空飛ぶサメVS『鉄の船』
リタとフカは再び、王城の謁見の間に居た。
「リタ・ファルト。度重なる功績により、貴殿を騎士に任命する」
王が読み上げた。そう――今日、リタは騎士になったのだ。
王城を出ると、待ち構えていた家族と友人達が迎えてくれた。
「夢への第一歩だな。リタ、フカ」
「貴方達なら叶えられるって信じてたわ」
そう言ってリタとフカを抱き締めるのが、ナルカとアデル。
「史上初のサメ騎士かあ! これはきっと外国にも名が知れ渡るぜ、ひゃっほう!」
ヴェイルは目を輝かせている。
それを呆れ気味に眺めているセーナに、テレサが訊ねた。
「あの殿方がヴェイルさん? いつもあんな感じなんですの?」
「はい。フカが絡むと、それはもう」
「……あれが義弟になったらどうしましょう……」
「心中お察しします。まあ、本人たちが色々と無自覚みたいですけど……」
その後、リタとフカ、セーナとヴェイルは騎士団詰所へ、ナルカとアデルとテレサは町へ買い物に向かった。
「リタ、フカ。おめでとう!」
詰所に着くなり、騎士団の面々が祝いに駆け付けた。
「あ、ありがとうございます! 次は貴族を目指して頑張ります!」
「ははは、リタは相変わらず志が高いなあ」
話し込む人間達の隣で、フカも吠えた。
話の輪に入りたそうにしつつも櫓で見張りを続けていた兵士が、唐突に声をあげた。
「皆、海上に時空の歪みが発生した!
あまりにも大きい……それが、なかなか消えないぞ!」
「すぐ確認に向かう!」
ダンテとジェネが真っ先に天馬で飛び上がり、兵士が指す海の方を見た。
途端に、歴戦の彼らの顔が青褪める。
「あれはモンスター……なのか……?」
「リタ! まさかとは思うが、あれを見てくれないか」
ジェネに請われ、フカに跨ったリタは空中へ浮上する。
そして見えた物に、目を瞠った。
「これ……『鉄の船』です……」
「鉄の船って、屍と戦った時に時空の歪みに触れて見たっていう?」
いつの間にか隣に飛んで来ていたヴェイルが心配げに言った。リタは頷く。
「うん……」
鉄の船――空母と呼ばれるそれだがリタ達の文明では理解出来る筈もない――は、十隻も出現した。
「とにかく、あれに対処しなくては……連絡係は他の騎士団にも協力を要請してくれ。総員出撃だ!」
ダンテの号令で、兵士を乗せた約百頭の天馬と一匹のサメが、一斉に飛び上がった。
港では既に人々が母艦を眺めに集まっていた。
母艦の上には武装した人間達が居て、リタ達が近付いてみると聞いたこともない言語を話している。
やがて彼らは耳に何やら機器を付けると、リタ達の国の言葉で話し始めた。
「我々はこの異世界に奴隷を求めてやって来た。ただちに降伏することを求める」
「そんな要求を呑める訳がないだろう! 私達を何だと思っている」
ジェネが言い返した。
騎士団どころか、メア王国の総意だ。確認するまでもない。
「ふむ。ならば蹂躙あるのみだ」
微笑んだリーダーらしき男の目の前に、ふわりと白いドレス姿の女が現れた。女神シャラナだ。
シャラナは怒りのままに叫ぶ。
「奴隷を求めて時空転移の実験を行い、異世界人の文明レベルを劣っていると見なすなり率直な物言いで宣戦布告とは……許せません!」
「何? 時空転移の実験って……」
「まさか最近新種のモンスターや珍しいモンスターが妙に多かったのはそれが原因?」
騎士団が口々に云う。
一方でシャラナが手を翳すと、空母を乗せた海がぐらついた。
しかし軍人が銃を取り出し、そこから放たれた雷がシャラナに当たると、雷に彼女は捕らえられて海の揺れも収まった。
「シャラナ様!」
「この電気銃、霊体を捕らえる物だわ……!
人間は勿論、天馬やサメには効かない物よ、私のことは構わずに安心して」
「っ……必ずお救いいたします!」
騎士団が戦う決意をした時、空母から戦闘機が飛び立った。その速度に天馬もフカも追いつけない。
そこでフカは胸びれを蛸の触腕に変化させて先回りさせ、戦闘機を一機掴んだ。
「やった!」
喜んだのも束の間、戦闘機からミサイルが投下される。
港が破壊され、粉塵の中を人々や天馬が吹き飛ばされていく。
リタとフカも近くの建物の壁面に強かに打ち付けられた。
死者だけは出なかったのが幸いだ。
初めて見る火薬の音と威力に、ダンテですら震えが止まらなくなっていた。
フカは傷付きながらも、もう一度蛸の触腕を振り上げようとしたが、リタが止めた。
「勝機が見えないうちは敵を刺激しちゃ駄目。フカも無茶はしないで……」
その言葉にフカは納得してくれる。
フカの背びれから光が失せ、胸びれも元に戻った。一分間の能力が切れたのだ。
するとヴェイルとシアが側に飛んで来た。
「リタ、フカ様。無事で良かった」
ヴェイルが言い、シアもフカの頭を舐めてくれる。
「リタ! フカ! 大丈夫だった!?」
町で買い物をしていたテレサ、ナルカ、アデルも、わざわざ駆けつけてくる。
「あのサメと嬢ちゃんが軽傷で良かった……俺はあいつらに助けられた身だからな」
「ええ。最初は怖かったけど……今は大切な恩人です」
いつぞや助けた冒険者達が、他領の騎士団員が、子どもが、漁師たちが、農家の人々が、貴族達が、自警団が、リタとフカの無事を喜んでくれる。
最初はフカを警戒していたダンテ、ジェネ、セーナら王立騎士団は勿論だ。
その時、フカの全身が輝き出した。
「な……何!?」




