空飛ぶサメは英雄になる
フカ自身、何故輝きだしたのか分かっていなかった。
ただ、驚きと共にその口から炎と吹雪が同時に漏れる。
「フカ、今……二つの能力を同時に使えたの!?
さっき能力を使ってからまだ一時間も経ってないのに!」
リタが異変を口にした。
それを聞いた軍人達は眉根を寄せる。
「さっきのB級サメ映画野郎の……能力が何だって?」
しかしシャラナだけは笑っていた。
「そうだわ……私達は、サメ映画の尺とサメが映っている時間の比は一時間対一分だと思い込んでいた。
サメは人間にとって敵であって、そこにドラマは無いからよ。
でもフカはそれを超えて制約を破ったんだわ!」
「つまりフカ様は僕達にとっての! 騎士団にとっての! 国にとっての英雄ってことですね!」
ヴェイルがはしゃいだ。
リタはフカに跨り直すと、まさに人鮫一体といった感じで飛んで行く。
フカはまず町を覆うようにバリアを展開した。
そして分身すると、その分身全ての胸ビレを蛸の触腕にして戦闘機を次々に叩き落とす。
戦闘機はバリアの上に叩き付けられて爆発した。
さらにフカは頭を増やすと、全ての口から炎や吹雪を吐いて敵機の数を減らしていく。
バリア越しに町の人々の声援が響いた。
リタの目は護衛艦に留まる。
「フカ、大きな船からは鉄の鳥が飛び立つだけだけど、あの小さな船達は大きな船を守るように配置されている気がする。気を付けて」
するとリタの忠告通り、護衛艦から機関砲が放たれた。
フカは胸びれをチェーンソーに変化させると、砲弾を叩き斬った。
そして軍人達が撃ってきたレーザー銃が肌を掠めても、竜種由来の耐火能力で無傷でいる。
フカが吠えると、その音波で軍人は思わずレーザー銃を手放す。
その銃をフカは食べ、口から放ったレーザー光線で護衛艦の装置を次々に壊していった。
「フカ……大きな船の上の塔に、鉄の鳥に指揮をしてるっぽい人が居る! あれを叩くよ!」
リタは管制塔の存在に気付き、フカに指示を出した。
フカは幻覚を展開し、管制塔の視界を奪う。
ステルスで戦闘機からの追撃を逃れ、吐いた蜘蛛の糸で管制塔をぐるぐる巻きにする。
「鉄の鳥の動きが鈍った! 今のうちに畳みかけよう!」
最後は怪力で正面から戦闘機を破壊し、完全に敵の戦力を削ぎきった。
「笑え、クソ野郎!」
テレサが、呆然としている軍人達に野次を飛ばした。
フカがバリアを解除すると、戦闘機の残骸が町に緩やかに降り注いだ。
その中から、無傷のパイロット達が出て来た。
「……フカ、敵のこともバリアで包んで守っていたのね」
セーナが呟く。
ダンテとジェネが飛んで行き、軍人の中でもリーダー格と思しき数名に縄をかけた。彼らはメア王国で裁かれるのだろう。
電気の縛めから解放されたシャラナも、それを見守っている。
リタとフカと擦れ違う時、リーダー格の一人の男が言った。
「何故殺さなかった」
「私とフカが最強の騎士だからです」
リタは真っ直ぐな目を彼に向けて答える。
男は鼻で笑った。
「その気になれば我々など一捻りと言いたいのか」
「いいえ。優しさこそが強さの証だということです。どうか罪を償って、それが分かる人になってください」
「フカ、今日はトウモロコシの収穫祭だよ。楽しみだね」
リタが語り掛けると、ガオ! とフカは答えた。
異世界からの襲撃者を退けた後、リタは男爵に任じられ、アリスタの家名と名誉を取り戻していた。
領地は貰えなかったが、それで十分だ。
「これ、ヴェイルとセーナへのお土産にしなさい」
テレサがリタに焼き菓子を持たせた。
テレサは王子に再会して釈明の機会を貰った。リタが姉をそれほど大切にするのには理由があるのだろうと――リタに免じて二人は和解したのだ。
「わあ、ありがとう姉さん――ん?」
つんつんと、フカがリタの手を引っ張る。
フカが指す方を見れば、モンスター出撃を伝える狼煙が上がっていた。
「収穫祭の前にひと仕事だね。行くよ、フカ!」
少女とサメの影は一つになり、青い空に溶けていった。
了




