吸血鬼の正体
リサーナちゃんと過ごす時間は、特に大きなトラブルもなく楽しく過ぎていった。
トランプで勝負したり、ちょっとした魔法を見せてあげたり。
後、好きな本を紹介し合ったりとか。
やんちゃ娘っていう印象が強かった私としては、リサーナちゃんが実は読書家だって知って驚いたのは内緒。
というか、魔法以外は私より博識かもしれない。
その魔法にしたって、まだ十三歳ってことを考えるとびっくりするくらい詳しいよ。
「リサーナちゃん、物知りだね。すごい」
「えへへへ、いっぱい勉強したからね」
えっへん、と胸を張るリサーナちゃんに、私はパチパチと拍手を送る。
けれど……すぐに、リサーナちゃんは顔を俯かせた。
「まあ……それも、もうすぐ無駄になっちゃうんだけどね」
「え……それって、どういう……?」
私の疑問に、リサーナちゃんはにこりと微笑む。
今にも消えてしまいそうな、儚い笑みを。
「……メアお姉ちゃんになら、いいかな」
「え?」
「げほっ、ごほっ!!」
「ちょっ、リサーナちゃん!?」
急に咳き込み始めたリサーナちゃんの背中を擦るも、なかなか落ち着く様子がない。
ぎゅっと握りしめられたベッドのシーツが、その今にも壊れそうな苦しみの大きさを物語っているみたいで、胸が痛い。
とりあえず、お医者さんを呼んでくるべきか……と考えていたら、リサーナちゃんが震える指でベッド脇にある薬を指していることに気が付いた。
「リサーナちゃん、口空けて」
中の錠剤を一つ取り出し、リサーナちゃんの口に放り込む。
魔法で大気中から水を生成し、ゆっくり飲ませてあげると……ようやく落ち着いたのか、荒い呼吸を繰り返しながらもホッとした表情を見せてくれた。
「……そんなに悪いの? 病気」
「うん……いつもこうってわけじゃないんだけど、最近は色々と我慢出来なくなっちゃってて」
「ダメだよ、そんな体で……」
抜け出したりなんてしたら、と言おうと思ったけど……その寂しそうに揺れる瞳を見て、口を噤んだ。
この言葉は、部外者の私が言うには……無責任過ぎると思ったから。
「ねえ、メアお姉ちゃん。私の体、魔法で診てくれないかな? ほら、デジ組の病院でやってたみたいに」
「え? ……うん、分かった」
どんな病気かは知らないけど、私は魔法のこと以外は正直素人だ。
あの患者さん達は何らかの魔法的な損傷が原因だったから私にも治療出来たけど、普通はちゃんとしたお医者さんの方が正しい診察を下せるはず。
でも、そんなこと言える雰囲気でもなかったから……結果が伴わなかった時になんて言おうか決まらないまま、私は診察を始めて……。
「えっ……」
絶句した。
えっ、なんで? これ、って……まさか……。
「っ、まず!」
動揺していたタイミングで、部屋の前にこっそり仕掛けていた探知魔法に、誰かが引っ掛かった。
慌てて仮面を被り直すと、部屋にノックの音が響く。
「リサーナ、いるかしら? 入るわよ?」
「うん、いいよ、お姉様」
どうやら、やって来たのはベアトリーチェ様だったらしい。
ガチャリと音を立てて扉が開くと、ベアトリーチェ様は“仮面の魔女”の姿になった私を見て、顔を顰める。
「……まだ、いらしたのですね」
『その……依頼ですので……』
「ふん……カラルバの心配性にも困ったものね。必要ないと言っているのに……」
その言葉に滲んでいるのは、カラルバさんへの苛立ちと、何よりも大きな焦りの感情。
私が勝手にそう思い込んでいるだけかもしれないけど……でも、さっきの診察結果が本当なら、そうとしか思えなかった。
『……ベアトリーチェ様、一ついいでしょうか?』
「何かしら?」
『ベアトリーチェ様は、その……吸血鬼騒動の解決を、望まれていないのですか……?』
「そんなわけないでしょう!? バカにしないでくださいまし!!」
想像以上に大声で怒鳴られて、私はビクりと全身を震わせる。
けれど、どうしても。
これだけは、聞かなくちゃいけないことだから。
『でしたら……ベアトリーチェ様は、私の何が気に入らないんでしょうか……?』
「言ったでしょう? 私達が自力で解決出来ることで、中央に借りを作るのが気に入らないから……」
『違います、よね?』
ある意味、手柄を奪われたくないとも取れるその言葉を、私は否定した。
……これは正直、私の想像……ううん、そうであって欲しいっていう願望でしかない。
でも、リサーナちゃんを病院に迎えに来た時の、ベアトリーチェ様の心配そうな表情は、本物だったと思うから……だから。
『私が受けた依頼が……吸血鬼の、“討伐依頼”だったことが……』
気に入らないのでは、って。
そう口にしようとした私の顔面のすぐ隣を、ベアトリーチェ様の手のひらが通過した。
バァン!! と激しい音を立て、壁際に追いやられた私をベアトリーチェ様の憎悪が籠った眼差しが貫く。
「……ついてきなさいな」
『…………』
ベアトリーチェ様に促されるまま、私は部屋を後にする。
最後にちらりとリサーナちゃんの方を見やると、切なげな表情でひらひらと手を振っていた。
「……あの子に、何をしたの?」
屋敷の隅も隅、使われていない空き部屋まで連れてこられた私は、念入りな遮音結界を構築したベアトリーチェ様に、そう問い詰められた。
返す言葉は決まっているので、私はすんなりと答える。
『苦しそうでしたので……診察、しました』
「……そう」
あまりにも重苦しいその返答に、私は息が詰まる。
でも、言わなきゃいけない。聞かないといけない。
だって、私はリサーナちゃんの……。
『いつから、ですか? いつから、リサーナちゃんは……“吸血鬼”に、なったんですか!?』
友達、だから。
「……最初から、って言えたら、まだ救いがあったのかしらね……でも、違う。変えられたのよ、あの子がまだ、五歳の時に」
『変えられた……?』
「ええ……聞きたいかしら? 私とあの子の……忌まわしい、記憶を」
聞いたら後悔すると、そう言いたげなベアトリーチェ様に、私は大きく頷いてみせる。
『はい、聞かせてください』
聞かないと、何も分からないから。
何も分からないままじゃ、どうすれば良いのか、何も判断出来ないから。
だから私は、聞かないといけない。
友達のために。
「そう……なら、教えてあげる。邪神を崇めるクソみたいな集団……“邪教徒”について」




