空飛ぶサメVS大蛸
リタは騎士団の詰所でヴェイルと鍛錬をしていた。木剣を打ち合っているうちに、視界が暗くなってくる。
『嘘、立ち眩み……? 元気がとりえの私に限って?』
不思議に思っていると、ヴェイルが叫んだ。
「待って、リタ! 視界が変なんだ……何だか暗い」
二人はパッと打ち合いを止める。
「え、ヴェイルも?」
「も、とは何だい!」
「いや、私だけが立ち眩みでも起こしているのかと」
「それだって言わなきゃ駄目だろう?
全く……でも今は別件のようだ。黒い気体がどこかから流れてきているようだ」
「黒煙とか? 近くで火事かな」
二人が不安げに話していると、櫓で監視をしていた兵士が叫んだ。
「モンスターが海中より出現、黒い靄を吐きながら上陸! 赤い触手……いや、あれは大きな蛸です!」
「大蛸!?」
騎士団員は驚愕する。
「また未知のモンスターか!」
ダンテが言った。
彼はすぐに隊を組織して、大蛸が上陸した港へ向かう。
その中にはリタとフカ、セーナ、ヴェイルの姿もあった。
すぐ現地に到着した騎士団は、剣を抜き大蛸に向かう。
「黒い靄は墨が霧状になったものだったのね」
セーナが言う。
大蛸は騎士団に脚を振り上げた。
「墨を避けて、風上から攻撃するぞ!」
ダンテの号令と共に騎士団は突撃したが、大蛸の方もしつこく風上を取り続け、霧状の墨を吐く。
そして何故か大蛸はリタとフカを避けて、他の団員を攻撃した。
黒霧の合間から突然現れる脚を殆どの者は避けられなかった。
脚に弾き飛ばされた仲間達を背に、リタはフカを駆る。しかし大蛸はリタとフカからは逃げ続けた。
「何で逃げるの!?」
「リタ、蛸は賢い生き物って言われてるの!
だからサメを危険視して近付かないのかもしれないわ」
セーナが気付いて忠告した。
リタはフカから飛び降りると剣を構える。
「フカはここに居て。私一人だけでも皆を支援してくる」
そう言ったリタの手を、フカはかつてなく強く引いた。
一瞬戸惑ってから、リタは思い出す。
「……そうか。無茶しないって約束してたんだったね。ごめん。止めてくれてありがとう」
しかし無慈悲にも墨の霧は濃くなり、大蛸の脚はより激しく暴れ回る。
リタを一人で戦わせたくはない。
ならば何か代案はないものか。
そして閃いたフカの背びれが光った。
フカは一際大きな声で吠える。
すると霧が急に水になり、雨のように地面に落ちた。
「霧が晴れた! 今のうちに!」
リタとフカを除く騎士団が一斉に突撃する。
霧さえ無ければ、歴戦の兵士と天馬はあっという間に大蛸の胴に届き、討伐が完了した。
「フカ様、さっき霧を水にしたのは何だったんですか!?」
興奮気味にヴェイルがやって来る。
リタは少し考えてから言った。
「消去法からして、人魚を食べた時に手に入れた『音』の能力だ」
「ああ! 音は波のようなものだって説を聞いたことがありますよ。
音の波が霧の細かな粒をぶつけ合って、固めて水にしたのかも」
「そうなんだ!」
ダンテに貰った大蛸の肉を食べるフカを撫でながら、リタは考える。
怪力、糸、炎、吹雪、分身、バリア、幻覚、チェーンソー、音波、そしてまだ使ったことのない多頭蛇と大蛸由来の能力。
これだけの切り札があれば、もしあの『鉄の船』が来ても戦えるだろうか。
後日、詰所でダンテが集会を開いた。
「国王陛下が郊外へ出立されるので、護衛隊を組織する。まず私とジェネで指揮を執り――」
王の護衛にはリタとフカ、セーナ、ヴェイルも組み込まれていた。
「今までにないタイプの任務だ。
頑張ろうね、フカ」
リタはフカと、手と胸びれを繋いだ。




