第二十三話 ダメおっさん、魔法の基礎を教える
翌朝、俺の家の庭にアルトとゲイルとアニーがやってきた。
リリアも昨日アルトたちと会ったからだろう。そんなに緊張している様子はない。
俺は横一列に並んだアルトたちとサラとリリアを見て、ひとつ頷いて声を出す。
「さあ、今日はリリアもいるから魔法の基礎を教えるぞ。魔法は魔力が少ない者でも使えるとの使えないでは大きな差が出る。しっかり覚えること!」
『はい!』
「!」
アルトたちとサラはいい返事だ。すごく気合が入ってる。俺の稽古は教えられるとすぐに伸びると評判らしく、駆け出し冒険者が教えてくれと言っていると冒険者ギルドのミミ―ちゃんが言っていた。まあそれ自体は嬉しいんだが、俺の休みがなくなる。だがアルトたちは駆け出し冒険者の中でも新星のような存在でしっかり教えてやってくれと言われているので優先順位は高い。サラもだがな。サラを見ると気合十分に俺の目を見ていた。よし、まずは座学からだ。
まずアルトたちにも昨日、サラとリリアとラーナに教えた魔力操作の基礎となる座禅を教える。アルトとゲイルはうーん、駆け出しって感じだな。アニーは魔法使いなこともあって、一応できてはいるが、魔力の流れに澱みを感じる。アニーに断って、右手と左手に触れようとすると、サラとリリアがじーっと俺を見ていた。何だよ、触れないと魔力操作できないんだよ。
「アニー、肩と腰に魔力がたまりすぎだ。もっと力を抜いて、魔力を均一にきれいに流せ」
「あ、あぁん……」
「ガンク?」
「違うんだよ! これは稽古だ!」
「ガンクさん?」
サラは血走った目で俺を見るな。アルトとゲイルは腰の剣を抜こうとするな。
リリアは何かを高速で紙に書きつけている。昨日聞いた時は日記をつけていると言っていたが俺のこと書いてるんじゃないよな⁉
しょうがないので全員にやってやる。アルトとゲイルの変な声は聞きたくないからカットだ。カット。
そのまま小一時間、座禅を組ませる。
うんうん、段々と流れが綺麗になってきた。
ここからは魔法を発動する流れを説明する。魔法は魔力を体内で循環させ、手や発動する場所を指定して、魔法を発動するために詠唱をするのが基本だ。
魔力操作→循環→場所を指定→詠唱→魔法発動。ここで大事になってくるのが詠唱ではなくイメージだ。実際のところ詠唱ではなく、イメージが一番大事。ここまで説明するとアニーから質問が入る。
「ガンクさん、私が魔法を家庭教師に習った時は詠唱を長くして発動するのが大事と聞いていました」
「ああ、それはだな。間違いじゃない。ただ詠唱がイメージすることを補っているからだ」
「どういうことです?」
「例えば火魔法のファイアーボールは初めての時はどう詠唱する?」
「火の精霊よ、魔力を糧に火球を生み出したたまえ、ファイアーボール、です」
「その詠唱を何回もしていくうちにファイアーボールだけで発動するようになるだろう?」
「……確かに」
俺は結局イメージができていれば、ファイアーボールでも火球でも発動すると教えた。そしてどういうイメージが必要かというと、要は火を生み出すときにどのような物質が空気中に漂っているかというと話になる。ここら辺は異世界の勇者に聞いて教えてもらった。あいつ魔力操作は壊滅的に下手だったが魔法は使えていた。勇者曰く、火が生まれるためには火種を魔素で生み出し、さんそ? に着火すれば着くと言っていた。かみ砕いて教えてもらったが、空気には様々な物質があり、それらを使えば火をつけることも消すことも可能だそうだ。まあ魔力操作が下手だから、大火力になったり発動しなかったりとあいつの魔法は危なっかしくて仕方なかった。
そんな話をしながら、講義を進めていく。
リリアの母親。ミリル子爵は詠唱魔法ができないと最大限の魔法が撃てないと言っていたがそんなことはない。詠唱魔法はイメージを補うために口述して想像を補う。だがこの世の理を知っていれば、発動できるのだ。
俺はアルトたちに火魔法のファイアーボールを細い蝋燭のように出して維持させる。
だがリリアはまだできない。
「リリア、喋れないからファイアーボールが出ないと思ってるだろ」
「……」
リリアはこくりと頷く。その目は悲しそうに揺れていた。呼吸は少し浅い。周りができているのに自分ができていないことがプレッシャーになっているようだ。こういう時はやり方を変える。いや、言い方を変えればいい。
「リリア、料理の手伝いをしてくれないか?」
「……?」
首をかしげるリリアを台所に連れて行って、かまどに火種を付けるように頼む。
すると先程まで出なかったファイアーボールがきちんと魔力操作されて弱く出た。
「!」
リリアはすごい嬉しそうに俺の手を取ってブンブン振る。ふふふ、可愛いな。くりくりしたお人形さんのような目が光り輝いていた。呼吸は深くしっかりしている。
簡単なことだよ。リリアはまた周りにいる人達を魔法で傷つけるんじゃないかと思って無意識にセーブしていた。だが魔力操作を教えこんで、誰かを傷つけるためではなく、料理に使うように誘導した。それがリリアにとって良かったのだろう。
「リリア、料理や何かを使う時なら魔法を使えるだろう?」
「!」
リリアは嬉しそうに頷く。うんうん。まずはこれでいい。俺もリリアの頭を撫でながら褒める。なんか自然と撫でちゃうんだよな。まあリリアも嬉しそうだし悪くない。
俺は次にファイアーボールで、鍋の火を維持するように頼む。
これは結構難しい。最初は強火、途中から中火、最後は弱火。ずっと火を維持しながらだから魔力量が少ない奴には頼めない。
でもリリアはコツをつかんだのか俺の指示に従ってスムーズに火を維持してくれた。
少しだけ目線がしっかりして、表情に自信がある。それに手をかざしていない。
さっき俺が説明した魔法の発動場所を意識できている。
うん、火魔法はアロー系や放射系など様々な形があるが、今はファイアーボールだけでいいか。風魔法はトラウマがあるだろうから水魔法がいいかもな。
ちなみに今日の料理はまたハンバーグだ。アルトたちがサラに聞いて羨ましがってな。
なんか稽古の時の飯が死ぬほど美味いって評判らしい。いつもの飯を作っているだけなんだけどな。でもちょっとだけ顔がにやけるのは許してくれ。
ちょいちょいと裾を引っ張られ、リリアを見るとリリアも笑っていた。
その後はサラ達が突入してきて、騒がしくなる。
サラ曰く、俺の指導がサラの時より優しいのが気にくわないらしい。
アルトたちもブツブツ文句を言っていたが、ハンバーグを食わせてやると黙ってかぶりついていた。
はあ、こんな日々も悪くない。
窓から差す太陽の日差しはどこまでも温かく、穏やかな陽気に包まれていた。
次話に続く。
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