空飛ぶサメVS沢山の頭
リタとフカ、ヴェイルとシアは定期偵察のためにグラント山なる山に来ていた。
岩だらけの山肌を見下ろしながら、二人はぽつぽつと話す。
「シアちゃんが一番喜ぶことって何ですか?」
「ブラッシングだよ。
シアはとにかく綺麗好きなんだ。
フカ様のお体もいつもお美しいけれど、何かケアをされているのかな」
「フカは毎日お風呂に入って歯磨きもするの。
結構喜んでるんだ」
「お風呂にサメ!? パないっすね!」
「確かに、冷静に考えたらパない!」
「でもうちのシアも別方向に凄いよ。
この間の休みにシアを花畑に連れて行ったんだけど、なんというかもう……神々しく輝いて見えてね。
思わず絵師を呼んで一枚描いてもらったよ」
「それは気になる!
もし今度お花畑に行くならご一緒したいなあ」
「是非!」
リタにとってヴェイルは、家族と同じくらい話しやすい存在になっていた。
相棒に向ける熱量、美しいと思うもの、そんなところが似ている。
しかし二人とも親友である以前に戦友だ。
眼下にモンスターの影が見えると、二人はすぐさま真剣な眼差しになった。
モンスターというのは、七つの頭を持つ蛇であった。
「あれは多頭蛇……五百年周期で現れる珍しいモンスターだな。
今はまだ周期がくるには早すぎるのに、どうして」
ヴェイルは首を傾げる。
「とにかく倒し方は分かってる!
心臓が首一つ一つにあるから、そこを狙えば良いんだ」
リタはフカから降りると、岩陰に潜んで矢をつがえた。
「フカ、分身して多頭蛇を翻弄してきて」
リタが頼むと、フカは何十匹にも分身して多頭蛇の前へ飛び出して行った。
そして多頭蛇を取り囲む。
多頭蛇は四方へ行きたがり、その場で統率がとれなくなる――そうなるのではないかとリタは思っていた。
しかし多頭蛇は迷うことなく本物のフカに噛みつこうとする。
「フカ、作戦中止! 逃げて!」
リタが叫ぶとフカは戻って来る。
しかし多頭蛇も付いて来ていた。
乱戦を覚悟してヴェイルが剣を構えた時、多頭蛇が向こうへと振り向いた。
目線の先には炎の精霊が飛んでいる。
多頭蛇はリタ達を放置し、炎の精霊の方へ這いずって行った。
辺りは静まりかえる。
「な……なんで分身と本隊の見分けがついたんだ……」
リタは衝撃を受けつつフカに跨り、ヴェイルとシアと共に一旦その場を離れることにした。
一時間経過しなくては、フカがまた能力を使うことは出来ないからだ。
「……シア、おやつの時間だね。ほら」
ヴェイルは携帯していた袋からニンジンを出すと、シアに食べさせた。
「フカ様にも差し上げたいおやつがありまして」
そう言ってヴェイルが取り出したのは、乾燥させて保存していたのを水で戻したトウモロコシであった。
フカはギャッと吠えて胸びれを叩く。
「ま、丸ごとトウモロコシ……!
今の生活ではフカに食べさせてあげれなくて申し訳ないと思ってたんです」
リタの意識が多頭蛇からトウモロコシに向いたのを見て、ヴェイルは微笑む。
「リタならすぐに貴族になれるさ。
それまではたまに、僕からプレゼントさせてよ」
「う、うん……!」
「よし、じゃあ焼くよ」
ヴェイルは火打石で火を起こし、トウモロコシを焼いていく。
その時、背後から咆哮が響いた。
振り向けば、いつの間にか多頭蛇が背後に迫っていた。
「嘘だろ!?」
ヴェイルは慌てて火を消し、トウモロコシを握ったままシアに乗る。
「でも一時間は経った。今度こそ決める!」
リタもフカに跨り、多頭蛇の激しい噛み付きを躱す。
そして、ふと閃いた。
「ヴェイル! この蛇、より熱い方へ攻撃している可能性はない!?」
「ああ、有り得るね!
分身よりフカ様、フカ様より火の精霊。
そして今は火に寄って来た」
「有効なのは頭を分散させることじゃなくて、熱い一箇所に集めること……。
フカと私で頭を引き付けるよ!」
リタの号令に吼えて応え、フカは多頭蛇の前に飛び出して行った。
狙い通り、多頭蛇の全ての首がリタとフカに喰らいつこうと集まって来る。
しかしその攻撃は届くことはなかった。
フカがバリアを張り、自分とフカの身を守っていたからだ。
バリアの周りで、困惑する多頭蛇はほぼ静止する。
何も指示せずともシアは、矢が届くぎりぎりの距離へとヴェイルを連れて来た。
多頭蛇の頭へヴェイルが次々に矢を射って、とうとう多頭蛇は停止した。
多頭蛇の死体を、フカは食べる。
「巨大魚の防御力がバリアとして発現したんだね。
凄いね、フカ」
フカを褒めているリタに、ヴェイルが焼きトウモロコシを渡す。
そのトウモロコシはリタの手からフカの口へ運ばれた。
今までスープでしかトウモロコシを食べたことがなかったフカは、心なしか目を輝かせているように見える。
芯ごとトウモロコシを齧る音が、グラント山に響いた。
リタとヴェイルの多頭蛇討伐の報告をメモしながら、ダンテは言った。
「入団して日が浅いのに、もう多頭蛇の討伐をこなすとは。良いコンビだな」
「ですよね。ヴェイルとシア、フカと私!」
リタはそう言ってフカとシアにしなだれかかった。フカは勿論、シアもヴェイルと良いコンビと言われて満更でもないようだ。
ヴェイルも嬉しそうに一人と二匹を眺めている。
「……私はリタとヴェイルも良いコンビだと思うのだがな」
ダンテはどこか呆れ気味に呟いた。




