友達の部屋
今日で、東部にやって来て十日。
カラルバさんの事務所でお世話になりながら、夜は吸血鬼の捜索、昼は被害者の治療と駆け回り……ぶっちゃけ、吸血鬼の方は全くと言っていいほど進展がない。
被害者も増えてないから、ある意味巡回の効果が出てるとも言えるし、まあ別にいいんだけどさ。
ただ、治療の方は結構順調で、既に襲われて二週間くらい経っている人は無事魂の損傷(多分)が癒えて、退院し始めている。
他の患者さん達も少しずつ元気になってるし、その意味でも結構心に余裕はあるかな。
みんなから感謝されて、ちょっと気持ちいい。えへへ。
ただ、今日はそんなここ数日の中では、一番緊張する瞬間が訪れていた。
リサーナちゃんとの約束を守るため、カーバンクル家にやって来たのだ。
『き、緊張して来た……カラルバさん、私どこかおかしなところないですか……?』
「その如何にも不審者ですって自己紹介しとるキョドり具合以外は完璧やで」
同行者には、王宮魔導師(本物)のカラルバさんが付いて来てくれてる。
私一人でこの門を潜るのはあまりにも怖かったし、「報告とか色々ありますよね? ありませんか!?」って必死に聞いてみたら、今日この日に一応カーバンクル家の侯爵様にご報告があるとかで、それに同行させて貰う形になったの。
この約束を取り付けるまでに、カラルバさんからどれくらいアホを見る目を向けられてしまったかは……内緒。
「カラルバ様、そして"仮面の魔女"様ですね。お待ちしておりました、御当主様とリサーナお嬢様がお待ちです、どうぞこちらへ」
「おおきに、いつもご苦労さん」
カーバンクル家の屋敷に近付くと、門番らしき騎士から早速挨拶された。
カラルバさん、まさかの顔パス。すごい。
私も認識されてたから、通っていいんだよね? と若干挙動不審になりながら、カラルバさんの後ろに引っ付いて屋敷の中へ。
一応、少し前にサンフラウ家にも入ったことあるし、似たようなものだろう……と思ってたんだけど、全然そんなことはなかった。
サンフラウ家は落ち着いた雰囲気の白を基調としたお屋敷だったんだけど、カーバンクル家は壁や家具なんかに黒を取り入れているためか、比べると少し暗い感じ。
調度品も鎧や魔物の剥製なんかが多くて……こう、とにかく"武"!! な雰囲気っていうの?
サンフラウ家がニコニコ笑顔で招き入れてくれる家だとすると、カーバンクル家は全身武装で「来たか……」って威圧してくる家、みたいな?
遊びに行きたいのは前者だけど、強くて頼りがいがあるのは後者。
貴族としては、どっちが正しいんだろう?
「あ、仮面のお姉ちゃーん!」
そんなことを考えながら歩いていると、廊下の向こうから声が聞こえた。
もうお昼頃なんだけど、まだ起きたばかりであるかのようにパジャマを着た、リサーナちゃんだ。
「来てくれたんだ! ねえ、早くお部屋行こう! いいでしょ?」
『え? いや、でも……』
こうして尋ねたからには、侯爵様に一度くらい挨拶しないと失礼なんじゃ?
そう思ってカラルバさんや、案内途中の騎士さんを見ると……揃って、諦めたように肩を竦められた。
「ええわ、こっちはオレに任せとき。その代わり、お嬢のこと頼むで」
『は、はい……』
それでいいの!? とは思ったけど、私なんかより遥かにここに慣れてるカラルバさんがそう言うんだから、きっといいんだろう。
当然ながら、それを聞いたリサーナちゃんは大はしゃぎだった。
「カラルバもああ言ってるし、ほら、行こう!」
『ああっ、待って待って!!』
そんなに腕引っ張らないで!! 幻影が崩れる!!
いや、リサーナちゃんにはもう正体バレてるし、崩れても問題ない?
いやいや、ここにはリサーナちゃん以外にもたくさん人がいるんだから、やっぱりダメだよ!?
「ようこそ! 私の部屋に!」
『お、お邪魔しま~す……』
恐る恐る入ってみた部屋は……ツン、と薬草の匂いが鼻を突いた。
次いで、目に飛び込んで来たのは大きなベッドと、そこに並べられたぬいぐるみ……の隣に並ぶ、何かの薬が入った瓶の山。
ああ、リサーナちゃんは本当に病気なんだな……って実感して、ちょっとだけ心が引き締まる思いがした。
「えいっ」
「わわっ!? リサーナちゃん!?」
そんな私の一瞬の隙を突いて、リサーナちゃんは私の仮面を剥ぎ取ってしまった。
油断していたとはいえ、びっくりするくらい素早い動きに私は目を白黒させる。
「ここは私とお姉ちゃんしかいないでしょ? だからこんなの取っちゃおうよ」
「うぐぐ……」
確かにこの部屋は私とリサーナちゃんしかいないけど、でも誰か急に入って来たら……その時は、咄嗟に幻影を展開出来るように備えておけば、何とかなる……?
「それと……そろそろ、お姉ちゃんの名前も教えて欲しいなーって」
じーっと、上目遣いでおねだりしてくるリサーナちゃん。
……初めて会った時も少し思ってたけど、この子って実は結構策士なのでは?
「私達、友達でしょ?」
「メアリア・アースランドだよ。改めてよろしくね、リサーナちゃん!」
的確に急所を突いて来たその一言に、私はもう考えるのをやめた。
だって仕方ないじゃん、友達なんだから!!
「うん、よろしく! それじゃあ、今日はたくさん一緒に遊ぼうね!」
「はい!」
リサーナちゃんの笑顔を見ながら、私は流されるままに素の姿で頷くのだった。




