空飛ぶサメにも弱点はある
「リタ・ファルト。これまでの王立騎士団への貢献を認め、貴殿を上級兵士に昇級させる」
ダンテが言って、リタにバッジを渡す。
リタは跪いて謝辞を述べた。フカも一緒だ。
「身に余る光栄、誠に感謝いたします。
私がここまでこれたのは、皆様の支えやフカの力のお陰ではありますが……これからも精進いたします」
騎士団から盛大な拍手が上がった。
リタの天馬に乗れなかった時や貴族になりたいという夢を知っている者達は、我が事のように喜んでくれていた。
集会が終わると、セーナとヴェイルが近付いて来た。
「リタ、おめでとう」
祝うヴェイルに比べて、セーナは不機嫌に言う。
「何が皆様やフカのお陰が大半よ。リタだって強くなったじゃない」
「そ、そんなことないよ」
「あるわよ。シノビを倒した時も、巨大魚を倒した時も、この間の巨大植物を倒した時だって、作戦を立ててフカに頼んだのは貴女でしょ」
「セーナ、その話詳しく……!」
ヴェイルが興奮しだす。
「まあ、良いけど」
セーナがリタとフカの戦歴を話し出すのが恥ずかしくて、リタとフカはそっぽを向いていた。
その日は何事もなく、リタとフカは帰路についた。
「これで私達も上級兵士だ! このまま騎士にも任命されて、ゆくゆくは貴族に返り咲くぞ!」
リタの歓喜に合わせ、フカはくるくると回った。
そんなリタとフカに、すっと道化師が近付いて来て、一見何も持っていなかった手中に花を出現させると渡してくる。
「わあ、ありがとうございます!」
端を受け取ったリタがおひねりを払おうと下を向いた時、異様な音を聞いてのけぞった。
道化師が回転する刃の剣を振り回しだしたのだ――所謂チェーンソーだが、リタ達の文明ではそんなことは知る由もない。
夜道を歩いていた人々は突然のことに逃げ惑う。
騎士団に助けを求める鐘は誰かが鳴らしてくれたが、騎士団が到着するまではまだ数分かかる。
道化師の背中からはいつの間にか蝙蝠のそれに似た羽が生えており、低空飛行しながら人々を追い回していた。
「あいつモンスターだったんだ! フカ、あいつを倒さなきゃ!」
リタが言うが、フカは付いて来なかった。
建物の陰に隠れて震えている。
「……フカ、あの回転する刃が怖いの?」
リタが訊ねると、フカは小さく頷いた。
リタは剣を抜き、道化師に向き直る。
「フカも皆も、私が守る!」
チェーンソーが重く、振りかぶる速度が遅いことに、リタはすぐ気付いた。
道化師の大きな動きの間を縫い、突きを繰り出す。
剣は道化師の脇腹を抉ったが、道化師は不気味に笑いながら一角獣の角を取り出すと自分の傷口に使った。道化師の傷口は跡形もなく消えてしまう。
しかも道化師が持っている一角獣の角は大量であった。
怯んだリタの前で、チェーンソーが振り回される。風圧でリタは尻もちをついた。
今にも斬られそうなリタの姿が、フカの漆黒の瞳に映る。
フカは考えていた。
集会後にセーナが言っていた通り、リタが作戦を立ててフカが実行することが多い。
人間に比べると頭を使うのは苦手だが、フカもリタの相棒として機転を利かせて人を――誰よりもリタを救いたかった。
フカは決心すると、道化師の前に飛び出して行ってリタを突き飛ばした。
「フカ! 怖がってた筈じゃあ……」
リタは心配するが、フカは高らかに吠えながら道化師の周りを飛び回った。
その背びれが光ると、口から素早く糸が吐き出される。
そして織った布をチェーンソーに投げると、布が絡まったチェーンソーは停止した。
得物を失った道化師の頭をフカが食いちぎる。するとフカの背びれはまた光り、何やら能力を手に入れたようだった。
「怖かっただろうに、ありがとう。フカ」
リタは立ち上がると、そっとフカを抱き締める。
フカはまだ少し震えていたが、安堵と喜びが混じったようにひれを振っていた。
「リタ、昇級おめでとう! フカもリタをいつも助けてくれてありがとうね」
「くれぐれも無理はするんじゃないぞ」
家に帰って昇級のことを話すと、リタとフカは両親に撫でられた。
「ま、おめでとう。これで貴族に戻るとかいうあんたの途方もない目標も多少は現実みが出て来たんじゃない」
テレサも素直ではないが祝ってくれる。
フカがテレサに軽く頭突きすると、テレサはフカにしか見えないようにくすっと微笑んだ。
その後、リタとフカは一緒に風呂に入った。
リタがシャボン玉を吹いてやると、フカはとても喜ぶのだ。
「今日のこと、明日詰所に行ったらセーナとヴェイルに話そうね。
特にヴェイルは喜ぶと思うよ」
リタが言って手を差し出すと、フカは胸びれを出してリタの手に重ね合わせた。




