空飛ぶサメの王様護衛
リタとフカ含む王立騎士団は、王の乗る馬車を囲んで低空飛行していた。
王――テレサの義父になるかもしれなかった人。
そして近い将来、リタに騎士号と爵位を授与する筈の人。
コネも何も無いが、リタの人生計画はそうならなくてはならないのだ。
考え事はしつつも、常に周囲に注意を巡らせる。
その時、目の前の兵士の体が天馬から浮いた。
ちょっと尻を浮かせた程度ではない、兵士だけが宙に浮いている。
しかも一人二人ではなく、二十余人がそうなっていた。
「何事だ!」
「分かりません、急に上から吊り上げられて……うああ!」
宙吊りになった兵士達の体から、激しく血が噴き出した。
「何だ!?」
「とにかく、この訳の分からん現象を王様に近付けるな!」
騎士団は盾を構え、馬車の周りでスクラムを組む。
「この攻撃、人面鳥の可能性が高い。
数十年に一度しか出現しない上に、透明になれる生態のせいで情報が殆ど無いが……」
ダンテが言った。
するとリタが手を挙げる。
「あの、フカが人面鳥を鼻先で追っているみたいなんです!
もしかしたら敵が透明でもどこに居るか追えているのかも」
フカは鼻先にあるロレンチーニ器官で、生体電気から人面鳥の居場所を探知しているのだが、リタ達がそれを知る由はない。
フカは空中に向かって糸を吐いた。
木々を支えにして、糸は張り巡らされる。
糸がたわみ、人面鳥の姿は見えずとも居場所が分かるようになった。
「今だ!」
ダンテとジェネが矢を連射し、次々に人面鳥を射落としていく。
糸を振り払って逃れた者も居たが、そいつらには陽光を浴びてきらめく糸が纏わり付いたままだ。
位置なら分かる。
「行くよ、フカ!」
リタの号令と共にフカは舞い上がり、人面鳥を捕食した。
辺りには、透明化の解けた人面鳥がうず高く積もっていた。
王を無事に目的地まで送り届け、騎士団は邸宅の庭で休憩をとらせてもらう。
するとリタを呼ぶ者があった。ダンテだ。
「リタ、フカ。国王陛下からのお呼び出しだ」
「!? はい……」
リタとフカは謁見の間に通される。
緊張気味に待っていると、奥から王――コーレウス王がやって来た。
緊張するリタとフカに、王は低い声で話し始める。
「リタ・アリスタ……いや、今は家名を剥奪されてリタ・ファルトか。
随分と騎士団に信頼されているようだな。
珍妙な生物に乗っているわりに……」
「はい、フカは私の想いに応えて、共に知恵や勇気を振り絞ってくれる家族です。
騎士団の人達もそれを認めてくれています」
ギャオ、とフカが一礼した。王は顎を撫ぜながら考え込む。
「リタは何故、騎士団に入ったのだ?
元貴族の令嬢にはいささかきつい仕事と見受けられるのだが」
「もう一度貴族に上り詰めて、家族をもう誰にも嗤わせないためです!」
リタの言葉に、フカも頷いた。
「しかし君の姉、テレサはお世辞にも善良とは言えない。それでも、彼女のために戦うのか?」
「はい! 私は姉と王子様の間には誤解があったのだと信じております」
テレサが蜂を追い払おうとして誤って令嬢を突き落としてしまった――リタとテレサが何度釈明しても聞き入れられなかった真実だ。
王は深く息を吐いて言う。
「……テレサ嬢にもそこまで強く想ってくれる家族が居るのだということ、息子の耳には入れておこう。
護衛での活躍は見事であった。帰路も頼むぞ」
「……ありがとうございます。誠心誠意尽くさせていただきます」
リタとフカは平身低頭した。
謁見の間から出て行くと、セーナとヴェイルが待っていた。
「リタとフカ、国王陛下と謁見なんて凄いわ」
「謁見の間に入ったサメとかフカ様が始めてじゃね!? まじやっべー!」
ヴェイルは例の如く興奮している。
そんな彼を、セーナが小突いた。
「リタとフカに用事があるんじゃなかったの」
「あ、そうだった」
ヴェイルは急に、いつもの紳士に戻る。
「リタとフカ様、今度の休みに僕の領地に遊びに来ないかい?
丁度シンシアの花が綺麗に咲いているから、花見でもどうかな」
シンシアの花といえば、春の風物詩とも言える白色の木花だ。
「うん、フカと見に行きたい! セーナも来れる?」
「私は……その日は用事があるの」
「そっかあ」
「まあ、二人と二匹で楽しんでらっしゃい」
「うん。お菓子持って行くよ。休み明けにセーナにも渡すから」
その日から五日間は大した事件もなく、とうとう約束の日がやって来た。




