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魂の治療

「……で? ほんまにこれが吸血鬼の仕業やったとして、どう対処するんや?」


『それは……分かりません』


「あァ?」


 ひえっ、怖い……。


『夜間に張り込んで、とにかく現場を抑えないことには何とも……! な、なので、今は襲われた方達の治療に、専念したいなー、なんて……』


「……治せるんか? お前さんの説が正しいなら、アイツらは魂を喰われとるんやろ? 魂の治療なんてもん、聞いた事ないで?」


『出来ます。……と言っても、私も初めての試みなので、実際にやってみないことには、その……』


 最後まで言い切ることが出来ず、口ごもる。

 そんな私の、言葉にならなかった部分を汲み取ってくれたのか。

 カラルバさんは頭を掻くと、私をもう一度病室へと招き入れた。


「こっちや」


 案内されたのは、病室の奥……特に重症な患者が眠っているベッドのあるところだ。


 そこに眠っている男の人を指して、カラルバさんはあっさりと言い放つ。


「試す必要があるなら、コイツで試せ」


『ええ!? そ、そんな勝手に決めていいんですか!?』


「構わん、コイツはオレらデジ組のモンやからな。街の人間救うためなら、たとえ自分がどういう結果になるとしても、コイツは喜んで名乗り出たはずや。……そういうヤツなんや」


 カラルバさんの瞳には、この男の人への確かな信頼と、そうすることしか出来ない自分への苛立ちが滲んでいるように見えた。


 だから……それに対する私の答えは、決まってる。


『ご協力、感謝します。それから……この人も、絶対に治しますから』


「ああ、当然や」


 放っておいても、ある程度は回復する。

 それでも治療方法を確立したいのは、“ある程度”じゃなくて、しっかりと“完治”させたいというのもあるけど……件の吸血鬼が、いつ死者が出たり、重篤な後遺症を残すような襲い方をするか分からないからだ。


 カラルバさんもそれを理解しているからこそ……自分の部下を、こうして臨床試験に差し出したんだろう。


 その期待を、裏切らないようにしなくちゃ。


『……《魔力活性アクティベート》』


 静かな決意と共に、魔法を発動する。

 使用するのは、魔法を使いすぎて寝込んだ人を回復させるため、減少した魔力の回復を促す魔法。


 もちろん、この程度の魔法はここのお医者さんだってかけただろう。


 だからこれは……ある種のカモフラージュだ。

 この魔法はちょっと、本当なら大っぴらに使っちゃダメな奴かもしれないから。


『《魂魄活性ソウルリバイブ》』


 私の魔力が魔法陣を描き出し、眠っている男の人に吸い込まれていく。


 全身から光を放つその光景に、私はちょっと冷や汗がたらり。


 ……思ったより目立つなぁ!!


「……お前、一体何の魔法を使っとるんや? 見た事ない魔法陣やけど」


『黙秘権を行使します』


「おいコラ」


 睨まれちゃったけど、でもだって仕方ないじゃん。


 この魔法……ハインツラル王国で使用を禁じられてる、“禁呪魔法”のオリジナルアレンジなんだから!!


 魂……もとい、魔力量の増減に関わる魔法って、基本的に禁呪なんだよこの国!!


『ふぅ……ひとまず、これで……』


「うっ……」


「ルプソ!!」


 魔法の効果が一通り終了すると、それまで意識不明だった男の人が薄らと目を開ける。

 それを見るや否や、すぐにカラルバさんが反応した。


「ルプソ、分かるか? オレや、カラルバや!!」


「…………」


 目は開けたけど、それ以上の反応はなし。

 それが分かったところで、カラルバさんはゆっくりと息を吐いた。


「すまん、取り乱した」


『いえ……その、あまり一気に治療を進めると、どんな副作用があるか分かりませんので。こんな感じで、毎日少しずつ進めていこうかな……と』


「当然やな、良い判断やと思うで。……せやけど、これでちょっとは、光明が見えたわ。見直したで」


『ど、どうも……』


 見直したってことは、今までどんな風に思われていたんだろう……知りたいような、知りたくないような。


 ただ、そんな私達を見ていた他の患者さんの家族の反応は、劇的だった。


 一斉に拍手が巻き起こり、その音に驚いて私はびくりと体が跳ねる。


「すげえな、アンタ!!」

「うちの子も、ちゃんと治るのね……!」

「期待してるぞ、姉ちゃん!」


『あは……ど、どうも……』


 こんな風に、不特定多数の見知らぬ人から称賛されるのは……初めてじゃないけど、やっぱり慣れない。


 そんなわけでオドオドしている私の手を、小さな女の子……もとい、リサーナちゃんが掴んだ。


 言いつけ通り、今までずっと大人しくしていてくれたみたい。


「お姉ちゃん、すっごいんだね! 尊敬しちゃう!」


『あはは……ありがとう、リサーナちゃん』


 まあ、いくら慣れないとはいっても、やっぱり褒められるのは嬉しい。


 そんな風に、ちょっと鼻の下を伸ばしながら(?)交流していると……勢いよく、病室の扉が開かれた。


「リサーナ!! いますの!?」


 飛び込んで来た少女を見て、私は思わず息が詰まる。


 紫色の髪。特徴的なドリルロール。

 普段と違う、余裕のない焦った表情をしている以外は、学園にいる時と何ら変わらない姿だ。


 ベアトリーチェ・カーバンクル……私の天敵とも言える相手。


「お姉様……」


 そう、今の今まですっかり忘れてたけど、リサーナちゃんがカーバンクル家の令嬢なら、当然姉妹(そういう)関係になるよね。


 ベアトリーチェ様に私の正体はパレてないはずだけど、もしそうなったら大変なことになりそうで……そうでなくとも、学園で培われた苦手意識のせいで、胃が痛い。


 そんなベアトリーチェ様が、ズカズカと私の方に近付いて来る。


 あ、やめて、来ないで!!


「無事で良かった……!! 心配したのよ、本当に……」


「お姉様……ごめんなさい」


「いいのよ、あなたが無事なら……それで……」


 完全にガチゴチに緊張していた私の前で、ベアトリーチェ様がめちゃくちゃ優しい表情を浮かべながら、リサーナちゃんを抱き締めてる。


 いや、えーっと、ベアトリーチェ様……なんだよね? えっ、誰??


「姉御、こちらが吸血鬼討伐のために中央から派遣された、“仮面の魔女”です。リサーナのお嬢も、彼女が保護してくれました」


 カラルバさんが、びっくりするくらい丁寧な口調で、私を紹介してくれた。


 いや、こっちはこっちで誰!? "姉御"って呼び方だけはそれっぽいけど!!


「カラルバ……言ったでしょう? 中央に借りを作ってもロクなことにならないのだから、今回は私達の力だけで解決すると」


「しかし姉御、彼女の知識と魔法技術は本物です。協力して貰えれば、間違いなく解決が近付くかと」


「くどいですわよ!! ……そこの貴女も、妹を保護してくれたことは感謝しますけれど、協力の必要はありませんわ。帰ってくださいまし」


 冷たい態度のベアトリーチェ様を見て、私は逆に安心感を覚えてしまった。あ、本物だ、って。


 ただ、ついさっきルプソさん? を少しとはいえ回復させた実績があるからか、患者さん達のベアトリーチェ様を見る視線はどこか批難がましくて、これじゃあどっちが地元の人間か分からない。


 ベアトリーチェ様も自覚があるのか、リサーナちゃんの手を引いてすぐに踵を返した。


「帰りますわよ、リサーナ」


「あ……! 待って、お姉様!」


 リサーナちゃんが、一度ベアトリーチェ様の手を振り払って、私のところへやって来た。


 あの、ベアトリーチェ様がすっごい表情で私を睨んでるんですけど……。


「仮面のお姉ちゃん、時間があったらカーバンクル家のお屋敷に遊びに来て」


『え……でも……』


 ベアトリーチェ様から、来るんじゃねえ!! っていう圧をひしひしと感じるんですが。


「だって、私達もう、友達でしょ?」


『とも……!?』


 その一言で、私の心は定まった。


『はい!! 是非!!』


 友達。私の、新しい友達だ!!

 弟と同い年だけど、別にいいよね? だってリサーナちゃんの方から友達って言ってくれたもんね!! これはもう紛うことなき友達だよね!?


「待ってるから!」


 手を振ってベアトリーチェ様のところへ帰っていくリサーナちゃんに、私も軽く手を振り返す。


 友達、友達……!! と何度も頭の中で繰り返す私に、カラルバさんが一言。


「お前……今すんごい変な顔しとんで? 鏡貸そか?」


 ……うるさいですよ。

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