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セイレーンは終焉を歌わない 〜十二の曲と六芒獣〜  作者: 白雪藤
第二章 六芒獣編☆第一遠征アリーナルムル共和国編
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☆二章☆1-8☆行方不明者

 共和国政府庁舎を出た瞬間、乾いた熱風が真正面から吹きつけてきた。


「うおっ……暑っ!」


 思わず顔を背ける。

 建物の中では冷却用の魔導具が動いていたから、その落差が余計にきつい。


『今朝、砂海雫を飲んだからまだマシ』


 ノエルの頭の上で、ソルが言った。


「飲んだけど暑いものは暑いんだよ!」


『ノエルは繊細』


「それ、絶対褒めてないだろ」


『半分くらいは』


「残り半分は何なんだよ!?」


 肩に乗るルナまで淡々と追撃してくる。

 けれど、いつもなら横からすぐに何か言ってくるフィンが、今日は何も言わなかった。


 ノエルはちらりと横を見ると、フィンは鏡晶石を握り締め、画面に表示された西商業区の地図を見つめていた。いつもなら、学院でどれほど無茶苦茶な目に遭っても笑顔を絶やさない彼だけど、今は違った。


姉二人と再従姉妹にあたる人が、同じ西商業区で同時に姿を消したのだ。


「フィン」


「……ん?」


「西商業区、俺たちも一緒に探すからな」


 そう言うと、フィンは一瞬だけ目を見開き、すぐに笑顔を浮かべた。けれど、その笑みはどこかぎこちなく、目の奥には不安が滲んでいた。


「うん。ありがとう」


「無理に笑わなくてもいいぞ」


「え?」


「今のお前の笑顔、なんか気持ち悪い」


「酷くない!?そこは普通、優しく励ますところじゃない!?」


 ようやく、いつもの声が返ってきた。


「だって本当に不自然だったし」


「ノエルって、たまに人の心ないよね!」


『たまに?』

『比較的いつものこと』


「お前ら俺を何だと思ってんだ!」


 ほんの少しだけだったが、フィンの顔にいつもの笑みが戻った。それでいい。無理に元気を出す必要はない。ただ、俯いたままではいてほしくなかった。


「では、行きましょう。西商業区へ直接向かいますわ」


「最後の目撃場所から順番に洗えば、何か残っているかもしれない」


 アイリスが前を向き、アルベルトも鏡晶石を確認しながら頷いた。


「人が多い場所なら痕跡も多い」


 シャスールもいつになく真面目だ。

 コンラッドは、そんなノエルたちを一通り見てから口を開いた。


「ただし、勝手な捜査はしないこと」


「分かってる」


「ノエル君がそう言うと、ちょっと不安だなあ」


「なんで!?」


「日頃の行いだね」


「俺、そんな信用ないですか!?」


『二割信用してる』

『我は三割』


「二人には聞いてない!」


 (俺、この遠征が終わる頃には絶対信用度五割まで上げてやる!……目標が低い気がするけど)


 そんなことを考えながら政府庁舎の門を抜けた、その時だった。


「フィン!」


「……父さん?」


 フィンが顔を上げると、門の近くに一人の男が立っていた。褐色の肌に長い銀髪、頭には獅子の耳があり、腰の後ろでは尾が落ち着きなく揺れている。フィンの父親、フィデル・クローバーだった。


「どうしてここに?」


「ライブ殿から連絡をもらった」


 いつもの柔和な表情はない。息を切らしながら駆け寄ってきたフィデルは、まずフィンの両肩を掴んだ。


「アイリーンとエレンのことは聞いたね?」


「うん」


「そうか……西商業区へ向かうつもりだろう?」


「そのつもりだけど」


「その前に、皆さんに見てもらいたいものがある」


「見てもらいたいもの?」


 ノエルが聞き返すと、フィデルは頷いた。


「うちへ来てください。今回の失踪は……三人だけの話ではありません」


     




          ☆





 しばらくして、ノエルたちは再びクローバー家へ戻ってきた。朝とは打って変わって家の中は静まり返り、子供たちの笑い声も聞こえない。廊下を行き交う大人たちも、皆どこか落ち着かない様子だった。大切な家族が二人も行方不明になったのだから、無理もない。


案内された応接室には、すでに何人かの夫人たちが集まっていた。机の上には、共和国の地図や大量の書類が所狭しと広げられており、あふれた分は隣の椅子にまで置かれていた。


「お帰りなさい」


 フィンの母親、ペイシェンスが立ち上がった。しかし、普段の余裕はその表情から消えていた。


「短時間で集められるだけ集めたわ」


「これ、全部……?」


「行方が分からなくなった人たちの記録よ」


 空気が一気に重くなった。フィデルが広げた地図には、共和国中に赤い印がいくつも記されていた。都市だけでなく、小さな村や交易路、オアシスの周辺、さらには国境付近にまで及んでいる。


「以前、三隊の交易隊が消息を絶っているという話をしましたね」


「はい」


「ですが、こちらで改めて調べ直したところ……失踪はそれよりずっと前から起きていました」


「ずっと前?」


 フィンが眉を寄せる。


「少なくとも一年以上前から」


「一年……」


「そして、被害者には妙な共通点がある」


 フィデルが、資料を一枚ずつ示していく。そこに並んでいたのは、孤児、借金を抱えた者、国外から流れてきた移民、身寄りのない旅人、家族と疎遠になった者、そして日雇い労働者たちの名前だった。


 境遇はそれぞれ違う。けれど、彼らには一つの共通点があり、それをシャスールが低い声で呟いた。


「いなくなっても、すぐには騒がれない人」


「そうだ」


「じゃあ……実際の被害者数は、ここにある記録より多い可能性があるということか?」


 アルベルトが資料を見つめる。


「かなり……最悪ですわね」


 アイリスの声が冷たくなった。ノエルも同じ気分だった。探してくれる家族も、騒いでくれる友達もいない。だからこそ、彼らは狙われたのだ。


「人を何だと思ってんだよ……」


 腹の奥が熱くなった。誰にも気づかれないなら消してもいい──そんな考え方が、ただただ気に入らなかった。


『ノエル、怒ってる?』


「怒るだろ、こんなの」


『うん』


 ルナはそれ以上何も言わなかった。

 フィンもずっと机の上の資料を見つめている。


「父さん」


「なんだい」


「姉ちゃん達も……このことを知ってたの?」


「……ああ」


「いつから?」


「正確には分からない。でも、少し前からアイリーンとエレンは妙なことを聞いてくるようになったわ」


フィンの問いにペイシェンスが首を軽く横に振りながら答えた。


「妙なこと?」


「失踪した使用人はいないか。突然取引を打ち切った商人はいないか。西商業区で不自然な荷の動きはないか……」


「三人が最後に目撃された場所だね」


 コンラッドの言葉にフィデルは頷き、別の地図を広げた。そこには、西商業区の大半を占めるように、一つの商会名が記されていた。


「ロベリア商会……?」


「共和国でも指折りの大商会です」


 フィデルの指が、商業区の中心へ移動する。


「そしてこの一帯の倉庫、運送施設、商館の多くを所有している人物がいます」


 名前が書かれていた。


 “ガドル・ロベリア”


「三人は、この男を調べていた。レナさん、アイリーン、エレンの三人は、以前から秘密裏に失踪事件を追っていたようです」


 フィンが顔を上げる。


「なんで三人で?」


「フィン、お前も知っているだろう?アイリーンの称号は“精神感応”だ」


「あ……」


 アイリーンは相手の心を読むことができ、エレンは分身を作れる。その為、複数の場所を同時に調べることができる。そしてレナは、旧王族の血を引く現在も高位の貴族だ。


「証拠集めには……確かに向いてる」


「そういうことだろうね」


「ガドルのところまで近づいて……消えた」


 フィンの声が低くなる。誰もそれを否定できず、部屋は重い沈黙に包まれた。

 ノエルは机の上に広げられた地図を見つめる。西商業区、相次ぐ失踪、そして姿を消した三人。ばらばらに見えていたすべての情報が、ガドル・ロベリアという一つの名前へ集まり始めていた。


そして、沈黙を破るように、アルベルトが口を開いた。


「フィデルさん。この短時間で、ガドルについてどこまで調べられたんですか?」


「表向きの経歴なら、かなり」


「表向き?」


 フィデルが数枚の紙を並べる。


「孤児院への支援、交易路の整備、失業者への雇用提供、共和国政府への多額の献金、災害被災地への寄付、移民への仕事の斡旋」


「……めちゃくちゃ立派な人じゃん」


 ノエルの言葉に、シャスールは眉間へ浅い皺を刻んだ。紙の文字を一行ずつ追い、しばらく黙り込んだあと、納得できないように小さく首を横へ振った。


「綺麗すぎる…悪い意味で。全部、“自分がどう見えるか”を考えてやってるようにも見える」


「お前、人を疑う時だけ異様に鋭いな」


「褒められた?」


「まぁ半分ぐらい?」


 ほんの少し空気が緩んだ。だが、フィデルが別の紙束を机の上に置いた瞬間、室内は再び張り詰めた。


「問題はこっちだ。商人仲間から集めた非公式の情報になる」


 密輸品や帳簿に記載されていない荷物、夜間に出入りする荷車、身元不明の労働者、そして───


「人身販売……」

「奴隷取引とは…ガドル本人が?」


 アイリスが読み上げ、アルベルトの声も硬くなる。

 

「決定的な証拠がない。だが、過去にガドルと深く取引していた複数の商人が、人身売買や奴隷取引で摘発されている。偶然にしては多すぎる…でも証拠はない」


 フィデルの言葉にシャスールが続く。


「なら、屋敷を調べれば──」


「それが簡単ではないんだ」


「何かあるんですか?」


ノエルは首を傾げた。


「まず、ガドルの屋敷には強力な侵入防止結界が張られている」


 フィデルの言葉にコンラッドが資料に目を走らせる。


「それだけじゃない。最近、護衛を増やしているね」


 フィデルさんが頷いた。


「かなり腕の立つ獣人傭兵団を雇っています」


「獣人の傭兵団」


 アルベルトが考え込む。


「正面から入るのは無理ですね」


「無理というより、絶対にやってはいけない」


 コンラッドがいつになく強い口調で言った。


「先生?」


「ガドルは共和国有数の大商人だよ。証拠もない状態で、ミネルヴァ王国の学院関係者が彼の屋敷へ武力侵入したら?」


「外交問題ですわね」


 アイリスが答えた。


「その通り」


 コンラッドの表情から、普段の柔らかな笑顔が消える。


「僕一人ならまだしも、君たちの中には公爵家、王族に連なる者までいる」


 アイリスとアルベルトへ視線が向く。


「“ミネルヴァ王国が共和国の有力者へ武力を行使した”という話になる可能性だってある」


「そんな……」


「政治って面倒だね」


 シャスールが真顔で言った。


「百二十四歳が今気づくことか!?」


「森では殴られそうになったら、正当防衛で十倍返ししていいから」


「お前の故郷怖っ!」


『合理的』

『正当防衛なら仕方がない』


「二人も納得すんな!」


 コンラッドが咳払いを一つする。


「とにかく。動くなら、証拠が必要だ」


「でも、その間に三人が……!」


 フィンが声を上げる。


「分かってる」


 コンラッドは真っ直ぐフィンを見る。


「だから、時間をかけて正式な捜査を待つつもりもない」


「先生?」


「救出と証拠確保を同時に成立させる方法を考える」


 その言葉にフィンが少しだけ目を見開いた。


「……ありがとう」


「僕は君たちの引率だからね。学生を無茶させないために来ている」


 コンラッドが微笑む。


「コンラッド先生」


「何かな、ノエル君」


「その言い方だと、俺たちが普段から無茶しかしないみたいなんですけど」


 コンラッドも、アイリスも、アルベルトも、フィンも、シャスールも、さらにはソルとルナまで───全員が、何も言わずにノエルを見つめていた。


「なんか言えよ!!しかも、なんで俺だけみたいな雰囲気なんだよ!」


 ノエルが一人で衝撃を受けている横で、フィデルが少し困ったように笑った。

 その表情も次の言葉で、すぐに消える。


「もう一つ。ガドルの屋敷には妙な決まりがあるんだ。屋敷の奥へ入れるのは、基本的に女性だけだ」


「女性だけ?使用人も?…何故そんな変なことを?」


 アイリスが眉を寄せて尋ねると、フィデルさんが露骨に嫌そうな顔をした。


「ガドルは、女性は男性より体格や腕力で劣ると考えているようだ。万一自分を裏切っても、女なら力で押さえつけられる、と」



 ───ミシッと聞き慣れない音が響いた。


「……アイリス?」


「何ですの?わたくし、冷静ですわよ?」


ノエルの問いかけにアイリスは微笑む。唇の端をきれいに持ち上げた、非の打ち所のない笑顔だった。けれど、瞳は少しも笑っていない。彼女の指は剣の柄へ深く食い込み、革張りの表面がわずかに歪んだ。白くなった指先の下で、ミシ、ミシ、と乾いた音が響く。


「剣が悲鳴上げてるから!」


「気のせいですわ」


「気のせいで剣は鳴らないよ!」


「随分と古風な価値観だね」


 コンラッドも苦笑する。


「ですが、その偏見のせいで中に入るのが……」


 アルベルトが途中で言葉を止めた。すると、フィンやアイリス、シャスールまで、なぜかノエルに注目する。


「ちょっと待て!お前ら今、何考えた?!」


「何も考えてませんわ」


「じゃあ目を逸らすな!」


シャスールが、何かを見極めるようにノエルの顔をじっと見つめた。童顔で幼く、美少女と見まごうばかりの容姿に加え、身長も百五十八センチと小柄なノエル。シャスールのその視線の意味にノエルは、嫌な予感を覚えた。


「ノエルならいけそう」


「何が!?」


『ノエルは似合う』

『保証する』


「いやいやいやいや!俺は男だからな!?」


 ノエルは全力で首を振った。


「知ってるよ」


 フィンが真顔で頷く。


「知っててその目!?」


「まあ、潜入方法については後で考えよう」


 コンラッドがさらっと流した。


「先生!?」


 (絶対考えてる!絶対俺に何かをやらせるつもりだ、この人たち!)


「今現状分かってることは、三人がガドルを調べてて、西商業区で消えた。そして、西商業区の大部分はガドルの所有地で、人身販売の噂もある。しかし証拠がない、と言うことだね」


 コンラッドの言葉にフィデルが頷く。すべての情報が、ガドルへと繋がっている。少なくとも、三人の失踪に彼が関与している可能性は高い。


「フィン!助けよう、三人とも!!もし他にも捕まってる人がいるなら、その人たちも!」


「……うん」


「ただし!勝手に突っ込まない」


「ノエルが言う?」


「言うよ!」


『説得力皆無』


「ソル!」


『妾は応援する』


「ルナ……!」


『失敗する方に』


「そっち!?」


 フィンが噴き出した。


「ははっ……分かった。絶対に助けるよ。姉ちゃんたちも、他に捕まってる人たちも。もし本当にガドルが人を売ってるなら──俺は絶対に許さない」


 フィンから笑顔が消え、紫の瞳が冷たく細められた。ノエルはその目にぞくりとした。怒鳴ったわけでも、魔力を放ったわけでもない。それなのに、普段のフィンからは想像もつかないほどの圧があった。


「商人が金を稼ぐのは当たり前だよ。俺だって商人の息子だし、お金は好き」


「あ、そこは堂々と言うんだ」


「お金があれば美味しいもの食べられるからね」


「理由が平和!」


「でも…人の命を商品にする奴は、商人じゃない。そんなの、ただの外道だ」


「では決まりだな」


 アルベルトが言った。


「救出、そして証拠の確保ですわ」


 アイリスが続く。


「うん。全て効率よく同時にやる」


 シャスールも頷いた。


「ただし、まず情報収集からだよ」


 コンラッドが釘を刺す言葉にノエルたちが頷いたその時、応接室の扉が開いた。


「───その必要はない」


 低い声に振り向くと、政府との連絡を終えて戻ってきたらしいライブさんが立っていた。

 だが、その表情は先ほどまでとは明らかに違い、険しく張り詰めている。


「ライブ殿!捜索は?」


 フィデルさんが立ち上がる。


「西商業区全域へ人員を出した。交易門にも連絡済みだ。レナたちが国外へ運ばれる可能性も考えて監視を強めている」


「ありがとうございます」


「礼は不要だ」


 ライブの青い瞳が机の上の資料へ向かい、そこに記されたガドル・ロベリアの名で止まった。獅子の尾が低く揺れた瞬間、部屋の空気が変わる。怒っているのだと思った。けれど、それだけではない。


「ライブ兄さん?」


 フィンも気づいたらしい。


「どうしたの?…もしかして、ガドルのこと知ってるの?」


「……知っている」


「商人として?」


「違う」


 フィデルさんが目を伏せた。


「ライブ殿」


「分かっている。本来なら、これはラージュ家の内情だ。…外部の者へ話すつもりはなかった…だが、レナ達が消え、その先にガドルがいる可能性がある。だから、もう隠しておくことはできない」


「ガドルと過去に何かあったのかな?」


コンラッドの言葉にライブは頷き、フィデルの心配する瞳を受けながら、ゆっくりと語り始めた。


「……私は十三歳の時に両親を亡くし、そのまま家督を継いだ。父はゼオン、母はアリエラ。幼かった弟のリオンと妹のレナを守りながら、私は一家の当主として生きてきた」


 ライブの拳が、ゆっくりと握り締められた。指の関節が白く浮かび、爪が掌へ食い込んでいく。


 誰も、すぐには声をかけられなかった。ライブは俯いたまま、黙り込んでいる。その沈黙は言葉を探しているというより、胸の奥から溢れ出そうになる感情を、必死に押し殺しているようだった。


 部屋の空気は重く張り詰めていた。誰かが不用意に息を吐くだけで、張りつめた糸が切れてしまいそうなほどに。

 まるで、これから口にする言葉が、自分自身を傷つけると分かっているかのようだった。


 そして、ライブは低く掠れた声で言った。


「二人の死は、公には事故として処理された。……だが、あれは事故ではなかった。父と母は、殺された」


 ライブが顔を上げた。その表情は険しく、いつもの厳格さや冷静さの奥に、押し殺してきた怒りが滲んでいる。握り締めた拳が、かすかに震えていた。


「犯人も分かっている」


 胸の奥が大きくざわめいた。ライブの視線は、机の上に置かれた“ガドル・ロベリア”という名前へ落ちていた。


「ガドルは…私たちの両親を殺した男でもある」


 ライブがそう告げた瞬間、誰も口を開かなかった。十五年間、彼の胸の内で繰り返されてきた名が、ようやく声となってこぼれ落ちた。



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