第二話 ダメおっさん、サラに出会う
あのガキ、わずかに俺の方に視線を寄せて警戒してやがる。
悪くない、悪くないぞ。
だが他の駆け出し冒険者があのガキに絡み始めた。
しかも三人がかりでだ。
「おい、サラ! お前何でおれたちのパーティーに入らないんだ!」
「何よ。貴族の坊ちゃまが冒険者の真似事?」
おいおい。ありゃあ、二日前に俺が絡んだパーティーじゃねえか。
身の丈に釣り合わない派手な飾りのロングソードを持ってたからもしかしてとは思ってたが。
「貴族の坊ちゃまじゃない! 俺はアルトだ!」
「あなた、アルト様に逆らうの?」
「アルト様はいずれ勇者になるんだぞ!」
おいおい。アルト様ってあの歩き方がなってない駆け出し冒険者の事か。
やめとけ。あの目つきの悪いガキとは格が違うぞ。
俺は酒場のカウンターから身を乗り出して、止めに行こうとするミミ―ちゃんを視線で止める。
『ガンクさん、止めてください!』
『言われなくても止めるよ。ありゃあちょっとまずい』
そんな以心伝心を一瞬でした後、俺は立ち上がる。
「おうおう、ひよっこども。そんなに喧嘩がしたいなら、俺が買ってやるぞ」
「飲んだくれのダメおっさんは黙ってろ!」
「あなたはアルト様を説教した酒場のウェイトレスの腰巾着じゃない」
「そんなことは関係ない。お前たちは冒険者だろ。今は冒険者としてしか見られない」
「うるさい!」
アルト様とかいうひよっこは俺に怒気をむき出しにしてくる。
魔力を身に纏っていっちょ前に威圧しているようだが、そんなもん魔族大戦を生き抜いた俺にはへでもねえ。
「ちょっとアンタ。あたしの喧嘩を邪魔しないでよ」
おいおい。このガキもつんつんしてるな。
俺はさりげなく目つきの悪いガキにけん制する。
まあ、いい威圧だったがな。
「おい、ひよっこども。稽古場に来い。まとめて相手してやる」
「良いぞ! 大口を叩いた罪を教えてやる」
「アルト様に不敬な口をきいたな!」
「私の魔法で消し炭にしてあげるわ」
「……」
おっと、ひとりだけ俺を訝しげに見つめている。
「お前も来い」
「嫌だわ。こんな奴らと一緒にされたくないもの」
はあ、つんつんしたガキだな。全くかわいげのない若者は育たないぞ。
「分かった、じゃあ戦わなくていいから戦い方を見てるんだ」
俺は妥協案を出す。俺も若い頃は上から目線のベテランにはイラついたものだ。
しかもこいつは人を信用していない。まあ、こんな飲んだくれのおっさんを最初から信用できないよな。
「ふん。あんたがボコボコにされるのを見てあげる」
「それでいい」
「駆け出し冒険者と飲んだくれのダメおっさんの試合だぞ! どっちが負けるか賭けだ!」
「そんなの決まってる。いつも依頼を受けずに飲んだくれてるおっさんが勝てるわけねえ!」
周りの冒険者たちが色めき立ち、勝手に賭けを始める。
勝手に言ってろ。俺はアルト様なんかに興味はない。
あるのはこの目つきの悪いガキだけだ。
俺の目的はアルト様とやらと戦いながら、立ち回りや剣の振り方をこのガキに見せるだけ。俺の中の赤い血が煮えたぎるのを感じる。久々だな、この感覚は。
俺たちはギルドの裏庭の稽古場に移動する。
ススっとミミ―ちゃんが出てきて、俺に耳打ちする。
「ちょっと、何でガンクさんが戦うことになるんですか」
「すまん。あの目つきの悪いガキに戦い方を見せてやりたくてな」
「もう! 呪いがあるから戦えないっていつも言ってるのに!」
俺が魔族大戦で受けた呪いは重い。
筋力や魔力が10分の1になり、スタミナも10分の1になる。
スタミナは持って20秒。
アルト様はロングソードを振り抜き、ブンブンと振り回している。
隣の片手剣と片手盾を持った男と魔法使いの杖を持った女は俺を睨みつけて、忌々しそうにしてやがる。
「お互いに有効打を与えた時点で試合は終了です! 致命傷を負わせるのは認められません!」
ミミ―ちゃんが審判を務めてくれるようだ。
前衛は片手剣と片手盾を持った男。
中衛にアルト様。後衛は魔法使いの女だ。
俺はあえて背中に背負った大剣を抜かずに挑発する。
「お前らにはこれで十分だ」
「貴様あああ!」
「ちょっと! まだ試合の開始を言ってないですよ!」
前衛の男が走ってくる。
だがダッシュが遅すぎる。
俺は斜めに振るわれた片手剣をぎりぎりで避ける。
フッと一歩後ろに下がるだけだ。
「ッ!」
お、目つきの悪いガキが気づいたようだな。
俺は下がっただけだが、薄く魔力を体に纏わせていることに。
この魔力層は相手との距離感を計るのに役立つ。
魔力層があるから、当たっても問題ない。
これは全力には当たらない。
「俺も行くぞ!」
今度はアルト様が左から切り込んでくる。
やっぱり重心がフラフラしてる。
ロングソードに振られてる状態だ。
次は魔力層を右足に集めて、左にひらりと躱しながら、右足でアルト様の脚を払う。
アルト様はずっこけて、地べたに倒れこむ。
いいか、ガキ。冒険者は足さばきが大事だ。
この試合を見ている冒険者たちは唖然としている。
俺は魔法使いの女に的を絞らせずにアルト様と前衛の男をおちょくるように動く。
だがスタミナが切れてきた。
俺の額に汗がにじんでくる。
「従者! 援護しろ!」
『はい!』
片手剣を持った男が剣を捨てて、俺の体を止める。
「クソ! 退け!」
俺は従者を引きはがそうとするが、膝がガクンと崩れ落ちる。
ちぃっ!
「ファイアーボール!」
まずい。俺は動けない。
火球が俺に向かっていく。
「ッ!」
ん? 急に魔力反応が強くなって、弾丸のように飛び出してきた。
あれは!
「ガキ!」
「あたしはガキじゃない。サラよ」
サラは体に魔力層を纏い、火球をショートソードで切り裂く。
まじか。魔法を普通の剣で斬るのは魔力が多くないと無理だ。
「あんたたち、試合を開始する前に戦いを始めたからまだ試合は始まっていないわ」
「何だって?」
「だからあたしが割って入っても問題ないわよね」
「そこのおっさんに変わってあたしが相手してあげる。あんたたちが最初に喧嘩を売ったのはあたしよね?」
サラは俺をちらりと見る。
「良いのか?」
「フン。あんたが不甲斐ないからあたしが手本を見せてあげる」
口ではつんつんしながらも言葉は楽しげだった。
あれ? 俺がいい所見せて、指導させる流れだったのに?
次話に続く。
小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。




