☆1-16☆ 測定器の異常
式が終わる頃、ノエルの眠気は一周して逆にわずかに冴えていた。新入生たちは教師の指示に従い、称号測定の準備へと移っていく。
王立アストル魔法学院では、入学前の試験でも簡易的な称号確認が行われるが、正式な登録は入学式後に実施される。学院所有の高性能な測定器を用い、称号の性質、魔力属性、そして成長可能性まで詳細に解析するのだ。
やがて講堂の中央へ、巨大な水晶柱が運び込まれた。測定器は透明な水晶でできており、表面には無数の金属輪が取り付けられ、精密な術式が刻まれている。下部には魔力を記録する装置が接続され、上部には結果を表示する光の板が備えられていた。
その周囲では、教師のアドモンとヒストリアが装置を設置し、コンラッドとアミュが最終確認を進めている。
静かな緊張と期待が、講堂全体に満ちていた。
「一人ずつ前へ出て、水晶に触れてね。力を込める必要はないよ。自然に魔力を流すだけで、装置が称号を読み取るからね。じゃあ、始めようか」
コンラッドのその言葉を合図に、新入生たちが順番に水晶へと手を伸ばしていく。
光魔法の適性を示す者、剣士としての資質を持つ者、治癒に長けた者、魔導士としての才能を持つ者──水晶が反応するたびに講堂のあちこちから小さな歓声が上がり、場は次第に熱を帯びていった。
そしてアイリスの番が訪れ、彼女が静かに水晶へ手を置いた瞬間、講堂全体を満たすほどの鋭く澄んだ白銀の光が一気に広がった。
《称号──聖剣》
《光属性適合──最上位》
《剣術適合──最上位》
《成長予測──測定上限近似》
《階級──下級弍星》
一瞬の静寂のあと、どよめきが爆発するように広がり、周囲の生徒たちは息を呑んで一斉にアイリスへと視線を集中させたが、当の本人はまるで当然の結果であるかのように表情を崩さず、水晶から静かに手を離した。
「すごいな」
ノエルは目の前の光景を見ながら素直に感嘆の声を漏らし、それに対してアイリスは一切の揺らぎもなく頷いた。
「当然ですわ」
「少しは謙遜しろよ」
「努力の結果を否定する必要はありません」
その言葉には、これまで積み重ねてきた時間と誇りが、そのまま込められていた。ノエルは呆れたように息を吐きつつも、納得したように頷いた。
「まあ……アイリスらしいけどな」
『正論』
『自信が強い』
アイリスはそれを否定することもなく、ただまっすぐ前を見据えたまま、微かに胸を張る。
アルベルトの番がきた。彼は無言のまま水晶へと手を伸ばし、そっと指先が触れたその瞬間、講堂の空気がわずかに冷え込み、ひやりとした魔力の波が静かに広がり、周囲の温度が一段階下がったかのような錯覚を生む。水晶の内部では光が揺らぎ、やがて文字が静かに浮かび上がっていった。
《称号──魔法騎士》
《氷雪属性適合──最上位》
《魔法・剣術複合適合──上位》
《成長予測──非常に高い》
《階級──下級弍星》
再び歓声が上がる中、生徒会席に座るグレイシアは弟の結果を見つめ、わずかに目を細めた。誇らしさを隠すように腕を組み、表情を崩さないまま静かにその光景を受け止めている。その横で、カルムが小さく囁いた。
「嬉しそうだな」
「当然の結果だ」
「褒めてやればいいのに」
「必要ない」
「部屋の肖像画の弟くんには報告するのに?」
カルムの軽口が落ちた瞬間、グレイシアの指先にうっすらと霜が浮いた。空気がピキッと音を立て、周囲の温度が一気に下がる。
(あ、これ言っちゃいけないやつだったかも)
カルムは笑顔を保ったまま、内心では全力で土下座していた。グレイシアは何も言わず、ただ静かに視線を外し、指先に宿った霜を握り潰すようにそっと手を閉じた。
「……次の生徒の番だな」
氷よりも冷たい声に、カルムは反射的に頷いた。
「はい、次行きましょう次。いやほんと次大事」
その場の空気はまだ少し冷えていたが、誰もそれに触れようとはしなかった。というより、触れた瞬間に凍りついてしまいそうな気配があったからだ。氷結未遂は、まるで最初から存在しなかったかのように、静かに処理されていた。
フィンの称号【天千眼】は、遠距離認識や感情色彩感知、透視系統など複数の特殊能力適性を示しており、その結果は教師陣の間に小さな感嘆を生んでいた。
さらにシャスールの【星詠神宮】は、星辰魔法・神聖術・弓術のいずれにおいても極めて高い適合値を叩き出している。その数値を前に、歴史学の女性教師ヒストリアは目を輝かせながら、興奮気味に記録用紙へと結果を書き留めていく。
「興味深い。百二十四歳の若年エルフにして、この数値」
「若年?」
近くにいた人間の新入生が首を傾げる。
「僕たちの基準では若い」
シャスールが淡々と答えた。
「百二十四歳で?」
「フローラは百二十七歳」
生徒会席のフローラが、優雅に手を振る。
「私の方がお姉さんよ」
「三歳だけ」
シャスールはむすっとした顔で言い返す。
「三歳は大きいわ」
「エルフだと誤差じゃないの? 人間換算でもどっちもかなりの歳だし、あんまり変わりないよね」
フィンが軽い調子で笑いながらそう言った瞬間、その場の空気がぴたりと止まった。一瞬の沈黙ののち、フローラは変わらぬ笑顔のまま床にそっと手を置く。すると足元から静かに蔓が伸び、それは迷いなくフィンの足首へ絡みついた。
「うわっ!」
突然の拘束にフィンが声を上げると、フローラはにこやかに微笑んだまま(しかしその目の奥だけはまったく笑っていない)、穏やかな声で言った。
「エルフ換算だと、まだまだ“若い”わよ? 女性を年齢で揶揄うのは良くないと思うわ。……肝に銘じときなさい」
「はい!」
フィンは即答した。
カティアの順番が近づく中、彼女は静かに立ち上がった。表面上は緊張した少女のように見えたが、その内側では状況を冷静に計算している。昨夜のうちに称号測定器への細工はすでに済ませてある。極めて細い観測術式は通常の検査では発見されないよう設計されており、測定対象の称号情報と魔力波形を本来の記録装置とは別の経路へと流す仕組みになっていた。
その目的はノエル──妖精王二体と契約した召喚士の力の詳細を解析し、組織へ報告するための準備であった。
昨日までは、それだけのはずだった。
しかし今、カティアの胸にはわずかな迷いが生まれている。ノエルは自分を助け、朝食の席へ招き、当然のように仲間として扱った。その相手を、自分は罠へかけようとしている。これまでなら何も感じなかったはずだった。任務で必要な行為、それだけで割り切れていたはずなのに……カティアは胸の奥で小さく息を吐く。それでも足は止めない、止めてはいけないと分かっていた。止めてしまえば、きっと何かが崩れてしまう……彼女は静かに測定器の前へと歩み出た。
「カティア」
ノエルは彼女に声をかけた。
「緊張してる?」
「少し」
カティアは小さく頷いた。その指先には、わずかな硬さが残っていた。
「大丈夫だ。手を置くだけだろ」
「ノエルさんに言われると、不安になりますわね」
すかさずアイリスが割って入る。冷静な声で制しながらも、その視線にはどこか警戒の色が滲んでいた。
「何でだよ」
「あなたは“手を置くだけ”で何かを壊しそうです」
「俺を何だと思ってる」
『問題発生装置』
『歩く異常事態』
「お前たち、日に日に酷くなってないか?」
ノエルは肩を落としたが、そのやり取りの中で張り詰めていた空気はわずかに緩んでいた。カティアはその変化に僅かに笑い、そのまま測定器の前へ立つと、水晶へそっと手を触れた。
《称号── 精神魔術師》
《精神干渉適合──中位》
《補助魔法適合──上位》
《成長予測──平均》
《階級──下級弍星》
偽装された結果、本来の称号である【啼忌梟】は表示されなかった。薬と術式によって作り上げられた偽りの魔力波形が測定器の解析を完全に欺いており、教師たちも特に不審を抱く様子はない。カティアは水晶から手を離すと、静かに自分の席へと戻っていく。その途中、すれ違いざまに──ノエルが、彼女へと小さく笑いかけた。
「お疲れ」
「……ありがとうございます」
“ノエル・メレディス”その名が呼ばれた瞬間、講堂の空気がわずかに変わった。
妖精王二体と契約する召喚士として、入学試験の時点でその噂はすでに広がっており、在校生の多くが彼の測定結果に強い関心を向けていた。生徒会役員たちも例外ではなく、視線は自然と一点へと集まり、講堂全体が静かに張り詰めていく。
一方で教師陣は、また別の意味で緊張していた。昨夜、ノエルは四体の古代守護機兵と暫定契約を結んでいる。しかしそれは正式な登録ではなく、未確定の契約状態のままだった。そのような状態で称号測定を行えば、どのような結果が表示されるのか誰にも予測がつかない。
講堂に漂う静寂は、期待と不安が入り混じったまま、次の瞬間を待ち構えていた。
「普通に触ればいいんだよな」
ノエルは水晶の前に立ち、不安そうに呟くその様子を見守りながら、アドモンは眼鏡を軽く押し上げて頷いた。
「そうだよ。強く押したり、無理に魔力を流し込んだりしないように」
「壊れないのか?」
「通常は壊れない」
「通常は?」
ノエルがすかさず聞き返すと、アドモンは一瞬だけ視線を逸らした。
「君の場合は念のため、僕とアミュ先生が補強している」
「信用がない!」
「昨日の実績があるからね」
さらりと返され、ノエルは言葉に詰まる。
その横でコンラッドが穏やかに微笑んだ。
「ノエル君。何か異常を感じたら、すぐ手を離すんだよ」
「分かった」
短く返事をし、ノエルはもう一度水晶へ視線を落とす。その肩の上で、ソルとルナが興味深そうに身を乗り出した。
『爆発する?』
『光る?』
「変な期待するなよ」
ソルとルナの期待に満ちた目に、ノエルは小さくため息をつきながら、水晶へそっと手を添えた。
──しかし、何の反応もない
「え、壊れた?」
ノエルの言葉にアドモンが即座に測定器を確認する。
「いや、正常だ。今、読み取りが始まっている」
その言葉と同時に、水晶の内部に黄金の光の粒が煌めきを見せながら寄り集まり、一本の大樹のようになる。その後に続くように橙色の光が輝きを放ち、続いて青白い光が重なるように現れた。太陽と月、二つの光は黄金の大樹を模った光に絡み合いながら螺旋を描き、ゆっくりと上方へ昇っていく。やがてその光は上部の表示板へと到達し、そこに文字が浮かび始めた。
《称号──召喚士》
《契約存在──二》
水晶に文字が表示された瞬間、その表示が不安定に揺らぎ始めた。講堂には、小さなどよめきが広がる。
《……再計測 契約存在──六》
空気が一気に凍りついた。教師たちの表情は固まり、その場の緊張が瞬く間に張り詰めていく。事情を知らない生徒たちは何が起きたのか理解できず、互いに顔を見合わせながら、小さくざわめきを広げていった。
「六体?」
「妖精王は二体じゃなかったのか?」
「残り四体は何なんだ?」
ノエルは水晶に手を置いたまま、コンラッドへ視線を向ける。
「先生」
「そのまま続けてくれ。今、解析中だ」
コンラッドの表情から、いつもの余裕が消えた。アミュは即座に水晶の周囲へ結界を展開し、アドモンは記録装置を高速で操作してデータの保存と解析を同時に進める。
一方ヒストリアは、逆に興奮した様子で表示を凝視していた。
「古代契約反応……しかも六系統が並列で存在しています」
「嬉しそうに言う内容ではありません」
コンラッドが即座に釘を刺す。
「だって、完全に未知の事例よ?」
「対象は生徒です」
「分かっています」
水晶の光はさらに強まり、橙、青白、黄金の輝きに加えて、新たに四つの赤い反応が浮かび上がった。それらは互いに干渉することなく、独立した魔力反応として明確に分離されていた。
《契約数──六》
《契約容量──再測定》
《上限判定──不能》
光板に次々と文字が浮かんでいく中で、ノエルは眉をひそめながら小さく呟く。
「上限判定不能って何だよ」
『まだ増える可能性があるということ』
『ノエル、人気者』
「嬉しくない予知をするな」
その時、測定器の底部でカティアが仕込んでいた観測術式が静かに起動した。目に見えないほど細い魔力の糸が水晶から床下へと伸びていく。本来それは、測定された情報の一部をわずかに抜き取るだけの術式であり、対象に影響も痕跡も残さない、安全な手段としてこれまで何度も使用してきたものだった。
しかし、ノエルの魔力はその想定の枠を遥かに超えていた。ソルとルナ、四体の古代守護機兵、テラの血統、そして六つの契約回路が一つの称号を中心に結ばれ、そのさらに奥には測定器では到底解析できない巨大な何かが眠っている。細工された術式がその領域に触れた瞬間、──魔力の逆流が起きた。
「っ……!」
カティアは声を漏らしかけ、咄嗟に口元を押さえた。指先に鋭い痛みが走る。観測術式を通じて、ノエルの魔力が逆流し、彼女の身体へ一気に流れ込んできたのだ。熱と冷気が同時に押し寄せ、古代の記憶が脳裏を焼く。太陽、月、巨大な樹、そして赤い瞳の女性──テラ。存在しないはずの光景が一瞬だけ鮮明に刻まれ、カティアは即座に術式を切断したが、遅かった。右腕の内側に焼けるような痛みが走り、制服の袖の下で皮膚に黒い亀裂が浮かび上がり、そこから血が滲む。カティアは表情を変えず腕を背へ隠した。
誰にも気づかれていない──そう思ったが、ただ一人、シャスールの金色の瞳だけがその異変を静かに捉えていた。彼は何も言わず、僅かに目を細めるだけで視線を外さない。
一方で測定器はさらに異常な反応を示し続け、光板の文字は制御を失ったかのように高速で切り替わっていた。
《称号──召喚士》
《再判定》
《高位召喚適合》
《古代契約適合》
《血統因子──検出》
《権限照合》
水晶は、まるで内部から圧力を受けたかのように大きく震えた。
「ノエル君、手を離して!」
コンラッドが叫ぶ。
「離れない!」
ノエルは右手を引こうとするが、水晶に吸い付けられたように動かない。
「アミュ先生!」
「分かってる!」
アミュは即座に結界を展開し、水晶とノエルの間へ割り込ませようとしたが、契約紋から伸びた光がそれを弾き返した。まるで空間そのものが介入を拒絶しているかのような強い反発であり、その光の中で、光板には新たな文字が浮かび上がっていく。
《継承者》
ディオーネの目が鋭く細められる。続けて表示された文字は、先ほどまでの情報とは明らかに質の異なる、異質なものだった。
《神性適合》
その瞬間、教師陣の間に明確な緊張が走った。空気は一段階重くなり、場の温度がわずかに下がったような錯覚すら生まれる。
《契約数上限──不明》
《階級──莨晁ェャ邏?》
その表示は一瞬にも満たないほどの短い時間だけ現れた。直後、文字は崩れるように歪み、光板全体が白く焼きつくような強い光を放った。
「伏せろ!」
アミュの叫びと同時に、学院全体の防衛結界が瞬時に展開された。半透明の膜が生徒たちの周囲を覆い、衝撃に備える。
それに呼応するように、教師陣も一斉に動く。
ワインレッドの髪をシニオンヘアにまとめ、ストレートグレーの切れ長の目を持つ女性教師ローザ・フレイルは炎の壁を展開し、鍛え上げられた無駄のない体躯を持つ老剣士の男性教師ガレス・クインランは即座に前へ出て剣に手をかける。
右目元の星マークが特徴のレオン・ファルケルは一瞬でノエルの隣へ移動し、いつでも対応できる体勢を取った。
さらに学院長ディオーネの指先には雷が収束し、空気が緊張で軋む。
──しかし、爆発は起こらなかった。水晶は一度大きく震えたあと、内部の光は失い、ただの透明な塊へと戻っていく。それと同時に、ノエルの手もようやく解放された。
「うわっ」
バランスを崩して後ろへ倒れかけたノエルを、レオンが首根っこを軽く掴んで支える。
「危なかったな、ちびっ子」
「ちびっ子じゃない!」
「元気なら何よりだ」
レオンは軽く笑いながらノエルをそっと床へ下ろした。講堂は水を打ったように静まり返り、数百人の視線が一斉にノエルへと注がれる。空気だけが重く沈んでいく中、ノエルは落ち着かない様子でゆっくりと周囲を見回した。
「……俺、何かした?」
『触った』
『それだけ』
「それだけでなんでこうなるんだよ!」
ノエルの叫びが静寂の中にやけに響いた。
その近くでアイリスは光板を凝視したまま動かない。やがて、小さく息を呑むように呟いた。
「継承者……今、確かにそう表示されましたわ」
その言葉は、確かに場に落ちた。アイリスの声はわずかに硬く、テラを崇拝する彼女にとって、それは見過ごせる単語ではなかった。
「何の継承者ですの?」
「…分からない」
ノエルは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
昨夜の出来事が脳裏をよぎる。テラの血、六つの核、そして十二の歌。だがそれらは学院長から「内密にするように」と厳命されている情報だった。ここで口にするわけにはいかない。
ノエルは視線を落とし、言葉を飲み込むその様子をアイリスは静かに見つめていた。隠している、それは明らかだった。
アイリスが問いただそうとしたその瞬間、コンラッドが先に口を開いた。
「測定を一時中断します。装置に不具合が発生しました。新入生の皆さんは、担任の指示に従って各教室へ移動してください」
講堂はざわめきに包まれていた。教師たちは次々と生徒たちを整列させ、誘導していく。アイリスは何か言いたげに唇を開きかけたが、隣に立つコンラッドの表情を見て、言葉を飲み込んだ。
「ノエル、アルベルト。君たち二人は向こうに集まってる教師の元で待機しておくように」
「え?俺、ここに残るんですか?」
「君は当事者だからね」
「僕もですか?」
「君はノエルの監視役として」
「いつからです!」
『同室になってから』
『ノエルの保護者』
「違う!」
アルベルトとノエルは教師たちが集まる場所へ向かう途中、カティアの前を通りかかった。その瞬間、彼女の顔色がわずかに青ざめていることにノエルが気づく。
「カティア、体調悪くないのか?」
「…いえ、緊張しただけです」
「保健室、行った方がいいぞ」
「大丈夫です」
「無理するなよ」
「はい。ありがとうございます」
ノエルの心配そうな言葉に、カティアは傷ついた右腕をそっと背中側へ隠しながら、無理に笑みを作った。優しくされればされるほど胸の奥が痛む。その痛みは腕の傷よりもずっと深く鋭い。任務を遂行してしまったという事実のほうが、今の彼女には何よりも重くのしかかっていた。




