第二十二話 ダメおっさん、リリアの本心を聞く
「リリア。お前さん、魔法を使えないんじゃなくて使いたくないんだろ?」
俺の言葉を聞いて、息を吸い込み驚いた表情をするリリア。目線は泳いで、手は何かを握ったり離したりしていた。だが諦めた表情をすると少し呼吸をして俺の目を観念したかのように見る。やっと話す気になったかな。リリアの本心を。
ペンと紙を渡すと達筆でさらさらと字を書き始める。
『魔法は使いたくないわけじゃない。でも誰かを傷つける』
「なるほどな。使いたくないわけじゃないんだな」
「あたしも最初に剣を握った時は怖かったわ。誰かを殺すかもしれないって」
「つまり誰かを傷つけたことがあるのですね?」
サラがリリアの本心を聞いて同意し、ラーナがリリアの核心に迫る。
リリアは少しためらったが、またさらさらと紙に気持ちを書き始める。
『六年前に私の許嫁に魔法を使ってみろって言われて、でも、コントロールできなくて。風魔法を使ったんだけど、許嫁を吹き飛ばして傷つけた。私はそれから魔法を使うのが怖くなった。私が魔力が多くて、使うたびに誰かを傷つけてしまう。そう思って。許嫁からは化け物を見る目で見られたし、お父様には叱られて……。それから声が出なくなった』
ふむ。今はリリアは十五歳だから九歳の頃か。幼いころから魔力が多いと魔法の制御は難しくなる。リリアの目はまた化け物と言われるのを恐れているかのように、伏せていた。手は震えていた。
俺はリリアに近づき、そっと頭を撫でる。
「辛かったな。そりゃあ魔法を使いたくなくなるよな。俺だって戦場は化け物って言われることもあった。リリア、お前さんの気持ちはわかってあげられる」
リリアは今にも涙をこぼしそうな目をして、俺の顔を見上げる。手は握らない。未婚の女性の手を取ることは特別な関係じゃないと異性は無理だからな。だが頭くらいは撫でてもいいだろう? こんなダメおっさんに撫でられても嬉しくないだろうけどな。
サラがリリアの後ろから抱きしめる。ラーナは無表情かと思いきやハンカチを握り、無言で涙を流していた。俺は努めて明るい声で言った。
「リリア、俺たちは何処かで化け物と言われるくらい強い奴らばっかりだ。サラは街で英雄と呼ばれるくらい強いし、ラーナも同じくらい強い。俺だって魔族大戦で味方から恐れられるくらい強かったんだぞ。まあ今は呪いを受けて、ただのダメおっさんだがな」
俺は軽口を叩きながら、リリアの目から流れる涙をそっと指で取る。
だが、何故かサラとラーナが俺をじっと睨みつけている。
何だ? 俺悪いこと言ったか?
「また、ガンクが自分の事をダメおっさんって言ってる! ガンクはあたしと同じこの街の英雄なのよ? それにあたしを漆黒の魔獣から庇って大けがをするくらい仲間思い。そんな人がダメおっさんな訳ある?」
「ガンク殿は自分の事を卑下しすぎかと。漆黒の魔獣と戦う時にサラ殿がとどめを刺す前に弱らせたのはガンク殿です。呪いがある中でしっかりと成果を出して見せる。それがダメおっさんのすることですか?」
なんだなんだ。俺は急にサラとラーナに怒られて、口を閉じる。なんか恥ずかしいというか、少し照れるというか。涙を流していたはずのリリアが俺の手をそっと取ってさすってくれる。いや未婚の女性が異性の手を取るのはおかしいだろ。だけど振り払う訳にも行かないので握られたままで言い訳する。
「い、いやな? 俺は魔族大戦で呪いを食らってもうまともに戦えないんだぞ?」
「でも漆黒の魔獣の時にあたしと一緒に戦った!」
「サラ殿、その場にわたくしも居ましたが」
「何よ、吹き飛ばされてたくせに」
「かっちーん。小娘がいきり始めましたね。やりますか?」
「良いわよ。その喧嘩買った」
何故かサラとラーナの喧嘩が始まろうとしている。え、何でそうなる?
しかもサラとラーナは俺の目を二度見してから去って行った。何だよ、俺にはさっぱり女心がわからねえ。二人が家の庭に去った後、急に静寂が訪れる。
何故かリリアは俺の手を握ったまま、俺をじっと見つめる。でもさっきまでの涙はない。目はさっきまでのように泳いでいない。リリアは一呼吸置いた後、俺の手を離してさらさらと紙にペンを走らせる。
『私、また魔法で人を傷つけるかもしれない』
「でも、俺の料理に使っていたファイアーボールや魔力操作で出した腕に注目していただろ? ああいう使い方ならいいんじゃないか?」
『うん。あれは私もいいと思った』
「魔法は戦いに使う物だけじゃないと俺は思ってる。だから魔力操作をまず身に着ける。それから始めるのはどうだ?」
俺の言葉にリリアは考え込む。真剣な面持ちで目線は泳いでいない。少しだけ手を動かしていたが、覚悟が決まったかのように俺の方を見る。少しだけ呼吸を整えて、俺の手を握り、強く首を縦に振る。うん、覚悟が決まったみたいだな。
「じゃあ決まりだな。明日の朝、アルトたちが俺の家に稽古しに来る。それから魔力操作の稽古を始めよう」
『分かった。難しい?』
「そうだなあ。魔力操作だけなら今からやってもいいか」
俺はソファーの上に座禅を組んで、左手と右手を組んで見せる。リリアも同じポーズを取った所で、俺は少し考える。魔力操作を教える時には相手の体に触れて魔力を整えるのが一番効率がいいのだ。ちょっと恥ずかしいけど許可を取ればいいか。
「リリア、ちょっと手を握るぞ」
リリアは無言で首を縦に振る。なんか手を握るの多いけど俺はそういう気持ちないからな! でもリリアの顔ちょっと赤いし、俺も頬が熱くなる。恥ずかしいけどこれは指導だからな! 異世界の勇者だった彼女の冷たい目線を何故か思い出した。あいつに魔力操作を教えてやった時もこんな感じだったな。
俺はリリアの手を握り、リリアの魔力波形を感じる。うん、やっぱり魔力の流れ方が悪い。魔力量がSランク級なのもあって、これだと魔法の暴発が増えるだろう。こういう時は俺が少しだけ相手の魔力を操作して流れを整えてやる。そうすることで身体能力が上がるし、魔力の操作が簡単になる。俺がリリアの魔力に俺の魔力を流すとリリアは何故かもじもじし始める。なんかいかがわしい雰囲気になってるけど絶対そんなことしねえ! 手から腕、腕から肩、肩からお腹、お腹から下半身。体の中で澱んでいる魔力の流れを綺麗にする。リリアはなんか顔の赤さがトマトみたいになってる。俺、悪い事してねえ!
「ガーンーク?」
「ガンク殿?」
何故か庭から顔を出したサラとラーナが俺に冷たい目線を向ける。俺、魔力の流れを整えてるだけじゃん!
仕方ないのでリリアの手を離して、一旦魔力を流すのを止める。
「はう……」
え、リリア、ちょっと喋った? なんかもじもじしてもう一回みたいな顔してるけど、これ稽古なんですけど。サラとラーナがブーブー言いながらあたしにもとかわたくしは除け者ですか? みたいなことを言うのでやってやる。
「あ、ガンクに抱きしめられてる感じする」
「はあ……幸せ……」
なんかサラとラーナのキャラ変わってない?
そしてリリアは目が吊り上がって、笑っているけど笑ってないみたいな目をしている。お前さん、さっきまで恥ずかしがってたのに、なんかキャラ違わない?
結局、三人にせがまれて、魔力の流れを俺が整えることになった。
でもちょっと懐かしい。魔力操作を教えてやった異世界の勇者もこういう顔をしてたからな。それを三人に話すと無表情になった。
「元カノの話?」
「ガンク殿?」
『ガンクさん、最低』
お前達、最初の頃と絶対キャラ違うよな。
てかリリアが一番怖かった。
次話に続く。
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