空飛ぶサメの存在証明
トルーソン湾に集合した騎士団は、セーナの話を聞くことにした。
「ここトルーソン湾では重いものは高く、軽いものはさらに高く跳び上がります」
セーナが言う。
その原因はトルーソン湾の重力異常や地盤のばねの強さだが、リタ達の文明では知る由はない。
「交戦したシノビの中に一体だけ、トルーソン湾で跳躍力の低い個体が居た。
そいつがシノビの分身の大元、本体ではないかと」
「つまり、体重の軽い分身どもをいくら倒しても無意味ということか」
「じゃあもう一度シノビ達を湾に集めて……」
「いや、私が斬りかかったことで奴らにもこちらの発見がばれたかもしれません。
あの時、私が逃がしさえしなければ……」
切歯するセーナに、リタが言う。
「私に考えがあります。
こういう時の切り札こそ、フカの役目ですから」
ガオー、とフカも同意するように胸びれを上げた。
セーナは何か言いたげであったが、口を噤む。
「作戦はこうです。まず……」
王立騎士団、そして応援に来た周辺領の騎士団が天馬を駆ってシノビを追い詰めていく。
集めた先は、坂になった大通りだ。
そして坂の下には、リタとフカが待機していた。
「フカ、お願い!」
リタの号令と共に、フカが今日一番の咆哮をあげながら吹雪を吐いた。
雪獣を食べた時に獲得した能力だ。
あまりの威力にシノビ達は煽られ、舞い上がるが、一体だけ重い個体が居た。
「そいつだ!」
セーナは今度こそ仕留めんと、吹雪の向きも計算に入れて矢を放つ。
それはシノビの親玉に見事命中し、周りの分身達は霧のように掻き消えた。
「犠牲者を出さずにシノビを倒したぞ!」
「やったな、セーナ」
「リタとフカの作戦も良かったぞ」
周囲が囃し立てる中、ダンテがフカの元にシノビの亡骸を持って来た。
「食うか?」
フカは背びれをぴんと立てて、シノビの脇腹に齧り付いた。
すると背びれが光る。
また新しい能力を手に入れたのだ。
「……そのサメ、どんどん強くなるわね。人間に扱いきれれば良いけど」
セーナが呟く。
それに対してリタは頭を振った。
「フカは人間の悪意で暴れる兵器でも、常に腹ペコの殺戮者でもありませんよ。
厳しい野生の輪から外れたことで、本能じゃなく意志で生きているサメ。
私の大切な相棒です」
「……そう……」
朝からリタとフカは、部屋に落ちているフカの歯を拾っていた。
サメの歯はすぐ生え変わる。
抜けた歯を集めてコレクションしているのだ。
「またやってるわ。そんなの集めてどうするつもり?
アクセサリーにして売るとか?」
開け放たれていた部屋の前を通りかかったテレサが言う。
リタはふくれっ面で振り向いた。
「売らないもん」
「あら勿体無い」
「売る方が勿体無いじゃん」
「じゃあ何に使うのよ、その大量の歯」
「とっておくの」
「はあ……」
その後、リタとフカは騎士団の詰所へ向かう。
次第に町の人はフカを見ても驚かなくなっていた。
リタが没落令嬢呼ばわりされるのは、相変わらずだが。
「リタ。フカが今持ってる能力ってどれだけあるんだ?」
詰所は出動命令がなく、定期偵察の時間になるまでは平和そのもので、兵士にそんな雑談を振られた。
「ええと、怪力でしょ、糸、炎に吹雪、まだ使ったことはありませんがシノビを食べたので分身も手に入れているはずです」
「へえ、フカは百人力だな」
「フカに甘えちゃ駄目ですよ!
フカの能力は一時間に一分しか発動出来ませんし、何より私達騎士にだって自立心という誇りが」
「はいはい」
話していると、詰所の門扉が激しく叩かれた。
門番が扉を開けると、そこには壮年の男達が数名、焦った様子で居た。
「どうされましたか」
ダンテが出て行って訊ねると、男達は捲し立てた。
「今、海に時空の歪みが現れたと思ったら巨大魚が出て来て、魚を食い始めた!
このままだと俺らの取り分を食い尽くされちまう」
「騎士団さんが倒してくれないか」
すると、激しい音を立てて床几から立ち上がった者があった。
青褪めたセーナであった。
「大変。すぐ行くわ、父さん」
「頼むよ、セーナ」
リタは知らなかったが、セーナは漁師の娘だったのだ。
リタは拳を握り締め、フカに言う。
「フカ、漁師さん達の役に立てるよう頑張ろう!」
フカは鳴いて飛びあがる。
リタはフカに跨ると、天馬に乗った騎士達に付いて港へと向かった。




