空飛ぶサメとシンシアの花
薄紅色のドレスに身を包んだリタと、首に特注のジャボタイを巻いたフカが、馬車に乗ってドレイク領にやって来る。
邸宅の門扉には、既にヴェイルと執事が待ち構えていた。
「いらっしゃいませ。フカ様、リタ様」
ヴェイルが改まってエスコートしてくるので、フカはともかくリタはどぎまぎしてしまう。
「あ、はい、お迎えいただきありがとうございます」
馬車を降りたリタとフカは、ヴェイルと執事に連れられて裏庭へと回って行く。
道中、リタは話し掛けてみた。
「後継ぎなら騎士団がお休みでも忙しいだろうに、私とフカのために時間を作ってくれて嬉しいな」
するとヴェイルは微笑みを返す。
「他領なら昼食時に衆議と会議をするなんて話も聞くけど、ここはそんな必要もないくらい治安が良いから」
「それに、執務は昨日のうちに終わらせておりましたものね。今日はゆっくりお楽しみあそばせ」
執事が口を挟むと、ヴェイルは子どもが拗ねるような表情を彼に向けた。
歩いていくと、白い天蓋のように咲き誇ってガゼボを包むシンシアの花がリタとフカの目に飛び込んできた。
「綺麗……!」
リタが感嘆すると同時にフカも吠える。
「曾祖父が植えた、思い出深い木だよ。
さあ、早速お茶にしましょう。フカ様のためにトウモロコシも用意してありますよ」
ヴェイルの言う通り華やかなテーブルの上にティーパーティーセットと共にトウモロコシが乗っているのを見て、リタは思わず破顔した。
トウモロコシを食べるフカ、草を食むシア、茶と焼き菓子を口にするリタとヴェイルで和やかな空気が流れる。
「そういえばシアちゃんの名前ってシンシアの花に似てるよね。
もしかして、そこから取ったとか?」
「鋭いなあ。実はそうなんだ」
「曾祖父様のことが本当に好きなんだね」
「うん。僕と曾祖父は凄く仲が良かった……。
曾祖父は特にパペットで色んな即興物語を作って演じるのが上手くて、幼い僕の一番の楽しみがそれだった。その中にはサメのパペットも居た。
パペット達は今でも僕の大切な友人だ」
「それが、フカを好きになってくれた原点……だったりするのかな」
「多分ね」
その時、側に控えていた執事が叫んだ。
「あれは時空の歪み!」
彼の指す方を見ると、ガゼボのごく至近距離に時空の歪みが出現していた。
歪みから現れたのは、合成獣。
「ここには合成獣……いや、モンスター自体出たことなんて無いのに!
これも騎士団長の言う異変なのか」
呟きつつ、ヴェイルはシアに跨る。
カッと合成獣の口が開かれ、そこから炎が溢れ出した。炎はシンシアの木に向かう。
「あ……」
さしものヴェイルも絶望しかけた瞬間、バリアが木を覆った。
「フカ様……!」
「花を焼かせはしない!
ヴェイルとシアは上空へ炎を引き付けて!」
「分かった!」
リタの指示通りヴェイルとシアは上空へ舞い上がる。
合成獣は彼らを追って首を擡げた。
リタとフカは地面すれすれを低空飛行し、合成獣の腹の下に滑り込んだ。
天馬では成し得ない、サメのフォルムだからこそ出来ることだ。
そのままリタは合成獣の腹を剣で切り裂く。
よろめいて炎を吐くのを止めた合成獣の隙を衝いて、ヴェイルも合成獣の頭に剣を突き刺す。
すると合成獣は倒れ、沈黙した。
「……前は三十人くらいでも苦戦した合成獣に……今は二人でも勝てるようになったんだ」
リタは拳を握り、喜びを噛み締めた。
フカもリタの成長を祝うように辺りを漂う。
「花を守ってくれてありがとう、リタ。
でも頭から血を浴びてしまったね……ドレスと風呂を貸すよ」
ヴェイルが申し訳なさそうに言った。
リタはその申し出に甘えることにする。
「うん、じゃあ遠慮なく。
髪を乾かしている間に、曾祖父様のパペットについてもっとお話ししてほしいな」
「ええ。……もう、本当に優しくて危なっかしい人だね、リタは」
「大丈夫、私は腕に自信があるから! フカだって居るし」
「僕も居る」
「え」
リタはヴェイルの言葉の意味を掴みかねた後、やっと『理解』して返事をした。
「うん、これからも一緒にモンスターから皆を守ろう!」
シアとフカが同時に溜め息を吐いた。初めてこの二匹の思いが一致した瞬間だった。




