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カラルバの悩み

 ──大したモンやで、こいつ。


 それが、東部にやって来て一週間経ったメアリアに対する、カラルバの率直な感想だった。


(精神的にはまだまだガキなとこもあるけど、いざ戦闘になればどんな攻撃にもビビらず身を晒せる度胸と判断力があるし、何より知識量が半端ない。なんやねん魂って、初めて聞いたわ)


 もちろん、魂という単語自体はカラルバも知っている。しかし、魂の実在について真面目に研究した論文が存在するなど、メアリアが口にするまで想像だにしていなかったのだ。


(吸血鬼が魂を喰う化け物で、魂が喰われると魔力が回復しなくなる、なんて繋がりも、気付くことすら出来へんかったな)


 吸血鬼などいるわけがない──最初からそう断じて、吸血鬼が具体的にどういった存在なのか、わざわざ伝承を調べようなどとは考えもしなかった自分とは、雲泥の差だ。


 そこは素直に、己の未熟を恥じなければならないだろうと、カラルバは自分を戒める。


(しかし、ホンマにおるんか? 吸血鬼が)


 しかしやはり、本当に一連の事件が吸血鬼の仕業なのかについては、半信半疑といったところだ。


 この一週間、カラルバも自分なりに吸血鬼について調べたのだが……当たり前というべきか、文献によってその力も生態もまるで違う。


 魂を喰らう、というのも、あくまで数ある伝承の一つというだけで、それが吸血鬼の力なのだと断言するには根拠が弱い。


 メアリアも、まさか伝承通りの吸血鬼が実在するとは思っていないだろうが……。


「はぁー、アカン。やっぱオレに頭を使う仕事は向いてへんな」


 読んでいた本をテーブルに放り投げ、カラルバは椅子の背もたれに身体を預けながら天井を振り仰ぐ。


 元々、彼はカーバンクル領よりも更に東の辺境……既に地図から消え失せた、小さな村で生まれた孤児だったため、教育水準で言えば一般的な平民と比べてもかなり低いのだ。


 彼の組織するデジ組も、そういった身寄りのない人間を中心に構成されているため、荒事はまだしも頭を使う調査などにはトコトン向いていない。


 カラルバが中央に助けを求めたのも、そういった背景事情がある。


(せやのに、姉御は自分達で解決することに拘って……はぁ、事情は分かるけど、焦りすぎや)


 カラルバが“姉御”と呼び慕うベアトリーチェ、そして妹のリサーナは、実のところカーバンクル家の血を引いていない養子だった。


 詳しくは知らないが、元々はカラルバとさして変わらない身分だったそうで、子宝に恵まれなかったカーバンクル家の当主が、彼女の持つ魔法の才能に目を付けて引き取ったのだという。


 だからこそ、焦っているのだろう。

 自分がカーバンクル家に相応しい人間だと証明出来なければ、また路頭に迷ってしまうのではないかと恐れて。


 ベアトリーチェは病弱な妹も抱えているのだから、尚更そんな未来は恐ろしくて仕方ないはずだ。


(まあオレらからすると、お嬢が病弱だなんて、それこそホンマかいなって感じやけどな)


 大病を患っているため、屋敷にほぼ閉じこもっていなければならない……と聞かされているが、しょっちゅう屋敷を抜け出しては捜索依頼を出されているので、カラルバにはあまり病弱なイメージはない。


 やんちゃで悪知恵の働く、お転婆な小娘という印象だ。


 ただ、義父の侯爵はその治療法を見付けるために暇さえあれば方々を飛び回っていると聞くし、ベアトリーチェも学園生活やら魔法の特訓やらで屋敷を離れている時間の方が多いため、寂しさを紛らわすために無理にやんちゃに振る舞っている、という可能性はあるが。


(アカン、関係ないとこに思考が飛びすぎや。疲れてんな)


 元は吸血鬼について考えていたはずが、気付けば随分と脱線してしまったものだ。


 早くこの騒動を終わらせて、ゆっくりベッドの上で眠りたい──


「カラルバさぁ〜ん!」


「……なんやねん、情けない声出して」


 そんなことを考えていたカラルバの耳に響いた、情けない少女の声。


 その声の主──なぜかこの一週間、「もう正体バレてるし、他のところで寝泊まりしてバレるリスク増やしたくないんで!」などという理屈で、図々しくもデジ組の事務所に居候しているメアリアに、カラルバは胡乱な眼差しを向けた。


「カーバンクル家に挨拶に行くのはいいですけど……一体どんな服装をすれば……?」


「……正装くらい、お前も持っとるやろ。最悪幻影でパパッと見繕えばええやん」


「私の正装なんて学生服しかないんですよ!! 幻影でどうにかしようにも、現物がないと再現出来ないですし!! “仮面の魔女”が学生服でそこら辺ほっつき歩いてたら、一体何事かってなりますよ!?」


「知らんがな……」


 頭痛を堪えるように、カラルバは頭を抱える。

 メアリアとは、れっきとしたビジネスの関係を築いた……はずなのだが、それにしてはどうにも距離感が近い。


 正体がバレて遠慮がなくなったのか、あるいは“これ”がメアリアにとってのビジネスの距離感なのか。


 もし後者だったとしたら、色々と問題である。


(オレはお前の友達ちゃうねんぞって、ツッコミ入れてええんやろか?)


 ビジネスの関係でこのレベルなら、本当の“友達”相手ならどこまで接近してくるのか。

 若干の恐怖を覚えながら、カラルバは投げやりに答えた。


「良い店紹介したるから、そこで適当なドレス仕立てて貰え。場所は……」


「その……一人でお店入れないので、付いてきて貰えませんか?」


「…………」


 こんなヤツに、本当に吸血鬼騒動の解決なんて出来るんやろか?


 真剣に悩み始めたカラルバを余所に、メアリアはこてんと首を傾げるのだった。

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