと軽く、サラに拳を落とすと痛そうなふりをして、舌をベーッと出す。全く来た時からは考えられないくらい、純粋になったな。リリアはそれを見て、一瞬顔を輝かせて、何故か俺の足元にやってくる。何だ? と思ったら俺の腕を掴んで、自分の頭に降ろそうとする。いやいやこつんってされたいんかい。俺はその代わりに頭をなでなでしてやると不満そうな顔をする。怖いよ、殴られたいとかそういう感じ辞めてね。
「ガンクはリリアにだけは甘いのよね……」
「サラにも優しくしてるだろ」
「あたしには撫でてくれない!」
いやたまに撫でてあげてるだろ……。頬を膨らませて、ツンとし始めるのでサラの赤髪を優しく撫でてやる。ちょっと顔が赤くなるのを見てこっちまで赤くなる。
「あー、ガンクのおじちゃんが、デレデレしてる~」
「あらあら、英雄も女には弱いのねえ」
『ッ~!』
はっ、冒険者ギルドに行く途中の往来でやってたから、花屋の子供と母親に見られてしまった。俺とサラは、ちょっと離れてお互いの目を見て、恥ずかしがる。『壊鬼』と呼ばれていた俺がこんなことをするなんて甘くなったなあ。恥ずかしいのでそそくさと離れる。リリアはまた高速で紙にメモをしていた。あれをしてる時だけ雰囲気が怖いんだよ。
冒険者ギルドに来て、受付嬢に挨拶する。酒場のウェイトレスのミミ―ちゃんがこっちに来た。
「あー! 最近飲んだくれじゃなくなった英雄さんだ!」
「ミミ―ちゃんはガンクさんって呼んでくれないのか?」
「知りません!」
俺は一応冒険者ギルドのいつもの隠れ教官の仕事もしてる。だが、最近は仕事にならねえ。悪い意味じゃなくて、駆け出し冒険者共が稽古をせがんでくるんだ。どいつもこいつも目が輝いてるから断りづらい。握手も頼んでくるのはやめてくれよ。まあそれは良いんだ。まともに仕事をしてると拗ねるミミ―ちゃん可愛いよ。
「やめてくれよ。俺の事を最初から認めてくれてたのはミミ―ちゃんだけだぞ」
「……」
「やっぱりミミ―ちゃんしか俺の事を信じてくれる奴は……」
そこまで言って、首筋に冷たい感触を感じる。ギギギと後ろを向くとショートソードを抜いたサラと笑顔のはずなのに目だけが笑っていないリリアが俺を見ていた。
「い、いや、ミミ―ちゃんは特別なんだよ……」
「……はあ、そんなこと言ってると刺されますよ。ちょっと嬉しかったけど……」
ミミ―ちゃんはちょっと目線を外しながらごにょごにょ言っていた。後半全く聞き取れなかったけど、何て言ってたんだ? いやそれを聞いちゃうとまたサラとリリアが怖くなるからやめておく。二人とも目が血走ってるから怖いんだよ。
「あ、ああ。今日はサラとリリアにFランクのクエストを頼みに来た」
ギルドの受付嬢は目を丸くして話しかけてくる。
「え? サラさんはDランク冒険者ですよね。リリアさんは冒険者登録からですが」
「これは指導も兼ねてるからな。良いんだよ」
「はあ、わかりました」
ギルドの受付嬢に案内されてリリアは冒険者登録をする。
「はい。これで登録しますね。魔法使いでFランクからスタートですね」
「……」
リリアは無言で頭を下げる。そう言えば喋れないから、クエストの受注や依頼人とのやり取りに困るな。このクエストが終わったら、ギルドマスターのマーシャに声を出せなくても意思伝達ができる方法を聞くか。
受けたクエストは二つ。側溝の泥詰まりを掃除するクエストと溜まったごみを燃やすクエストだ。本来は駆け出し冒険者が街でできるクエストだ。別に魔法を使わなくても良いんだが、魔法を使ってもらう。
「リリア、もう歩きながら魔力操作はできるか?」
「……!」
「あたしもばっちりよ!」
戦闘しているときに一々座禅していたら魔物にやられて終わりだ。だから今度は歩きながら魔力をスムーズに流す練習をさせる。勿論俺は出来るぞ。剣を振りながらでもできるし、寝ている時も絶えず意識している。無意識に勝手にできるまで練習してもらう。そうしないと実践で使えないからな。俺達はマルクの街の表通りを抜けて、下水処理場の近くまで来た。ここら辺はスラムに近いし、雨水が流れて泥がたまりやすい。さあ次は水魔法を出す練習だな。
「よし、どんな水魔法で流せばいいかわかるか?」
「ウォーターボールじゃダメなの?」
「じゃあウォーターボールをぶつけてみろ」
側溝に向けてサラはウォーターボールを撃つが、泥はぬかるんだだけ。
そりゃあそうだ。さあ、二人はどうやって水で泥を流すかな。
「うーん。魔法は球体とアロー系と放射系で……」
「!」
リリアは思いついたのか、水を鋭く、しっかりとした威力で手から出す。
よしよし、放射系で良いことに気づいたな。しかも安定した威力で魔力の流れも澱みがない。これなら合格点だ。サラもそれをみて、肩を落としている。
「リリアはどうして放射系だと気づいたのよ」
「……!」
身振り手振りでリリアは俺達に意思を伝えようとする。おお、こんなリリアは初めてだな。最初に出会った時はお人形さんのような無機質な表情だったが、今ははにかんで何かを伝えるように俺たちにジェスチャーをしている。俺は少しだけ涙腺がゆるくなった。どうやらリリアは花畑に水をやるようなイメージを強くしたらしい。異世界の勇者はウォータージェットって言ってたな。サラはそれを聞いて、流石リリアとほめちぎっていた。仲良きことは美しきことかな。
側溝を手分けして掃除すると一時間ほどで泥詰まりは取れた。
次はゴミを燃やす作業だ。俺達は布で口を覆う。ゴミは有害な空気を燃やすときに出すって異世界の勇者が言ってたからな。こういうのは大事だ。サラとリリアは次はどんな火魔法がいいか話し合っている。十分ほど話し合って出した火魔法はゆらゆらと燃えるゴミだけを燃やす魔法だった。
「おお、これはすごいな。ゴミ以外を燃やさないように指定したのか?」
「そうよ。これはあたしのアイデア。これなら火が大きくならないし、ゴミだけを燃やすから魔力も節約できる」
「正解だ」
サラもBランク冒険者級の魔力はある。だが魔力は使い切ったら大きく体が衰弱する。生きていく上で大切なものなのだ。戦場では常に魔力管理が要求される。だから魔力の節約は大事だと、二人にしっかりと教えている。
こうしてサラとリリアはクエストを終えた。
「おっ! 側溝が綺麗になってるじゃん。嬢ちゃん達ありがとうな」
「ゴミも綺麗に無くなってるな」
通りがかった衛兵に褒められる。おっ、こないだの森の異変の時にいた騎士たちじゃないか。こうやって人に褒められるといい気分になるよな。
サラとリリアは冒険者ギルドで銅貨八枚を受け取った。
リリアは初めてのクエストでお金をもらって嬉しそうだった。
さあ、俺はギルドマスターのマーシャに声以外で意思伝達する方法を教えてもらうか。
次話に続く。
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