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憂さ晴らしの決戦(演技)

 リサーナちゃんを保護した私は、カーバンクル家に戻った。


 そこで、改めて今後について話し合いの場を持つことに。


 侯爵様、ベアトリーチェ様、それにカラルバさんも交えて。


「……ふぅー……なるほどな、そないなことになっとったんか……」


 中でも一番驚いていたのは、間違いなくカラルバさんだろう。


 もちろん、侯爵様やベアトリーチェ様も、リサーナちゃんが私を使って自殺しようとしてたって話は驚いてたけど……カラルバさんはそれ以前に、リサーナちゃんが吸血鬼だって話からして初耳なんだからね。


「まあ、色々言いたいことはある……せやけど、まず……」


 険しい表情で、カラルバさんはリサーナちゃんの方へ向く。


 あまりに恐ろしい形相に、ちょっとビクッてなってるリサーナちゃんへ、カラルバさんは……。


「大変、申し訳ありませんでしたァ!!」


 びっくりするくらいの大音量で謝罪し、勢いよく直角に頭を下げた。


 わけが分からなくて混乱している様子のリサーナちゃんへ、カラルバさんは言葉を重ねていく。


「オレが信用ならんばかりに、お嬢にいらん気苦労を……!! 侯爵閣下、姉御も、ホンマに申し訳ありませんでした!!」


「か、カラルバさん! そんなの、私が勝手に思い詰めてただけだから……!」


 リサーナちゃんが慌てて擁護しているけど、カラルバさんの表情は全く晴れない。


 相変わらず険しい表情のまま、今度は私の方へ向き直る。


 ひえっ、怖い……。


「それから……不甲斐ないオレの代わりにお嬢を救ってくれて、心から感謝する。この恩は一生忘れへん」


「いえその……私も自分の好きにやっただけなので……」


 このめちゃくちゃに怖い顔からこんなにも真摯な言葉が飛び出して来ると、ギャップが凄すぎてリアクションに困っちゃう。

 私はどういうテンションでこれを受け止めればいいの?


「せやけど、事が済んだからって一件落着とは行かへん。吸血鬼のことは一般人の間でも広く噂になっとるからな、何かしらの“ケリ”は付けんと」


「“討伐しました”って広報するだけじゃ、ダメなんですか……?」


「別にそれでもええんやけど、得体のしれないバケモンやって言われとるからな。魔物でも、討伐証明に体の一部を保存しとくのが普通やろ? 口だけでどれだけのモンが信じるか……あ、お嬢がバケモンて言うとるわけやないですよ!?」


 慌てるカラルバさんを尻目に、私もそれは一理あるかもしれないと納得する。


 普通の魔物なら、みんなその存在を知っているから、カーバンクル家ほどの権威を後ろ盾として“倒した”って言えば、誰だって信じるだろう。


 でも今回、相手は“吸血鬼”だ。

 その正体も、どんな存在なのかも不明なまま“倒した”とだけ伝えられても、不安は残るかもしれない。


「適当な人型の魔物の首を加工して、それらしく吊るすなり何なりすればいい。君達魔導師が事件を解決してくれたのだ、後のことは私がやるとも」


 侯爵様が、心配はいらないとばかりに胸を叩く。


 けど、人型の魔物って……ゴブリンとかだよね?

 いくら加工したところで、それが吸血鬼だなんて思って貰えるかなぁ……。


「侯爵閣下、その……一つ、提案があるのですが……」


「何かな?」


「いっそ、民の目の前で討伐してみせる……というのは、どうでしょう?」


 え? と、その場の全員が固まってしまう。


 そこへ、私は自分を指し示しながら、控えめな挙手をする。


「私が……吸血鬼役を請け負うので……」





 夜遅く、人々の大半が寝静まったカーバンクル領の街。


 それでも、夜だろうとお構い無しに二十四時間体制で働く人達や、単純に飲み会やら何やらで夜更かしした人達は活動を続けているその時間に、街の上空で魔法が炸裂した。


 派手さを重視しつつ、更には吸血鬼っぽさ(偏見)を込めて構築した、血のように真っ赤な光を放つ魔法の槍。


 それを撃ち落とすのは、この街で活動する王宮魔導師、カラルバさんだ。


「お前はホンマに……自分一人で苦労を背負い込むのも大概にせえよ!?」


 いや、撃ち落とすどころか、割と本気の魔法を反撃として放って来た。


 飛翔する岩の塊を、わざと紅く発光させた対物理結界で防ぎつつ、カラルバさんにだけ聞こえるように声を調整して叫ぶ。


『背負うも何も、これが最善だってみんな納得しましたよね!?』


 今の私は、幻影魔法で如何にも吸血鬼っぽい大男に化け、被膜の翼を広げて恐怖を振り撒いている。


 幻影と精神干渉が戦闘の軸になる私にとって、街全体を薄らと恐怖心を呼び起こす結界で包み、吸血鬼に化けて暴れて見せるなんて、まさに朝飯前だ。


 そんな私をカラルバさんが討ち果たせば、証拠の品がなくたって誰もが吸血鬼の滅びを確信するだろう。


 リサーナちゃんが犯した罪を隠蔽し、事件にケリを付けるなら、これ以上ない最善手だって私は思ってる。


『それに、今回はちゃんと対価も貰いますから!! それも、特大の!!』


 そう。私だって、カラルバさんに怒られてから、ちゃんとギブアンドテイクの関係を意識しようって決めたから。


 リサーナちゃんだって、流石に吸血鬼っていう正体を明かして全ての罪を明るみに……なんてしたらどう考えても大変なことになるから、やらかしたこと全部隠蔽することにしたけど、少しくらい罰は受けなきゃいけない。


 それを一発で解決する“対価”を、私はカーバンクル家に要求したんだ。


「何が対価や!! お嬢を、治療のために王都に連れてって保護する言うんやろ? どこら辺にお前のメリットがあんねん!!」


『人聞きの悪いことを言わないでください!! 人体実験の素体にするから身柄を引き渡せって言ったんです!!』


「人聞きの話ならそっちのが悪いわドアホ!! しかも言い方変えただけでやろうとしてることは同じやろがい!!」


 カラルバさんの土属性魔法が、空中だろうとお構い無しに無数の岩を出現させ、散弾となって襲い来る。


 もっとも……地形を変形させず、純粋に魔力を変換させて生み出した岩や水は、物理属性でありながら魔法属性も併せ持つので、対物理、対魔法どちらの結界の影響も受ける。


 要するに、非常に防ぎやすくて対処が簡単な攻撃になるんだけど、これはお互い了承の上でやっている八百長試合なので問題はない。


 もっとも、対処しやすい手札しか使っていないというだけで、攻撃そのものは本気だから、王宮魔導師クラスでもなければこの攻防が手抜きだなんて分からないだろうけど。


「そんな誤魔化しで貸し借り無くなると思ったら大間違いやで!! ましてこんな……吸血鬼討伐の戦功全部、オレに押し付けるような作戦立てよってからに!! 解決したのは全部お前やろうが!! ホンマにブチ殺すぞ!?」


『カラルバさんが言うと洒落にならないので止めてください!!』


「当たり前や、洒落やないからな!!」


 恐ろしいくらいの数と速度で飛んでくる石礫の雨に、私は全力で結界を構築する。


 いくら防ぎやすい攻撃だからって、こんな物量で力押しされたら、大抵の騎士や魔導師はそれだけで潰されるだろう。


 本当に私のこと殺そうとしてたりしないよね? 違うよね?


「せやからお前……覚えとけよ!! オレは恩も仇も二倍にして返す男やからな!! 絶対に逃がさへん、覚悟しとけ!!」


『怖いので全力で遠慮したいんですけどぉ!!』


 これ、私がカラルバさんからお礼を貰うって話なんだよね? 逆じゃないよね?


 恐ろしい見た目に化けても、中身は相変わらずダメダメな私に向けて、カラルバさんは更に本気の魔法を準備し始めた。


「ひとまずこれが、最初の“恩返し”や!! しっかり受け取れ、アホンダラ!!」


『いやいやいや、これ恩返しじゃなくて……“憂さ晴らし”って言うんじゃありませんか!?』


 飛行魔法で浮かぶカラルバさんの頭上に出現したのは、まるで隕石のように巨大な岩の塊。


 それを見て、私は確信した。


 この人、“影刃”なんて二つ名が付いてるし、如何にも暗殺が得意ですって感じを見せておいて……本質は、力押しの脳筋タイプなんだって!!


「くたばれや、バケモンが!! 《隕落岩フォールンガイア》!!」


 最後のその一言だけ、私じゃなくて街中全ての人に聞こえるように叫ぶカラルバさん。


 それに対して、私も吸血鬼っぽい(偏見)真紅の光魔法で対抗して──


 大爆発と共に、東部カーバンクル領で巻き起こった“吸血鬼騒動”に終止符を打つのだった。

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