第一話 ダメおっさん、今日も酒を飲む
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ああ、昼間から飲む酒ってなんでこんなに美味いんだろうな。
「ミミ―ちゃん! エールもう一杯!」
「ガンクさん! 飲み過ぎです!」
「良いんだよ、どうせ依頼も受けないしな」
「誇れることじゃありません!」
ここはマルクの街の冒険者ギルドの中だ。
ガルランド王国の王都から一番遠い町で駆け出し冒険者が集まる街。
俺は冒険者ギルドの酒場で飲んだくれてるってわけだ。
「まーた、ガンクの奴がミミ―ちゃんに絡んでるぜ」
「あいつが依頼を受けてるの一度も見たことないわ」
「昼間から酒飲んでいいご身分だぜ」
他の冒険者からは白い目で見られているが関係ない。
これは俺の仕事の一環だからだ。
ギルドの扉が開き、駆け出し冒険者たちが入ってきた。
俺はこいつらに用事がある。
「おうおう! 駆け出し冒険者がこんな昼間からいいご身分だな!」
俺が酒場の席から大声を出して新人に絡む。
空気が凍り付いた。
「絡み酒のガンクだ!」
「僕達はまだ駆け出しだけど、簡単に依頼をできるからこの時間に来たんだ!」
「大体何よ。昼間から酒飲んでるおっさんが私たちに」
やっぱりこいつらは冒険者を舐めてやがる。
一丁、先輩冒険者の威厳を見せてやるか。
俺が酒場の席から立ち上がり、酒場のウェイトレスのミミ―ちゃんの方を見る。
ミミ―ちゃんは意味ありげなウィンクを送ってくる。
「お前ら三人、俺が相手してやる。こっちの稽古場についてこい」
「良いわよ、こんな酒臭いおっさんに負けない!」
酒場で依頼を達成して、祝杯をあげていた冒険者たちもここぞとばかりに駆け出し冒険者を応援する。
「Cランク冒険者だがそいつはもう依頼を受けてない飲んだくれだから勝てるぞ!」
「やっちまえ! 小僧ども!」
俺と駆け出し冒険者が稽古場に向かおうとしたところでミミ―ちゃんが笑顔で立ちふさがる。
「何だ? ミミ―ちゃん。悪いが俺には大切な用が――ってあだーー!」
「何やってるんですか? 飲んだくれのダメンズ代表ガンクさん!」
俺はミミ―ちゃんに脛を思いっきりけられて悶絶する。
酒場の空気が一瞬固まる。
「貴方たちもなんですか! 駆け出し冒険者は朝から良い依頼を探して、しっかり働いてくるものです! 座りなさい!」
で、出た。泣く子も黙るミミ―ちゃんの説教モード。
俺は何故か一緒に座るよう言われて、正座でミミ―ちゃんの説教を駆け出し冒険者と一緒に受けた。
違う。あそこは俺がしっかり駆け出し冒険者に格の違いを見せてミミ―ちゃんに五杯目のエールをおごってもらう所だったのに……。
「はあ、疲れた」
俺は一時間近くお説教を食らって便所に駆け込んだ。
ああ、駆け出し冒険者のパーティーは反省して、帰ったぞ。
明日は朝から依頼を受けに来るらしい。
男二人、女一人のパーティーだったな。
「で、ガンクさん的にあのパーティーはどうでした?」
便所の外からミミ―ちゃんの声がする。
「ありゃあダメだ。歩き方のバランスが悪い。重心がフラフラしてるから素振りからだ」
「後ろの魔法使いの女の子はどうでした?」
「うーん。若干舌が回ってないな。あれじゃあ、詠唱の時に噛んで使い物にならないぞ」
「そうですよねえ。あの三人は今度呼びつけて稽古場ですね。その時はガンクさんも来てくれますか?」
「いやだよ。俺はエール飲んで飲んだくれてるのが好きなんだ」
そう、俺の仕事はギルド公認の隠れ教官。何と報酬は酒場のエール飲み放題!
とはいえ、少ないながらに金も貰っている。
本当は要らないと言ったんだけどな。
俺はかつての魔族大戦で負った呪いがある。
仲間をかばって受けた呪いだから悔いはない。
だがもう冒険者としては働けない。
困った俺に冒険者ギルドは教官という道を用意してくれた。
だが普通の教官では面白くない。
そこで隠れ教官という仕事を提案してみた訳だ。
駆け出し冒険者に突っかかって行って、そいつの度胸や歩き方、所作から将来性を見抜く。本当に稽古場で戦ったら勝っちまうから酒場の店員のミミ―ちゃんに仲良く説教してもらうわけだ。
「ったく。ガンクさんもたまには依頼を受けて冒険者らしいことしてくださいよ」
「俺はもう無理だ」
「……ガンクさん」
「悪い、もう小便終わっちまった」
「汚いですぅ!」
ミミ―ちゃんが便所の扉から歩いていく音がする。
「俺はもう無理だよ」
そう独り言ちる。あいつの悪魔のような笑みを俺は忘れない。
笑いながら仲間に向けられた呪いをかばった時の全身の痛みが脳裏によぎる。
「俺はもう終わった人間なんだ」
そう呟いて、便所を出る。
それから二日、俺は酒場で飲んだくれながらいつもの仕事をしていた。
一人の目つきの悪いガキが入ってくるまでは……。
「ッ⁉」
あのガキ、一瞬で酒場の人数を把握した。
歩き方は軽やかで素早く動けそうだ。
こちらをちらっと見て腰のショートソードに手をやる。
警戒心も悪くない。そして朝の人が多い時間帯に、堂々と割り込んで依頼を探している。俺は思わずほくそ笑んだ。悪くない。あのガキ。一回試してやろう。
次話に続く。
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