空飛ぶサメは海も守る
港に着くとすぐ、荒波を立てながら泳ぎ回る巨大魚の姿が目についた。
「あのモンスターは鱗が固い。
水上で口を開けるのを気長に待って、矢を口の中に射るしか対処法は無いな」
ダンテが言う。
誰よりも早く弓矢をつがえたセーナは、とても悔しそうな表情をしていた。
騎士団が空中で待機しているのを嘲笑うかのように、巨大魚は魚を次々に食べていく。
なんとかしなくては、とリタも考えていた。
その時、閃きが降って来る。
「フカと私なら巨大魚を倒せます!」
そう言うとリタは自身の鎧を脱ぎ、近くに居た兵士に預けた。
「一体何を……」
「まさか貴女……!」
動揺する兵士達の中で、唯一セーナだけが何かに気付いたようであった。
フカを撫でながらリタは答える。
「よく考えたらサメって水中の生き物じゃないですか。水中戦ならお任せです」
「あー……」
フカという異常個体に慣れすぎて、基本的なことを皆が忘れていた。
漁師の娘であるセーナだけは察するのが早かったようだが。
リタを乗せたままフカは勢いよく着水した。
「ほら、美味しいですよ!」
リタが叫んだり海水を叩いたりして巨大魚の注意を引くと、リタの身長よりも巨大な目玉がフカの姿を餌として捉えた。
瞬間、追走劇が始まる。
「フカ、目的地は分かってるよね!」
ガル、とフカは吠えて応えた。
リタはなるべく体を倒し、フカの泳ぎを邪魔しないように努める。
港からかなり離れた地点で、フカはいきなり海中に潜った。
リタはその背びれを掴み、溺れないように息を止める。
巨大魚が振り向くより速くフカとリタは巨大魚の腹の下に潜り込む。
フカの背びれが光り、同時にフカは振り上げた尾びれを巨大魚の腹に叩き付けた。
小鬼を食べて得た怪力を発揮したのだ。
巨大魚は空高く放り上げられたかと思うと、海中から躍り出てきたフカによる追撃を喰らって近くの無人島に打ち上げられた。
「倒したのか!?」
騎士団の皆が天馬に乗って無人島に駆け付ける。
見れば、巨大魚は虫の息だ。
「はい。私達、フカに慣れすぎて感覚が変になってたかもしれませんけど……普通の魚は水中でしか生きられないんです」
「あー……」
その横でフカは、巨大魚の舌を食べて何やら能力を得ていた。
詰所に帰って来てから、リタはセーナから声を掛けられた。
「リタ、フカ。漁業を助けてくれてありがとう」
「お、お礼なんていいのに」
「私は漁師の娘だからこそサメの怖さを知っているし、畏敬もしているわ。
だからフカの実力を認めた上で問いたい。
リタはいざフカが暴れ出した時、制御出来る実力を持っているの?」
「あの、フカは私の大切な相棒で……」
「今はリタの話をしているのよ」
そしてセーナは、リタに木剣を渡した。
「私と勝負して。
貴女がサメ頼りの兵士じゃないか、フカを制御する力を持っているか、見せてちょうだい」
「……分かりました」
心配げなフカを下がらせ、リタとセーナは向かい合う。
セーナの突きを皮切りに、打ち合いが始まった。
しかしリタも負けてはいない。
貴族に戻るという夢に加え、今はフカという戦場で守るべき相棒が居る。
リタの剣さばきは、フカと出会う以前の比ではない程に鋭かった。
セーナが少しずつ後退させられるくらいに。
しかしセーナが半歩横にずれた途端、リタは勢い余って転んだ。
その背中に木剣が振り下ろされる。
瞬間、リタは地を転がってセーナの攻撃を躱した上に、セーナの足に木剣を当てていた。
「……リタの勝ちだ」
いつの間にか観戦していたダンテが言う。
「……拙いところもあるけれど、機転と根性は私以上だわ」
セーナも、リタを起こしてやりながら呟いた。
「色々と小言を言ってしまって悪かったわね、リタ。
貴女はフカを駆るに相応しい強い兵士になったわ」
「いえ、そんな!
皆が警戒する気持ちも分かります。
こちらこそ、フカと私のことを認めてくれてありがとうございます」
「正式な場以外では私に敬語は使わなくて良いわ」
「……うん、ありがとう、セーナ」
拳を突き合わせる少女二人を見て、ダンテは苦笑する。
「友情ってやつか?」
それにフカはひとつ頷くと、リタとセーナの元へ飛んで行った。
そして二人に貝殻を渡す。
「無人島で拾ってたの? 綺麗だねえ」
「わ、私も受け取って……良いのかな……?」
「勿論。二人と一匹の仲良し記念にしようね」
御伽噺の王子様のように美しい青年が、剣を磨きながらぽつりと呟いた。
「また会えるのか……楽しみだ……」




