空飛ぶサメVSシノビ
騎士団の詰所に着くなり、リタとフカは昨夜会った女神シャラナのことをダンテとジェネに報告していた。
「女神シャラナ……聞いたことがないな」
ジェネの言葉に、ダンテも頷く。
「あの、よろしいでしょうか」
リタの背後から声がする。
振り向くと、そこには書類を抱えたセーナが立っていた。
「セーナ。ご苦労。どうかしたか?」
書類を受け取りながらダンテが訊くと、セーナは不審なものを見る目をリタとフカに向けた。
「どうしてリタがシャラナ神のことを知っているのですか?
シャラナ神は漁業関係者の間でのみ信仰されていて、一般にはほとんど知られていないんです」
「昨日会ったから……」
「会ったですって?」
リタの答えに、セーナはますます怪訝な顔をする。
「はい。シャラナ様がフカを別の世界からこの世界に生まれ変わらせたって」
「海の女神ならばサメの転生に関わったのも納得はいくか」
ダンテは冷静に考えている。
「時空の歪みから発生したんじゃなくて、女神様が送り込んだなら、フカが危なくないって証拠になりませんか?
フカの優しさはシャラナ様お墨付きですよ」
「確かに、漁業と関係のない貴女がシャラナ神の名を知っているというのも妙だから、一定の信憑性はあるけれど……だからってサメを安全だと認める訳にはいかない」
「でもフカは……」
リタとセーナの話を遮るように、町から通報の鐘が聞こえてきた。モンスターが出た時の音だ。
騎士団が出撃する。
中にはセーナ、リタとフカの姿もあった。
リタ達が町で見たのは、逃げ惑う人々に菱形の小刀――リタ達は知る由もないが手裏剣というものだ――を投げる黒衣の人型モンスターの群れが、辺りを埋め尽くす様子であった。
「あれは、シノビ!」
ダンテが叫ぶ。
「シノビ……確か千年前に一度現れたきりの強力なモンスター」
「千年前は国中の騎士団を総動員して、人海戦術でどうにか殲滅させたというけれど」
資料で読んだことはあったが実際に対峙することになるとは、とリタやセーナなどは冷や汗をかく。
「増援を求める狼煙は上げた。我々はやるべきことをやるぞ」
「はい!」
騎士団はシノビの群れに斬り掛かる。
シノビ達はあっけなく斬れたが、また次のシノビがどこからともなく現れる。
そして彼らは分身して二倍、三倍の大群に増えた。
「分身した!?」
焦るリタの下でフカがシノビを一体食べた。
しかし背びれは光らない。
それを見たリタは首を傾げる。
「食べてもフカの能力が増えないモンスター……?」
考える間もなく、シノビは町中へ散って行った。
避難中の人々がどんどん襲われていく。
「陣形が伸びきってもいい、目の前の人命を優先しよう」
ダンテの苦渋の一言で、騎士団はシノビを追って散らばった。
リタは剣で、フカは強靭な顎でシノビを次々に倒していく。
跳び回るフカがシノビと同じくらい町の人の悲鳴を浴びているのは、仕方ないことだ。
しかしシノビの分身速度は速く、さらに手裏剣の狙いが正確なこともあってリタはただ消耗し、生傷が増えていく。
フカが少しだけリタを振り向いた。リタは微笑む。
「大丈夫、本当に辛くなったら治療するからね」
するとフカは満足そうに頷き、また一体シノビを食べた。
その時、道に転んでいる子どもを見付けた。
子どもを掬い上げようとぎりぎりまで低空飛行になった瞬間、背後に影が迫った。
建物に貼り付いていたシノビがリタとフカ目がけて飛び降りてきたのだ。
避けられない、と思った時、空中でシノビが串刺しになった。
御伽噺の王子様のような美青年が、剣でシノビを突き刺していたのだ。
「大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます」
「この子は僕が避難させるから安心して」
美青年は子どもを担ぐと走り去って行った。
「今の人、フカを怖がらなかったね」
言いながら、リタは迫り来るシノビ達に向き直った。
人々を助けているうちに、セーナはトルーソン湾なる場所まで来ていた。
セーナも傷だらけであり、特に手裏剣が胸に刺さった傷は酷かった。
「シノビの跳躍力の限界は四メートルってところね」
セーナは天馬を地上六メートルくらいの所で静止させ、一角獣の角の粉を取り出そうとした。
しかし次の瞬間、セーナの視界に飛び込んできたのは自身の三六〇度を囲んでいる大量のシノビであった。
「……!」
セーナは天馬を急上昇させ、シノビの輪から逃れる。
心臓が早鐘を打ってはいたが、敵の観察は欠かしていなかった。
一体だけ、ジャンプ力が少し低いシノビが居る。
『そうか、このトルーソン湾は……!』
セーナはその一体を追うが、他のシノビに執拗に妨害されて逃してしまった。
しかし千年前の人々も見落としていたかもしれない重要なことに気付いたのだ。
セーナは角笛を吹き、騎士団を集めた。




