王都への帰路
東部の事件がようやく終わりを迎え、私は王都の学園に帰ることに。
話し合いの結果、リサーナちゃんは私の預かりとなり……立場上は、使用人枠として私と同じ学生寮で暮らすことになる。
そして当然というべきか、事件が終われば私だけじゃなく、ベアトリーチェ様も一緒に学園に戻ることになるわけで。
同じ馬車に揺られながら、非常に気まずい時間を過ごすことに。
「メアお姉ちゃん~!」
「わわっ、リサーナちゃん……!」
特にその原因となっているのが、リサーナちゃんの態度だ。
あの一件が終わった後、リサーナちゃんはびっくりするくらい甘えん坊になって、馬車で移動する最中もしょっちゅう私にしがみつき、まるで子猫がマーキングでもするかのように顔を擦りつけて来る。
で、そんな私を見てベアトリーチェ様の表情がすんごいことになっていくのだ。あわわ。
「メアお姉ちゃん、なでなでして?」
「あ、うん……いいけど……」
「えへへ……」
な、なんか、ベアトリーチェ様から暗黒色の魔力が溢れ出ているように見えるんですけど!? 私はお願いされたから撫でてるだけであって、別に私がリサーナちゃんを子猫扱いしてるわけじゃないですからね!?
「お姉様~! お姉様も撫でて?」
「リサーナ……ええ、もちろん」
内心びくびくしていたら、リサーナちゃんが対面に座るベアトリーチェ様の方に甘えに行ったので、暗黒の魔力が嘘みたいに収まった。
ふぅ、命拾いしたぁ……。
「……メアリア・アースランド」
「あ、はい、なんでしょう……?」
手は変わらずリサーナちゃんを撫でながら、ベアトリーチェ様が真剣な眼差しで私を見る。
何を言われるんだろう、リサーナちゃんを私が預かるって話をした時も、すっごい形相で睨まれちゃってたしなぁ……間違っても手を出すなよって釘を刺されるんだろうか。
「……今までの非礼、纏めてお詫びいたしますわ。本当に申し訳ありません」
「ふえ……?」
まさかの言葉と共に頭を下げられて、私はリアクションに困ってしまう。
そんな私を余所に、ベアトリーチェ様は言葉を重ね続けた。
「今更こんなことを言っても、私を許す気になれなくても当然ですわ。ですが、それでも……リサーナを救ってくれたこと、本当に感謝しているのです。ですから、その……私が言っても、都合の良い話ではあると思うのですが……」
「ええと……その、私はまだ、"救って"なんかいないです。リサーナちゃんはまだ吸血鬼で、一時的に吸血衝動を抑えただけで……ですからその、お礼は、治療が全部完了してからにしましょう」
絶対に治すと決めたし、そのために王宮魔導師にもなると決めた。
でも、だからって全部上手くいくなんて限らない。
代償を払ったから、なんて理由が通用するなら、世界はここまで残酷じゃないんだから。
「……それでも、私の感謝の気持ちは変わりませんわ。私では、希望を見せてあげることすら出来なかったのですから。ですので……」
「ねえ、お姉様、メアお姉ちゃん」
なんだか微妙な空気が漂う中、それをぶった切るようにリサーナちゃんが口を挟む。
疑問符を浮かべる私達に、リサーナちゃんは根本的な疑問を投げかけて来た。
「二人は、学園でどんな関係だったの? なんか、穏やかじゃないこと話してるけど」
「「…………」」
当たり前といえば当たり前だけど、学園の生徒でもないリサーナちゃんは、私達の間で何があったのかまるで知らない。
これは、どうすればいいの? まさか正直に話すわけにはいかないし……。
「……私が、メアリアさんに……」
「あーあーあー!! ライバル!! そう、私はベアトリーチェ様とライバルだったの!!」
「ライバル……?」
バカ正直に話そうとしたベアトリーチェ様を遮って、強引な理論に持ち込もうとするんだけど……リサーナちゃんに、思いっきり疑いの眼差しを向けられてしまった。
えーと、えーっと……!!
「こう、お互い罵り合いながら切磋琢磨する間柄だったと言うか……!!」
「……メアお姉ちゃんが誰かを罵倒するところ、あまり想像出来ないなぁ」
「そ、そんなことないよ? ……戦闘中とか、結構……」
ハイになってとんでもないこと口走ってた、なんてよくあるから……うぅ、思い出すだけでも恥ずかしい黒歴史が次々と……!!
「まあいっか。何があったか分からないけど……でも、私からもごめんなさい。お姉様が酷いことしたの、多分私のせいで余裕がなかったからだと思うから……その分私が、お姉ちゃんに尽くして償うね。なんでもするから、遠慮なく言って。だって私、学園に着いたらお姉ちゃん専用の使用人だもんね?」
「リサーナ、別にあなたのせいだなんて……!! メアリアさん、償いというなら私がなんでもしますわ。今日から私はあなたの下僕になります、いくらでもこき使ってくださいまし!!」
「え、えーっとぉ……!!」
なんか、姉妹揃って私の都合の良い駒になろうとしてくるんですけど!!
いや待って、私別に、そこまでして欲しくて頑張ってたわけじゃないからぁーー!!
そんなことを内心で叫んでいるうちに、私達は王都へと帰還を果たすのだった。




