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セイレーンは終焉を歌わない 〜十二の曲と六芒獣〜  作者: 白雪藤
第一章 王立アストル魔法学院編
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☆1-12☆学院地下最深部

「うわああああっ!学院は俺を落とすことしか考えてないのか!」


「学院全体の意思にするな!」


二人は暗闇の中を落下していた。周囲には青白い光の筋が無数に流れ、空間と空間を接続する魔力の通路──転移経路が渦を巻いている。ノエルの片腕をアルベルトが強く掴み、ソルとルナはノエルの寝間着の襟に必死にしがみついていた。やがて視界の下方に、黒い床がゆっくりと姿を現し始める。


『二人とも下を見て』

『床がある』


「「早く言え!」」


ソルとルナの言葉に、ノエルとアルベルトは叫ぶように言葉を放った。


「アルベルト、氷!」


「命令するな!」


「今はやれ!」


「分かっている!」


 アルベルトは自由な手を下へ向けた。


「《氷床》!…ッ《新雪》!」


着地点には分厚い氷が広がっていたが、そのままでは衝撃を吸収しきれないと判断したアルベルトは、落下の途中で魔法を切り替え、中央部分だけを細かな雪へと変化させる。二人はその柔らかな雪の上へと落下した。


「ぐっ!」


「うわっ!」


雪が大きく舞い上がった。

完全に無傷とはいかなかったものの骨を折るほどの衝撃ではなく、ノエルはそのまま雪の中へ顔から突っ込み、アルベルトは背中から地面に落下した。一方でソルとルナは落下の直前にふわりと飛び上がり、何事もなかったかのように宙へ浮かんでいた。


「冷たっ!」


 ノエルが雪から顔を上げる。


「もう少し柔らかくできなかったのか!」


「君を助けるために即興で作ったんだぞ!」


「顔が冷たい!」


「怪我をしなかっただけ感謝しろ!」


『アルベルトは優秀』

『さすが大型の栗』


「なぜそこで栗だ!」


アルベルトは雪を払いながら立ち上がり、周囲を見回した。暗闇が支配しているが、完全な闇ではない。壁に埋め込まれた古い魔石が、弱々しい青い青光を放っている。

 そこは石造りの通路だった。天井は高く、両側の壁には複雑な古代文字がびっしりと刻まれている。空気は冷たく、長い間誰も足を踏み入れていない場所特有の、乾いた埃の匂いが漂っていた。

 視線の先には、巨大な扉がある。黒い金属で作られたそれは何重もの鎖に封じられ、赤い封印札が無数に貼り付けられていた。中央には太陽と月、その二つを抱くように広がる大樹の枝の紋章が刻まれている。


「ここは……」


 アルベルトの顔から血の気が引いていく。


「知ってるのか?」


「学院地下に封鎖区画があるという噂は聞いたことがある」


「噂?」


「上級生でも立入禁止。教師の許可があっても、最深部までは入れない場所だ」


「最深部?」


ノエルは扉を見上げる。


「まさか、ここが?」


『学院地下の最深部』

『封鎖されている場所』


 ソルとルナは頷き答える。


「何で分かるんだ?」


『結界が多い』

『とても多い』


ノエルは周囲へ目を向けた。見た目には石壁しかないが、ソルとルナにはこの場所を覆う無数の結界が見えているのだろう。


「地上へ戻れそうか?」


 ノエルは、崩れかけた転移陣の残骸を見下ろしながら問いかけた。足元には魔力の痕跡が薄く揺らいでいるが、それはすでに機能を失い、ただの模様へと変わりつつあった。


『難しい』


 ソルの声はいつも通り淡々としているが、その内容は容赦がない。


『転移陣は消えた』


 ルナも続けて告げる。魔力の流れを読み取った結果としての、冷静な断定だった。


「つまり、閉じ込められた?」


 ノエルは一瞬だけ沈黙し、それから現実を整理するように言葉を絞り出した。


『閉じ込められた』

『真夜中の地下に』


 短い返答が、状況の悪さをさらに強調する。

 周囲は石造りの通路で、天井は高く、どこか湿った空気が漂っている。外界との接点は断たれ、静寂だけが支配していた。


「最悪だ……」


 ノエルは深く息を吐き、そのまま頭を抱えた。


「初授業の次は深夜に地下か!」


 思わず声が大きくなる。状況の理不尽さに対する、半ば叫びに近い反応だった。


「大声を出すな」


 アルベルトが制止する。彼は周囲の暗闇へ視線を走らせ、わずかな物音すら聞き逃さないよう神経を尖らせていた。


「何かいるかもしれない」


 その言葉には冗談の余地がない。


「こんな場所に?」


 ノエルは思わず周囲を見回す。だが、そこにあるのは石壁と闇だけだ。


「封鎖されているということは、封鎖する理由が何かあると言うことだ」


 アルベルトの声は冷静だった。感情ではなく、事実から導かれた警告である。


「宝物とか?」


「危険物の可能性を先に考えろ!」


『菓子の可能性』

『古代の菓子』


「いや、古代の菓子なら腐ってると思うぞ」


 あまりにも場違いな単語とツッコミが静寂の中に落ちる。


「お前たちは黙ってろ!」


 その時、巨大な扉の向こうから、ごとり、と何か重いものが動く音が響いた。四人の動きが一斉に止まり、次の瞬間、鎖がゆっくりと揺れ、金属同士が擦れ合う不吉な音だけが静寂の中に残った。


「今、動いたよな」


「見れば分かる」


「風とかじゃないよな?」


「地下最深部で、封印扉の鎖だけを揺らす風があると思うのか?」


「思わない」


『中にナニカいる』

『ノエルを呼んだもの』


 ソルの声が低くなり、ルナが扉を見つめながら呟いたその時、ノエルの契約紋が、再び熱を持った。今度は先ほどとは違い、痛みに近い熱にノエルは顔を思わず顰めた。


「っ……!」


「おい、大丈夫か!?」


「契約紋が……」


太陽と月の紋様が光ると、それに呼応するように扉の中央に刻まれた紋章も輝き始める。扉に貼られていた一枚目の封印札は音もなく剥がれ、床へ落ちる前に灰となって消えた。


「…これは、まずいんじゃないか」


「見れば分かる!」


二枚目、三枚目と封印札が剥がれ、床に落ちる前に灰となって崩れ落ちていく。まるで最初から存在しなかったかのように、消滅していった。封じられていた鎖が不気味な音を立てて強く揺れ、空間そのものが軋むように震える。

やがて、扉の向こう側から低い声が響いた。それは言葉と呼べるものなのかすら判然としない、ただ本能に直接触れてくるような異質な響きだった。だが、その瞬間、ソルとルナの表情から、いつもの無表情さえも消え去る。二人は初めて、明確な警戒と緊張を浮かべていた。


『この声…』

『…知っている』


「誰なんだ?」


二人は答えなかった。答えるよりも早く、巨大な扉の奥から何かが一度だけ扉を叩いた。轟音が響き、地下通路全体が大きく揺れる。天井からは埃と小石がぱらぱらと降り注いだ。


「離れろ!」


アルベルトはノエルの腕を強く引き寄せ、扉から素早く距離を取った。直後、鎖の一本に亀裂が走り、黒い金属が軋む不気味な音を立てる。そして次の瞬間、扉の隙間から細い光が漏れ出した。




            ☆



 ──同じ頃 学院の北塔

その最上階にある結界管理室で、アミュ・プロテクシオンは椅子から静かに立ち上がっていた。部屋の中央には、学院全体を模した立体魔法陣が浮かんでいる。校舎、寮、訓練場、図書塔、地下施設それぞれが光の線で結ばれ、学院を覆う巨大結界の状態を可視化していた。

 本来であれば、そのすべての線は青く安定しているはずだった。


しかし今、その均衡は崩れている。


男子寮の一室から、地下最深部へ向けて、一本の赤い線が不気味に伸びていた。


「おいおい」


 アミュの表情から、普段の軽さが消える。


「そこは繋がらねえ場所だぞ」


指を動かすと、男子寮の該当部屋が拡大表示された。


【一年生男子寮 ノエル・メレディスとアルベルト・ノービリタスの部屋/居住者は二名、現在反応なし】


「よりにもよって、あの二人か」


アミュは外套を掴んだその瞬間、管理室の扉が開いた。


「結界異常の警報を感じたけれど」


コンラッドが入ってきた。寝間着ではなく、いつもの教師用外套を身につけ、すでに杖も携えている。


「何が起きたのかな?」


「地下最深部から召喚系の逆流だ」


「召喚系?」


「下から上へ魔力を伸ばして、生徒を引き込んだ」


 アミュが立体魔法陣を指差すと、その構造を見たコンラッドの目が細くなった。


「対象は?」


「お前のクラスの生徒二人、ノエル・メレディスと、アルベルト・ノービリタス」


 コンラッドの表情から、完全に笑みが消えた。


「部屋へ行こう」


「もういねえと思うぞ」


「直接確認する」


二人の姿はアミュの結界転移によって同時に掻き消え、次の瞬間には男子寮の廊下に立っていた。結界異常によって生徒が目を覚まさないようアミュが周囲の音と魔力を完全に遮断したため、深夜の寮は静寂に包まれ、物音ひとつしない。二人はそのままノエルとアルベルトの部屋の前へと歩み寄り、扉に施された施錠魔法もアミュが指先で軽く触れただけで抵抗なく解除された。


「入るぞ」


「生徒の部屋へ無断で入る時に言う台詞ではないね」


「緊急時だ」


扉が開くと、部屋の中には誰もいなかった。二つ並んだベッドのうち片方の毛布は床へ落ち、机の上には共同生活の規則が書かれた紙がそのまま残されている。床には数枚の紙が散らばり、武器も道具もすべて部屋に置かれたままだった。ただそこにいるはずの本人たちだけが、跡形もなく消えていた。


「…もぬけの殻だな」


 すでにノエルとアルベルトの姿はなく、残されたのは乱れた空気と、魔力の痕跡だけだった。結界の一部が不自然に歪み、床には転移魔法の残滓が薄く光っている。アミュはその場にしゃがみ込み、指先で魔力の流れをなぞった。


「転移の痕跡は新しい。二人だけじゃない。召喚獣も一緒だ」


「……強制転移か」


 隣でコンラッドが周囲を観察する。彼の視線は、壁に刻まれた微細な魔法陣の乱れへと向いていた。それはまるで誰かが“呼ばれた”のではなく、“引きずり込まれた”ような痕跡だった。


「行き先は?」


「地下最深部」


「封鎖区画の?」


「ああ。最深部中の最深部だ」


世界最高位の幻術師である彼の目には、消え去った魔力の輪郭だけが、かすかに残像のように浮かび上がっていた。


「これは学院側の転移術式ではないね」


「ああ」


「外部からの侵入?」


「それも違う」


アミュは立ち上がり、涼しげな青い瞳を鋭く細めた。


「地下に封じてある何かが、内側からノエルの契約紋へ接触した」


「封印は破られてる?」


「まだ全部じゃねえ。だが、最深部の第一封鎖が揺れてる」


「第一封鎖か…教師の大半が存在を知らされていない区画だね」


 コンラッドの声が低くなる。


「そうだ。俺と学院長、それから一部の教師しか知らねえ」


「中には何があるんだい?」


 アミュはすぐには答えなかった。普段なら冗談の一つでも挟むところだが、今はその余裕がない。


「正確には分からねえ」


「君でも?」


「学院創設より前から封じられてる。記録もほとんど残っていない」


「分かっている範囲は?」


「古代召喚術に関係する何かだ」


 部屋の空気は一瞬で張り詰める。コンラッドは静かに視線を動かし、壁際に立てかけられたノエルの剣へと目を向ける。


「剣を置いたままだ」


 アミュはその剣を一瞥し、淡々と分析するように言った。


「寝ているところを引っ張られたんだろう」


 コンラッドは少し間を置き、周囲の魔力残滓を指先で弾くように確認する。


「二人とも寝間着のままだね」


 アミュは無言でその言葉を受け止めた。状況は明白だった。就寝中のまま抵抗の余地もなく引きずり出され、しかも学院の中枢に近い寮から連れ去られている。通常ではあり得ない侵入と転移の痕跡に、アミュは結界の歪みを鋭く睨みつけた。


「学院生活初日としては、随分と刺激的だ」


「お前が言うな」


 アミュは鋭く睨んだが、その目には怒りよりも呆れが混じっていた。


「昼間に散々刺激を与えただろうが」


 コンラッドは肩をすくめ、表情を変えないまま、事実だけを切り取るように言った。


「今回は僕の仕業ではない」


 アミュはその言葉を聞くと、しばらく黙り込み、結界の残滓を見下ろしながら短く息を吐いた。


「分かってる」


 その一言には、信頼と警戒が同時に含まれていた。

 アミュは立ち上がると、崩れかけた魔力の流れを手で払うように散らし、そのまま床へと掌を向けた。次の瞬間、巨大な結界術式が展開される。

 男子寮だけではない。学院全域の地下構造が光の線となって浮かび上がり、幾重にも重なる封鎖門や崩れた旧通路、魔力が渦巻く危険区域までもが可視化されていく。

 その中で、最深部へと至る経路の大半は、すでに通常の方法では通行不可能な状態に封じられていることが明らかになっていた。


「出来るだけ最短で行く」


「直接転移は?」


「無理だ。最深部は俺の結界すら拒絶する」


「学院の番人を拒絶するとは、随分と排他的だね」


「感心してる場合か」


「していないよ」


コンラッドは杖を握りしめた。穏やかな表情は崩れていない。いつも通りの柔らかな微笑みを浮かべたまま、静かにそこに立っている。しかし、その瞳の奥だけは違っていた。冷たく、鋭く、揺るぎない光が宿っている。生徒を守る──それは学院教師にとって単なる規則ではなく、誇りであり、義務であり、何よりも絶対に揺らぐことのない原則だ。相手が魔物であろうと、侵入者であろうと、あるいは学院の内部に潜む何者であろうと、その存在が生徒を脅かすのならば、容赦はしない。


「アミュ」


「何だ」


「二人は生きている?」


 アミュは結界を通じて地下の反応を探った。僅か、本当に僅かではあるが、そこには二つの生体反応が確かに存在しており、さらにその傍らに、より小さな二つの魔力反応が寄り添うように揺れていた。


「生きてる」


「そう」


「ただし、封印の内側にいる何かが、目を覚ましかけてる」


 アミュの顔が険しくなる。


 学院地下の遥か深く。第一封鎖を示す光が赤く点滅し、一度、二度と不規則に明滅したのち、ついに一本の結界線が静かに切断される。直後、室内には乾いた破断音だけが不気味に響き渡った。


「急ごう。あの二人が何かを開ける前に」


「逆だ」


 アミュは部屋の扉へ歩き出した。


「開けようとしてるのは、生徒じゃねえ。下にいる何かが、ノエルを鍵にして出ようとしてる」


 二人の教師は同時に廊下から姿を消し、残された部屋では机の上に置かれた共同生活の規則が夜風に揺れていた。十三番目、最後に書かれた項目──[夜中に勝手に部屋を出ない]その文字だけが、まるで今の状況を嘲笑うかのように、月明かりの下で白く浮かんでいた。



            ☆



学院地下最深部

王立アストル魔法学院が建てられるより、さらに遥か昔から存在していた封鎖区画。そこは幾重もの結界と封印によって隠されたその場所で、巨大な黒い扉が低い唸り声を上げていた。

 扉へ巻きつけられた鎖の一本には、すでに大きな亀裂が走っている。古びた封印札は次々と灰になり、冷たい石床へ落ちることさえなく、空中で消えていった。

 扉の向こう側から漏れる光と、ノエルの右手に刻まれた契約紋、その二つは、まるで互いの存在を確かめ合うように、同じ間隔で明滅している。


「なあ」


 ノエルは扉から視線を外さないまま、隣に立つ仲間へと問いかけた。目の前にあるのは、明らかに異質な存在感を放つ扉だった。古びているのに、そこだけ空気が重く沈み、触れることすら躊躇われるような圧がある。


「これ、開けない方がいいよな」


 その言葉に、即座に反応したのはアルベルトだった。


「当然だ!どう見ても開けてはいけない扉だろう! なぜ確認する必要がある!」


 ノエルはわずかに首を傾げる。


「もしかしたら出口かもしれない」


「出口へあれほど大量の封印を施す者がいるか!」


 アルベルトの声はさらに強くなる。扉の周囲には幾重にも重ねられた魔法陣と封印術式が刻まれており、それは“開けるな”という意思を過剰なまでに主張していた。


「厳重な戸締まり」


 ノエルはぽつりと呟く。


「規模が違う!」


 アルベルトは即座に否定した。もはや戸締まりという言葉で片付けられる次元ではない。そのやり取りを見ていたソルが、淡々と口を開く。


『アルベルトが正しい』

『珍しい』


 続けてルナも静かに同意する。その一言に、アルベルトの眉がぴくりと跳ねた。


「珍しいとは何だ!」


 アルベルトが即座に抗議するが、ソルとルナは特に反応を変えなかった。ノエルはそんな空気を一度だけ見回し、肩をすくめた。


「お前たち、今は喧嘩してる場合じゃないぞ」


 その言葉に、アルベルトが鋭く振り返る。


「主に君が原因だ!」


黒い扉が再び震えた。鈍い轟音が地下通路へと響き渡り、天井からは小石がぱらぱらと落ちる。ノエルとアルベルトは言葉を失い、息を呑んだまま扉を見つめた。鎖が軋み、残っていた封印札が大きく揺れる。しかし今度は、何かが内側から無理やり扉を押し破ろうとしている気配はなかった。むしろ扉そのものが、ノエルを迎え入れようとしているかのように、静かに、しかし確かに揺れており、呼吸をしているかのような、そんな錯覚すら抱かせる不気味な動きを見せていた。


「ノエル」


 アルベルトが低い声で呼ぶ。その声には、いつもの苛立ちではなく、明確な警戒が混じっていた。


「手を下げろ」


「下げてる」


 ノエルは即答するが、実際には手は宙に浮いたままだった。魔法陣へと繋がる契約紋が、扉へ向けて淡く発光している。


「契約紋を扉へ向けるな」


「勝手に光ってるんだよ」


 ノエルは困惑したまま言い返す。意図しているわけではない。だが、魔力は制御を離れ、扉の奥へと引かれるように流れていた。


「なら布で隠せ!」


「隠したら止まるのか?」


「知らない!」


「知らないのに命令するな!」


 緊張の中で、言葉だけが鋭くぶつかり合う。


『二人とも落ち着いて』


 ソルがノエルの肩へ静かに降りた。いつもより声が低く、淡々としている。


『騒いでも扉は止まらない』


 反対側の肩にはルナが座る。こちらも同じく、普段の柔らかさが薄れていた。


「それを先に言え!」


 ノエルは二人を見比べるように視線を動かす。


「止める方法は?」


『分からない』

『術式が古い』


「お前たちでも分からないのか」


 ソルとルナの声音には普段の軽さがなく、どこか硬く沈んでいる。ノエルはその違和感に気づき、眉を寄せた。


「さっき、この声を知ってるって言ったよな」


『言った』


「誰の声なんだ?」


『分からない』

『記憶が遠い』


 その言葉は曖昧でありながら、確かな断絶を含んでいた。


「本当に?」


『『本当』』


二人の返答はあまりにも早かった。長く一緒に過ごしてきたノエルには、それが逆に不自然だとすぐに分かる。ソルとルナは嘘が得意ではなく、そもそも必要以上に何かを隠そうとすること自体が珍しい存在だ。問い詰めようとしたその瞬間、扉の中央に刻まれた紋章が強く輝き始めた。太陽、月、そしてその二つを抱く大樹という神話のような図形が淡い光を帯び、次第に扉全体へと広がっていく。やがて長く絡みついていた鎖が一斉に力を失い、床へと崩れ落ちた。金属がぶつかり合う重い音が幾重にも重なり、静まり返っていた地下通路を大きく震わせた。


「下がれ!」


アルベルトがノエルの前へ出て右手を掲げ、氷の壁を展開しようとした。たが、扉から吹き出したのは攻撃ではなく、土と草の匂いを含んだ温かな風だった。雨上がりの森を思わせるその懐かしい香りを含んだ風が、二人の髪をそっと揺らした。


「……何だ?」


ノエルが目を細めると、扉はゆっくりと左右へ開いていった。その向こうに広がっていたのは闇ではなく、柔らかな金色の光に満ちた広大な空間だった。そこには巨大な石柱が幾本もそびえ立ち、遥か高い天井を支えている。床一面には白い石が敷き詰められ、その表面には無数の紋様が精緻に刻まれていた。左右には水の流れていない古い水路が走り、長い年月の乾きを静かに物語っている。壁際には砕けた祭具や、文字の消えかけた石板が無造作に並び、かつての用途を失ったまま沈黙していた。それは学院の地下というよりも、忘れ去られた神殿そのものだった。


「学院の下に、こんな場所があるのか」


 アルベルトが息を呑む。


「学院より古いんじゃないか」


 ノエルは扉の先を見つめた。


『比べ物にならない』

『とても古い』


 ソルとルナが同時に呟く。


神殿の奥、幾重にも重なる石段を上った先に、一体の巨大な石像が静かに立っていた。長い髪を高い位置で結び、片手に剣を携えた女性の像である。石で作られているにもかかわらず、その佇まいには圧倒的な威厳が宿っており、剣先は静かに地面へと向けられ、もう一方の手は胸元へと添えられていた。その姿はまるで、激しい戦いを終えた英雄が、何か大いなる存在へ祈りを捧げているかのようだった。

 像の台座には古代文字が刻まれていたが、複雑な文字ばかりでノエルにもアルベルトにもそれを読むことはできない。だが、それでも一つだけ確かなことがあった。その人物の顔だけは、王国で暮らす者であれば誰もが知っている存在だった。


「三大英雄……テラ」


 アルベルトが石像を見上げる。

魔神王を討ち滅ぼした三大英雄の首領であり、神より剣聖の称号を授けられた人類史上最高峰の剣士。王国の建国神話にも深く関わり、今なお王都の至るところにその姿が描かれている。彼女の剣は王国の象徴として王城に安置され、歴代の国王は即位の際、その剣に誓いを立てるとされていた。


「似てるな」


 ノエルが何気なく呟く。


「何がだ?」


「いや、どこかで見たような気がする」


「王国中に像があるのだから当然だろう」


「そういう意味じゃなくて……」


ノエルは首を傾げた。目の前の石像には、長い髪に真っ直ぐな鼻筋、意志の強そうな目元が刻まれている。初めて見るはずなのに、どこか不思議な懐かしさがあった。家族の誰かに似ているような、村の誰かに似ているような気がするのに、どうしてもはっきりとは思い出せなかった。


『近づかないで』


 突然、ソルが言った。声はいつもと変わらず平坦で感情の起伏もない。だが、その小さな手だけは、ノエルの寝間着を強く、離さないように掴んでいた。


『危険』


 ルナも反対側からノエルの服を握った。


「何が危険なんだ?」


『分からない』

『でも、近づかない方がいい』


「さっきから、そればかりだな」


ノエルは石像を見つめた。契約紋が熱い。焼けるような痛みではない。誰かに手を握られているような、温かな熱だった。


「呼ばれてる」


「誰にだ」


「分からない」


 ノエルの返答は曖昧で、状況はむしろ不明瞭になる。


「君までそれを言うのか!」


 アルベルトは思わず額を押さえ、深くため息をついた。緊張と困惑が入り混じる中、彼は冷静さを取り戻そうとする。


「分からないものへ近づくな。これは探索の基本だ」


 理屈としては正しい。だが、目の前の状況はその基本論だけでは片付かない空気を持っていた。


「じゃあ、ここにずっと立ってるのか?」


「教師が来るまで待つ」


 アルベルトは即答する。それが最も安全で、最も合理的な選択だった。


「来られるのか?」


「……来る」


「今、間があったぞ」


「確か、学院全体の結界を管理している優秀な先生がいると聞いたことがある。異変には気づいているはずだ」


「じゃあ、ここで待つ?」


「そうだ」


 アルベルトは短く、しかしはっきりと答えた。だがその直後、石像の方から小さな音がした。ほんの一節、人の声とも風の音とも区別できないほど微かな旋律が流れ…それは確かに歌だった。ノエルの目が見開かれる。


「今の……」


「どうした?」


「歌が聞こえた」


「僕には何も聞こえなかったぞ」


『聞こえた』

『妾たちにも』


ルナが呟き、ソルが石像を見上げた瞬間、ノエルの胸は不自然なほど強く脈打った。知っている──今の旋律を、知っている。ルーベ村で何度も耳にした、母が口ずさんでいた歌。そして、叔母のカナリアが幼い頃、母へ歌っていたと伝えられてきた子守唄だった。ノエル自身も妹のリーナやソル、ルナに何度となく歌わされてきた曲であり、歌詞がなくとも、楽器がなくとも、たった一音を聞いただけで自然と続きが口をついて出るほど、身体の奥深くに刻み込まれた旋律だった。


「村の歌だ」


「何?」


「ルーベ村に昔から伝わってる歌」


「なぜ王都の地下で聞こえる?」


「俺に聞くなよ」


再び旋律が響いた。今度は少し長く、空間そのものに染み込むように続いていく。石像の胸元からは淡い光が滲み出し、静かに脈打つように明滅していた。その光に引かれるように、ノエルの足は無意識のまま一歩、前へと踏み出していた。


『ノエル、だめ』

『行かないで』


ソルとルナの声は、わずかに震えていた。ノエルは思わず足を止める。これほど露骨に怯える二人の姿を、彼はほとんど見たことがなかった。


「何を知ってるんだ?…この石像の人と、会ったことがあるのか?」


『『ない』』


 同時に答える二人をノエルは見つめる。やはり何かを隠しているのは明らかだったが、問い詰めれば二人を傷つけてしまうような気がして、言葉を飲み込んだ。


「分かった、今は聞かない。でも、俺を呼んだ理由を知りたいからあそこには行くぞ」


『危険』

『ダメ』


「危険なのは分かってる」


『なら、行かないで』

『お願い』


「そうもいかないだろ」


 ノエルは契約紋へ視線を落とした。石像の周囲にはすでに微細な光の粒が集まり始めており、まるで何かに呼応するように静かに、しかし確実に反応していた。


「これが俺だけの問題なら、放っておいてもいい。でも、学院の地下にある何かが契約紋へ触れて、俺たちを連れてきたんだ。放っておけば、次は別の誰かが巻き込まれるかもしれない」


「君はまた、そういうことを」


 アルベルトが呆れたように息を吐いた。


「何だよ」


「自分の危険を計算へ入れない」


「入れてる」


「入れた上で無視しているだけだろう!」


「同じじゃないか?」


「まったく違う!」


アルベルトは苛立ったように髪を掻き、ため息を一つ吐くと、そのままノエルの横へ並んだ。


「行くなら、僕も行く」


 アルベルトは当然のように言い切った。


「待つんじゃなかったのか?」


「一人で行かせれば、君は必ず余計なことをする」


「信用ないな」


「今までの行動を振り返れ!」


 即座に返され、ノエルは言葉に詰まる。

 そのやり取りを見ていたソルとルナが、淡々と結論を下した。


『正しい判断』

『ノエル一人は危険』


「お前たちはどっちの味方なんだ」


『ノエルの味方』

『だから監視が必要』


「愛情の形が厳しい!」


 そんな中、アルベルトはすでに歩き出していた。


「ほら、行くぞ」


「お前から行くのかよ」


「僕が前を歩く。罠があれば氷で防ぐ」


「いや、俺が前に出る」


「君は武器を持っていないだろう」


「お前も持ってないだろ」


「僕は氷で剣を作れる」


「ずるい」


「努力の成果だ!」


「俺も歌で剣を作れないかな」


「今この場で新技を開発するな!」


『音の剣とは珍しい』

『おもしろ…格好良い』


 ソルとルナが、興味深そうに呟く。


「だろ?」


「二人とも乗るな!」


石段を一段ずつ上っていくたびに、テラの石像は少しずつその輪郭を大きくしていった。近づくほどに圧倒的な存在感が増し、まるでこちらを見下ろしているかのような錯覚すら覚える。

 その足元には、剣や花を模した石の彫刻が静かに並べられていた。どれも長い年月を経て風化し、角は丸く削れ、一部は欠け落ちている。時の流れだけが確かにそこに刻まれていた。

 神殿全体に刻まれた文字は、全て古代文字で書かれていて、あまりにも難しすぎてその意味を読み取ることができない。

しかし、その中でただ一つ、石像の台座だけは不自然なほどに傷が少なかった。風化の痕跡すら薄く、まるで時間の流れから切り離されているかのように、そこだけがつい最近作られたかのように新しく保たれている。


「気をつけろ」


 アルベルトが足を止めた。その視線は、遺跡の奥に据えられた台座へと向けられている。


「台座の周囲へ魔法陣がある」


「見えるのか?」


「僅かに。発動していない術式だ」


 空間に薄く滲むように刻まれた魔法陣は、今は沈黙している。しかし、完全に消えているわけではなく、触れれば即座に反応する種類のものだと分かる。


『ノエルが入るのは危険』

『魔法が発動する』


「やっぱり罠か?」


『分からない』


「便利な言葉だな、それ」


『とても便利』

『今後も使う』


「開き直るな」


ノエルは魔法陣の手前に立った。金色の線と青白い線が複雑に絡み合い、円形の術式を形作っている。その中心には大樹の紋章が刻まれていた。ノエルが一歩踏み入れた瞬間、神殿全体が大きく震えた。


「ノエル!」


「まだ何もしてない!」


「踏み入っただろう!」


「一歩だけだ!」


「それをしたと言う!」


魔法陣が輝き、アルベルトがノエルの腕を掴もうとするが、二人の間には柔らかな光の壁が生まれ、その手は届かなかった。


「くっ!」


アルベルトの手が弾かれ、ノエルは一人、魔法陣の中心へと引き寄せられた。


『『ノエル!』』


ソルとルナは光の壁へ飛び込むと、今度は弾かれることなく、そのまま小さな身体で結界をすり抜け、ノエルと同じ空間へと入っていった。


「何で僕だけ拒絶されるんだ!」


「日頃の行いじゃないか?」


「君よりは良い!」


 石像の胸元から漏れていた光は、ゆっくりと人の形を成していった。長い黒髪が揺れ、赤い瞳が静かに開く。細身でありながら鍛え抜かれた体つきは、まさに石像と同じ女性そのものだった。だがその姿は半透明で、輪郭は時折揺らぎ、今にも消えてしまいそうな儚さを帯びていた。


「テラ……」


アルベルトが息を呑み、ノエルもまた言葉を失った。歴史書で見た肖像画でも、王都の広場に立つ銅像でもない。目の前に現れた女性は、英雄というよりも一人の人間に見えた。そこには疲れも悲しみも滲んでいたが、それでもなお何かを守ろうとする強い意志が宿っている。その赤い瞳が、まっすぐにノエルへと向けられた。


《……誰?》


 声が直接、頭の中へ響いた。ノエルは戸惑いながらも、その声に応えるように言葉を返した。


「ノエル。ノエル・メレディス」


《メレディス……》


テラの残留思念は、まるで名前を確かめるように同じ言葉を繰り返しながら、静かにノエルを見つめていた。その視線はゆっくりと彼の顔へと移り、目元、髪、そして契約紋へと一つひとつ丁寧に辿るように動いていき、テラの手が伸びる。半透明の指先がノエルの頬へ触れようとしたが、その直前で輪郭は崩れ、静かに消えかけていった。


《その顔…その紋章…そう…続いていたのね》


「何が?」


《私の……血が……まだ……》


言葉が途切れ、残留思念の姿に激しい乱れが走った。


「血?俺の家族を知ってるのか?」


《家族……あの子…生きて……》


 テラの赤い瞳が揺れる。断片的な言葉と途切れた過去の記憶が、脳裏に浮かんでは砕けていくが、それらは意味を成しかけたまま最後まで形を保つことなく砂のように崩れ落ちていく。ノエルはその残滓を追うように、一歩だけ近づいた。


「待ってくれ。あの子って誰だ?ルーベ村を知ってるのか?」


テラの残留思念が顔を上げる。その反応は、これまでの無機質な揺らぎとは明らかに異なっており、“ルーベ村”という言葉に対して、確かな意味を持って反応していた。


《ルーベ……懐かしい…守られていた……約束が……》


ソルとルナの体が大きく震えた。普段はほとんど感情を表に出さない二人が、今は目を見開き、ソルのオレンジ色の瞳には涙のような光が浮かび、ルナは両手を口元へ当てていた。


『主……』


 ソルの唇から、微かな声が漏れたが、ノエルにはそれを聞き取ることはできなかった。だがその瞬間、テラの残留思念は確かに二人へと視線を向けていた。


《ソル……ルナ……?》


『主!』

『主! 妾たちはここにいる!』


 ソルが叫び、ルナも泣きそうな声で呼びかけるのを聞いて、ノエルは息を呑んだ。二人がこんな声を出すところを、彼は今まで一度も聞いたことがなかった。そんな彼の驚きの中で、テラは静かに微笑む。その表情は英雄として語られる像の厳しさとはまるで違い、どこまでも優しく、どこか母親のような温もりを帯びていた。


《……守ってくれていたのね》


 その声は、長い時間を越えて届いたように静かだった。


『ずっと、約束を守った』

『ずっと、村を守った』


「おい」


 ノエルは二人を見上げる。


「どういうことだよ?二人はテラと知り合いなのか?」


 ノエルの問いかけに、ソルとルナは答えない。代わりに、テラの残留思念が三人を見つめていた。


《この子が……次の契約者なのね》


『そう』

『ノエル』


 ソルとルナがノエルの肩へ降りる。


『『妾たちの大切な子』』


 テラの瞳が、わずかに柔らかく細められた。


《あまりにも綺麗な穢れなき光…よく似ている……私が愛した…あの人に…》


「え?」


残留思念は再び揺らぎ、肝心な言葉ほど霧のように溶けて消えていった。


「待ってくれ!」


 ノエルは手を伸ばす。


「俺は、あんたの何なんだ!俺の家族と、ルーベ村と、ソルたちに何がある!」


《記憶が……もう……残せなかった……名前も……顔も……守るために、消した……》


「何を消したんだ?」


《すべてを》


 短い言葉には、深い悲しみが滲んでいた。ノエルにも、それだけははっきりと分かった。テラは何かを隠している。それは歴史から、世界から、そして自分自身の記憶からさえも消し去られたものだった。


《時間がない…聞いて》


 残留思念がノエルへ向き直る。

 赤い瞳が強い光を宿した瞬間、神殿の空気は一変し、風はぴたりと止まり、床に刻まれた紋様が一斉に輝き始めた。


《闇に世界が飲み込まれる前に……六芒獣を目覚めさせなければならない》


「六芒獣?」


 ノエルの背筋に冷たいものが走る。その言葉には既視感があった。あの夜、梟とニグルムが交わしていた会話の中で、“六芒獣に関する情報が想定より少ない”と語られていたことを思い出す。


《六芒獣は……世界を支える六つの核》


「核……世界の?」


 アルベルトが息を呑む。


《そう。光と闇、生命と死、時間と空間。その均衡を支える“根”》


「規模が大きすぎる!」


 思わずノエルが叫び、アルベルトも光の壁の外から声を上げた。


「六芒獣はどこにいるんだ!せめて国名か方角を!」


《……北》


「北か!」


《南、東、西……》


「全部じゃないか!」


「世界全体ってことかよ!」


《六芒獣は力であり、命であり、世界を維持する鍵》


「どうやって目覚めさせる?」


《十二の歌》


「歌?」


《星の生命力、世界と繋がることができる歌であり、祈りの歌。星と世界を繋ぐ祈りの旋律》


神殿のどこからか、旋律が流れ始める。先ほど聞こえたのは子守唄だった。だが、今回はそれだけではない。一曲目から二曲目へ、二曲目から三曲目へと、異なる旋律が途切れることなく連なるように響いていく。ノエルは、そのすべてを知っていた。


「これ……ルーベ村の…」


ルーベ村に伝わる十二曲の歌

それは、"始まり"の歌から、憤怒、歓楽、希望、祭り、戦歌、繋がり、愛歌、豊穣、祈り、葬送、そして子守唄と続く、ごくありふれた歌であり、村人なら誰もが一度は耳にする身近な旋律だった。

ノエルにとってもそれは例外ではなく、生まれた時から生活の中に溶け込んでいた音楽であり、母に聞かされ、妹リーナにせがまれ、そしてソルとルナに毎日のように歌わされるうちに、自然と身体に染みついていった。

そのため歌詞を思い出す必要すらなく、最初の一音さえ耳にすれば、最後まで迷うことなく歌い切ることができるほど、彼の中に深く刻まれた旋律となっていた。


「十二曲全部、知ってる」


《私があの人に全てを残したから…十二の歌は、十二の祈り。一つだけでは鍵にならない》


「全部歌うのか?」


《世界が必要とするその時に》


「また曖昧だな!」


《召喚士の称号をもつ、貴方にしか出来ないこと…そして忘れないで…契約とは、力を借りることではない》


 その視線がソルとルナへ向く。


《相手の命を背負うことだということを》


ノエルは、自分の肩にいる二人を見た。

いつもは菓子を要求し、容赦のない言葉を浴びせ、勝手に頭の上を椅子代わりにする妖精たち。

けれど二人は、ノエルが生まれた時からずっと見守ってきた存在だった。

危険な時には必ず守り、悲しい時には傍にいて、そして何よりも、ノエルの命を自分たちの命より大切に扱ってきた。


「相手の命を、背負う」


 その言葉は、静かに空気の中へ落ちた。ノエルは一瞬、言葉の意味を測りかねるように視線を落とす。


「俺が、ソルとルナの命を?」


 問いかけは確認というより、現実を受け止めきれない戸惑いに近かった。


《その子たちもあなたの命を背負っている》


 それは一方的な関係ではなく、互いに支え合う重なり合いとして語られる。


『背負っている』

『最初から』


 ソルとルナはそっとノエルの頬へ寄り添うように近づいた。


『『ノエルの命は、妾たちの命』』


 その言葉は、所有ではなく結びつきの宣言だったと受け取ったノエルは、小さく息を吐いた。


「重いな」


『契約が重いのは当然』

『でも大切なこと』


「そういう意味じゃなくて……いや、そういう意味か」


 ノエルは契約紋を握りしめた。

 契約を結んだあの時、ソルとルナは何も求めず、ただ静かに「共に行く」とだけ告げた。その言葉の重さを、自分は本当に理解していたのだろうか。力を借りること、召喚すること、守ってもらうこと。それだけではない。それは相手の命を預かるということだった。相手が傷つけば自分もまた傷つき、相手の未来にまで責任を持つということ。その事実が、ノエルの胸へ初めて明確な重みとして落ちていった。

 

《もう、ひと…つ……王を……信じては……だめ》


テラの声と映像に突然ノイズが走り、神殿を満たしていた光も次第にその輝きを失っていった。残された時間が少ないことは、誰の目にも明らかだった。


「待ってください!」


 アルベルトが光の壁へ手をつく。


「それは現在の国王を指しているのですか! それとも王族全体を!」


《…王…り…の……玉座に……座る者……》



「理由を!」


《…王…剣を…》


「剣?」


王城に飾られているテラの剣──王国の“象徴”そのことを指しているのか、それとも別の剣なのか。


《……は……彼ら…を……》


 声が途切れた瞬間、テラの姿が大きく揺らいだ。


「テラ!まだ聞きたいことがある!」


《私と…彼の…し…そ…あなたが…この言葉を……聞く…恐れて……いた…でも……嬉しい…私の血が…まだ続いて…いた》


赤い瞳から、透明な涙が流れる。今度は、途切れ途切れではあるが、“私の血”と言う言葉は、はっきりと聞こえ、ノエルは言葉に詰まる。


「俺が……あんたの?」


テラの手がノエルの頬に触れ、そこにかすかな温もりが残った。


《遠い……遠い未来の…子…どうか…生きて》


 その声は、祈りのように静かで、しかし確かな重みを持って響いていた。


「待ってくれ」


 ノエルの呼びかけは届かない。空間そのものが、すでに別れの方向へと傾いている。


《歌を……忘れ…ないで》


 言葉は、記憶の奥へと刻み込まれるように落ちていく。


「俺の家族は── 」


 問いかけは途中で途切れた。答えを得る前に、時間がそれを許さない。


《ソル…ルナ…お願い…ね》


 テラは二人へ目を向ける。その瞬間、ソルの瞳から光る雫がこぼれ落ちた。


『当然』


 短い返答。しかし、その声は明らかに震えている。


『何度でも守る』


 ルナもまた、涙を浮かべながら静かに頷いた。


『『今度こそ、最後まで』』


「今度こそ?どういう意味だ?」


 しかし、その疑問に対する返答はなかった。

 テラの残留思念はすでに輪郭を失い始め、存在そのものが光の粒へと分解され、世界へ溶けていく。


《十二の歌を》


 声は遠ざかり、もはや言葉というよりも残響に近い


《六つの核を》


 輪郭はさらに薄れ、意味だけがかろうじて残る


《契約した命を》


 そして最後にテラは微笑んだ。


《彼らと世界を救って》


光が弾け、風が神殿を駆け抜ける。長い黒髪と赤い瞳を持つ英雄の姿は、その瞬間に完全に消え去った。

 静寂が支配する神殿の中には、もはや何も残っていなかった。ただテラの石像だけが、変わらぬ姿でそこに立ち続けている。ノエルはその場からしばらく動くことができず、ただ呆然とそれを見つめていた。自分の血が続いていたというテラの言葉が脳裏に蘇り、その意味するところが一つしかないことを、彼は否応なく理解する。


「俺が、三大英雄テラの子孫?」


 声に出しても、現実味がなかった。

 ルーベ村の平民として生まれ、畑仕事を手伝い、妹の相手をし、時には料理をして鍋を焦がす。村人からは冗談交じりに「セイレーン」などと呼ばれ、家族に見送られて学院へ来た。

 そんな自分が、突然「歴史上の英雄の血を引いている」などと言われても、簡単に信じられるはずがなかった。


「何かの間違いじゃないか?」


『間違いではない』


ソルが小さく答えると、ノエルはゆっくり振り返った。


「知ってたのか?俺がテラの子孫だって」


 ルナは視線をそらし、明確な返答を避けるように沈黙した。


『知っていた』


 ソルは短く、しかしはっきりと答え、その一言で空気がわずかに重くなった。


「何で黙ってたんだ!」


 感情が一気に溢れ、怒りというより裏切られたような戸惑いに近い声が漏れた。


『約束だから』

『テラとの』


「いつ約束したんだ?」


 二人はすぐには答えなかった。沈黙が、答えの代わりのように長く続く中、ノエルはその沈黙に耐えきれず、さらに追い詰めるように言葉を重ねる。


「会ったことがないって言ったよな」


『言った』


「嘘だったのか?」 


 その問いに、ソルとルナは一瞬だけ目を伏せたあと、静かにそれが嘘であったことを認めた。空気がぴたりと止まり、その場にいる誰もが息を呑むような沈黙が落ちる。

ソルとルナは小さく頭を下げた。


『『ごめんなさい』』


謝罪は短かったが、その声には深い苦しみが滲んでいた。ずっと隠されていた…家族のこと、自分の血筋、そしてソルとルナの過去。知りたいし、すべて聞きたい。それでも、テラが現れた時に見せた二人の表情が頭から離れなかった。あれは、長い間会えなかった大切な存在に向ける顔だった。喜びだけではない。深い後悔、喪失、そして何千年もの悲しみが混ざっていた。


「今も、言えないのか?」


 ノエルは静かに問いかけた。声は落ち着いているが、その奥には抑えきれない苛立ちと不安が滲んでいた。肩の上に座るソルとルナは、互いに一瞬だけ視線を交わす。


『言えない』

『まだ』


「じゃあ、いつなら言えるんだ?」


 問いは鋭いが、責めるというよりは確認に近いものだった。


『ノエルが知るべき時』


「それを決めるのは、俺じゃないのか?」


 ソルの言葉にノエルは視線を上げると、その問いにソルとルナは一瞬だけ沈黙した。


『本当は、そう』

『でも、約束がある』


「約束?」


ソルとルナは、同時に小さく頷いた。


「…ずるいな」


『妾たちはずるい』

『分かっている』


 二人は否定しなかった。その潔さが、かえってノエルの胸に重く重く沈み込む。しばらくの間、誰も言葉を発することはなく、ただ静かな沈黙だけがその場を支配していた。やがてノエルはゆっくりと視線を落とし、小さく肩を落とした。


「……分かった」


 その一言は、諦めではなく受け入れに近かった。


『怒らない?』


「怒ってる」


『かなり?』


「少しだけ」


『少しだけしか怒ってない』

『ノエルは優しい』


 ソルとルナの言葉にノエルは苦笑しながら、二人をまっすぐ見た。


「ただし!これ以上、俺に関わることで危険があるなら隠すな」


 その声には、はっきりとした意思があった。


「全部話せとは言わない。でも、命に関わることは絶対に言え。俺だけじゃない。アルベルトや学院の誰かが巻き込まれる可能性もある」


 その言葉に、二人の表情がわずかに変わる。


『分かった』

『約束する』


ルナも同じように頷いた。ノエルは右手を見下ろす。そこには契約の紋が淡く刻まれていた。


「契約って、命を背負うことなんだろ。俺だけ守られて、何も知らないままは嫌だ」


 その言葉には、強い拒絶と覚悟が混ざっていた。


「お前たちの命も、俺が背負う」


その一言は、守られる側ではなく共に背負う者としての宣言だった。ソルとルナはしばらく何も言わず、ただ静かにノエルの肩の上で目を閉じる。その沈黙は拒絶ではなく、むしろ受け入れに近いものだった。


『ノエル格好良い』

『寝間着でなければ』


「今それを言うか!」


『裾が曲がっている』

『髪も跳ねている』


「地下に飛ばされた直後なんだから仕方ないだろ!感動的な場面を台無しにするな!」


 ノエルが思わず叫ぶと、張り詰めていた空気が一気に緩む。それと同時に周囲を覆っていた光の壁も静かに消えていった。そこへすぐにアルベルトが駆け寄ってくる。


「無事か?」


「何とか」


「体に異常は?」


「ない」


「契約紋は?」


「もう光ってない」


アルベルトはノエルの右手を確認する。熱も光もすでに消え、そこにはいつもの契約紋だけが静かに刻まれているだけだった。


「今の話…君がテラの子孫だという話は、あまり他言しない方がいい。教師達にはここに転移したことや、この中に入ってしまったことを知られれば、色々事情を聞かれて言わざるを得ないかも知れないが…」


 アルベルトは一度言葉を選ぶように、慎重に口を開いた。


「やっぱり?」


 ノエルが軽く返すと、アルベルトは首を振った。


「当然だ。三大英雄テラに子がいたという公式記録は存在しない。もしその“子孫”が王国の辺境にいると知れれば、間違いなく大騒ぎになる」


「俺、王城に連れていかれたりする?」


「可能性はある」


「それは嫌だな」


「僕も勧めない」


 ノエルが少し意外そうに目を細める。


「公爵の息子なのに?」


「公爵家だからこそだ」


 アルベルトは真剣な表情のまま続けた。


「貴族も王族も、英雄の血というものを政治に利用する。君自身の意思がどうであれ、関係なく巻き込まれる」


「王を信じるな、ってやつか」


「あの言葉が現王家そのものを指しているとは限らない」


「でも、無視もできない」


「そうだ」


二人は石像を見上げた。王国ではテラは忠誠の英雄として語り継がれ、王へ剣を捧げ、王国を守り、命を懸けて魔神王を倒した存在とされている。しかし、その英雄が王を信じるなと警告していたという事実は、歴史のどこかに隠された知られざる真実の存在を示唆していた。


「六芒獣と六つの核、十二の歌、契約の意味か……」


 ノエルの呟きに対し、アルベルトは腕を組みながら静かに言葉を継いだ。


「王というのも結局は詳細不明のままだったな」


『覚えることが多い』

『ノエルには難しい』


 ソルとルナは、いつも通り淡々と事実だけを述べる。


「俺を馬鹿扱いするな!」


「十二曲を本当にすべて暗記しているのか?」


「してる」


「本当に?」


「何だ、その疑う目は」


「君が十二曲分の歌詞を正確に記憶できるとは思えない」


「失礼すぎるだろ!」


『勉強は覚えない』

『歌は覚える』


「興味の差だよな」


「堂々と言うな!」


 ノエルは胸を張る。


「歌詞なしでも歌えるぞ」


「それはもはや歌詞ではなく旋律では?」


「そうとも言う」


「最初からそう言え!」


『今歌う?』


 ルナが期待を込めて尋ねる。


「歌わない」


『なぜ』


「地下で歌ったら、また何か起きそうだろ」


『正しい』

『珍しい』


「その評価やめろ!」


 ノエルは頭を抱えた。

 その時、神殿の奥から重い音が響く。石が擦れ合うような低い軋みと、長い間眠っていた機械が再び動き出すような駆動音が重なり、床に刻まれた紋様がゆっくりと赤く染まっていく。


「今度は何だ」


 ノエルが周囲を見回す。


「テラの残留思念が消えたことで、別の術式が起動したのかもしれない」


アルベルトが身構えた。神殿の四隅で、これまでただの石柱にしか見えなかった部分がゆっくりと動き始め、表面の石片が剥がれ落ちると、その下から黒い金属で構成された巨大な人型が姿を現した。一体、二体、三体、四体と次々に起動し、それぞれ三メートルを超える巨体で、頭部には顔の代わりに横一文字の赤い光だけが灯り、胴体には古代文字が刻まれている。さらに両腕には異なる武装が備わっており、一体は大剣を携え、一体は槍を構え、一体は巨大な弓を背負い、そして最後の一体は両拳に分厚い装甲を備えた、純粋な破壊のためだけに作られた存在だった。


「何だ、あれ」


『古代の守護機兵』

『古代の兵器』


「敵か?」


『たぶん…』

『…敵』


「何を基準に言ってる?」


四体の頭部が同時に動き、赤い光がノエルとアルベルトを正確に捉えた。


神殿全体に、無機質な機械音声が響き渡る。


《生体反応、二》

《妖精反応、二》

《認証照合》

《登録なし》


「登録って何だ?」


「…嫌な予感しかしない」


《封鎖区画への侵入を確認》

《継承者認証、不完全》

《警告》

《直ちに武装解除せよ》


ノエルは自分の寝間着を見下ろし、困惑したように呟く。


「武装してない」


「僕もだ」


《武装解除を確認できず》


「何でだよ!」


「契約紋か魔力を武装と判定しているのかもしれない!」


《侵入者と認定》

《排除処理へ移行》


「話を聞け!」


四体の守護機兵が一斉に武器を構えた。大剣を携えた機兵が一歩前へ踏み出す。その足が床に落ちた瞬間、神殿全体が大きく揺れた。


「逃げるぞ!」


 ノエルとアルベルトは同時に振り返った。開いていたはずの黒い扉が、音を立ててゆっくりと閉じ始めていた。


「「待て!」」


 二人は走り出した。だが、扉は容赦なく閉じる。最後の隙間へノエルが飛び込もうとした瞬間、アルベルトが襟を掴んで引き戻した。


「危ない!」


「行けたかもしれないだろ!」


「首だけ外へ出た状態で挟まれたらどうする!」


「想像させるな!」


黒い扉は完全に閉ざされており、鎖も封印札も見当たらないにもかかわらず、押しても引いてもまるで固定されたかのようにびくともしなかった。


「開かない!」


「分かっている!」


 背後から金属音が迫る。大剣の守護機兵、槍の守護機兵が左右へ回り込むように動き、弓の機兵は後方で狙いを定め、拳の機兵は石段を下りてきた。


「囲まれるぞ」


アルベルトは扉へ背を向けると、右手を横へ振った。すると周囲の冷気が一気に集まり、透明な刀身を持つ氷の刃が形作られていく。片手半ほどの長さを持つ氷剣を生み出した彼は、それを静かに正眼へと構えた。


「僕が前へ出る」


「俺も戦う」


「何で戦うつもりだ」


ノエルは両手を見下ろした。剣は寮の部屋に置いたままで、短剣も防具も身につけていない。完全な寝間着姿だった。


「……素手?」


「無謀だ!」


『大きな声』

『歌を歌う』


「歌ってどうする!」


『敵が聞き惚れる』

『その間に逃げる』


「守護機兵に耳があるのか?」


『…ない?』

『言葉が通じるなら大丈夫…だと思う』


「人の話を聞かない奴らだぞ!」


弓の機兵が矢をつがえる。だがそれは通常の矢ではなく、機兵の腕ほどもある巨大な金属杭であり、その先端には赤い魔力が濃密に収束していた。


「ノエル、後ろへ!」


「四体だぞ!!」


「見れば分かる」


「一体ずつ相手する?」


「向こうが待ってくれると思うか?」


「礼儀正しい古代兵器かもしれない」


《排除開始》


「礼儀がない!」


「だから言っただろう!」


大剣の機兵が走り出した。巨大な体からは想像できない速度で石床を砕きながら、一気に距離を詰めてくる。ほぼ同時に槍の機兵が横から回り込み、弓の機兵はすでに狙いを定め、拳の機兵は正面で両腕を持ち上げた。完全な包囲。逃げ道はない。アルベルトは氷剣を握り締めた。


「僕が三体を引き受ける」


「無茶言うな!」


ノエルが反射的に叫ぶ。戦況はすでに混乱しており、複数の敵性反応が同時に動いている状態だ。冷静に見ても、一人で三体を相手取るのは明らかに過負荷だった。


「君は武器がないだろう!」


「だからって一人で三体は無理だ!」


「なら、何か考えろ!」


「そんな、急に言われても!」


『ノエル』

『妾たちを呼んで』


ソルが肩からふわりと浮かび上がり、続けてルナも静かに宙へと上がった。


『『契約の力を使う』』


「でも、地下へ来た時から魔力の流れがおかしい」


ノエルは即座に現状の違和感を口にする。周囲の魔力は乱れ、契約の安定性にも影響が出ているのは明らかだった。それでも、ソルとルナは揺るがない。


『できる』

『少しだけ』


短い言葉だったが、その中には確かな意思と信頼が込められていた。

テラの言葉が脳裏に蘇る──契約とは、相手の命を背負うこと。無理に力を使わせれば、二人を傷つけてしまうかもしれない。


「無茶はさせない」


『ノエルも無茶をしない』


「それは約束できない」


『なら妾たちも約束しない』


「そこは素直に従えよ!」


 アルベルトが叫ぶ。


「相談は後にしろ! 来るぞ!」


巨大な大剣が空気を裂きながら振り下ろされる。圧倒的な質量を前に、アルベルトは即座に氷剣を構えて迎撃の姿勢を取る。一方でノエルは武器を持たないまま両の手を強く握り締める。ソルとルナは、正面に立ちはだかる四体の古代守護機兵を見据えていた。重く沈黙した戦場の中、アルベルトが短く問いかける。


「ノエル」


「何だ」


「君、剣がなければ何ができる」


「歌える」


「戦闘向きの答えを出せ!」


 アルベルトの怒声が返るが、ノエルはさらに続ける。


「料理もできる」


「敵より先に僕たちが死ぬ!」


 緊張感のある戦場に、あまりにも場違いな会話が響く。そのやり取りに呼応するように、ソルとルナの声が重なった。


『鍋がないから大丈夫』

『安全』


「俺の心を攻撃するな!」


 ノエルの叫びが、戦場の空気を一瞬だけ揺らした。轟音とともに、守護機兵の大剣が二人の眼前へ迫る。氷剣を構えるアルベルトと、素手のノエル。出口はすでに封鎖され、教師たちの到着もまだない。古代神殿の中央で、学院生活二日目を前にしたあまりにも理不尽な戦いが、今まさに始まろうとしていた。








ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

今話は結構、長めになってしまいました。

これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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