空飛ぶサメVS眠りへの誘い
「船乗りが遭難する事故が多発してるってのはここね」
海を見てセーナが言う。
リタとフカ、セーナとヴェイルは、船乗りの連続遭難事件にモンスターの関与を強く疑い派遣された隊の中に居た。
「私とフカも偵察に行きましょうか?
海なら魚のフカが役立つかも」
リタが言ったが、偵察を志願したヴェイルはそれを止めた。
「フカ様は魚である以前に僕達の特殊な切り札だ。地上で温存しておくべきだと思うな」
「う、うん……。気を付けてね、ヴェイル」
「勿論」
そうして偵察部隊が、自身と天馬に命綱を付けて飛び立つ。
部隊が沖を観察しているのを見ていたリタ達の耳に、歌声が流れ込んできた。
「誰? こんな時に歌ってるのは」
セーナをはじめ、皆が辺りを見回した。
しかし歌っている者など居らず、騎士団以外の者だって海辺には居ない。
きょろきょろしていた目を、リタは擦る。
寝不足ではない筈なのに、やけに眠い。
フカや他の兵士、天馬達まで眠気に抗っているようだった。
「何でこんなに眠いんだ……」
「この歌のせいじゃないの……!?」
兵士達が騒ぎ始めた時、沖で激しい水音が鳴った。
観れば、偵察部隊が海中に天馬ごと落下していた。
「大変だ!」
陸に居た兵士達で懸命に命綱を引っ張り、偵察部隊を引き上げる。
叩き起こせば、偵察部隊は全員目を開けた。
「あれ、俺達眠ってた……!?」
「そうですよ。何があったんですか?」
「記憶が曖昧で……」
「まさか歌のせい?」
「歌……? それもよく覚えてない」
その時、セーナが声をあげた。
「見て、モンスターよ!」
セーナが指す水面には、上半身が人間で下半身が魚のモンスターが居た。
彼らの表情はこちらを嘲笑っている。
騎士団員は矢を射掛けたが、途端にモンスター達は身を翻して海中に戻って行った。
矢は空を切る。
「あんなモンスター、今までに出現したこと無かったよな?」
「くそ、接近して叩き斬りたいが、近寄ると眠らされてしまう!」
「とりあえず、あいつらを『人魚』と仮称して対策を練ろう。時間ならある」
騎士団は陸地に腰を据え、人魚達を観察することにした。
時々海中から歌が聞こえてきては皆眠くなり、さらに水上に顔を出した人魚に嗤われては苛立ち、時間が過ぎていく。
日が暮れてきた時、ヴェイルが言い出した。
「人魚の奴ら、海の中に潜っている時しか歌っていないと思いませんか」
それを聞いたセーナは、はっとする。
「そういえば、奴らが海から顔を出す間隔は一定だわ。
上半身は哺乳類だから、息継ぎは空中じゃなきゃ出来ないのかも」
さすが漁師の娘といったことをセーナは分析した。
「つまり、息継ぎに出た所を斬れば良いんだ。
でもそこまで接近していくまでに歌で眠らされてしまう……そのタイミングをずらす方法があれば……」
リタが呟くと、フカが吠えてセーナの腰に提げてある小袋を突いた。
「ん? どうしたのフカ」
「薬が気になるのかしら」
「薬?」
「ええ。ジェネ様に教えてもらった、巨大植物から抽出された薬よ。
疲労がぶっ飛ぶとか何とか」
「まさかフカ、巨大植物を食べて手に入れた力で何か出来そうなの?」
訊ねたリタにフカが頷くと、騎士団は湧いた。
人魚達は海上に騎士団の影を見た。
歌えば天馬も兵士も次々に眠り、墜落してくる。
最初は面白がって歌い続けていた人魚達だったが、そのうちに異変に気付いた。
騎士団員の投入される早さも人数も尋常ではないのだ。
そのうち苦しくなってきて、人魚達は息継ぎをしに海面に顔を出す。
「今だ!」
人魚の歌が止む代わりに、リタの声が響いた。
沖に出ていた兵士と天馬は影も形も消え失せ、代わりに陸から本物の騎士団が急接近していく。
「騎士団そのものの幻を生み出すなんてフカ様まじでいかすぜ! スケールがちげえな!」
うずうずしていたヴェイルが、とうとう叫ぶ。
そう、先に突入していた兵士と天馬の群れは、フカが能力で作りだした幻だったのだ。
人魚があっぷあっぷと息を吸っている間に、その首をヴェイル達手練れの兵士が一閃で斬り飛ばした。
飛んだ首をフカが口でキャッチして呑み込む。
その後も顔を出した人魚を次々と狩っていく。
中には、浮上出来ずに溺れた人魚も居た。
騎士団はものの数分で人魚を掃討し、陸に帰ってきた。
帰り仕度をしながらリタとセーナは話す。
「そういえば、巨大植物に幻覚を見せるなんて能力無かったよね」
「ええ」
「まさか……その疲労がぶっ飛ぶ薬に幻覚の作用なんて」
「そんなのあったら市販してないでしょ。何言ってるの、リタってば」
「そうだよね!」
二人は笑って、フカを撫でた。




