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調査開始

 応急修理をして、辛うじて機能するようになった仮面を被り、私は被害者が集められているという病院へ向かった。


 なんとその病院、デジ組の事務所(?)のすぐ目の前にあってびっくり。


 特殊な患者だから、普通に平民達が利用している病院に入れておくのもどうかってことで、デジ組の医療施設を臨時解放してるんだって。優しい。


「あ……仮面のお姉ちゃん!」


『リサーナちゃん!』


 ある意味当然というべきか、保護されたリサーナちゃんも一旦ここで検査を受けていた。

 なんでもリサーナちゃん、本当はずっと屋敷にいなきゃいけない病気なのに、退屈だからって元気な時は定期的に抜け出しているんだとか。ダメじゃん。


 そんなリサーナちゃんだけど、待合室っぽいところに入るや否や、如何にも元気いっぱいって感じで駆け寄ってくる。


 幻影が崩れないように上手いこと抱き締めると、リサーナちゃんは顔を私の胸に埋めながら申し訳なさそうに口を開いた。


「ごめんなさい……まさか、あんなことになるなんて思わなくて……」


『それはその……私が勝手に誤解したのが悪いので、気にしないでください』


 多分だけど、リサーナちゃんはわざと誤解を招く言葉選びをしていた気がする。


 ずっと屋敷に籠ってばかりなんて、いくら病気でも子供には辛い毎日だろうと思うし……それを理由にリサーナちゃんを責める気には、私はなれなかった。


『怪我はどこにもなかったですか?』


「うん、それは平気。仮面のお姉ちゃんが守ってくれたし」


『それは良かったです。次からは、あまり危ないことしたらダメですからね?』


「うん!」


 素直に頷くリサーナちゃんを、そっと撫でる。

 子供は無邪気で可愛いなぁ……。


「ウオッホン!!」


『あ……!! すみません、これからお仕事があるので、また後で』


 これみよがしに咳払いしてみせるカラルバさんに促され、私は病室の方へと足を伸ばす。


 そんな私に、リサーナちゃんもトコトコと着いてきた。


「お姉ちゃん、私も見学していい?」


『え!? ……み、見てても面白いものじゃないと思いますけど……』


「それでもいーの!」


 どうしよう……という質問の意味を込めてカラルバさんに視線を送ると、肩を竦められた。


 もうどうしようもない、って感じ……で合ってる、よね?


「……ええから、もう行け」


『あ、はい……』


 自信が持てなくてじっと見つめ続けてたら、ゴミでも払うみたいにぞんざいな感じで出発させられた。


 うぅ、察しが悪くてごめんなさい……。


「ここにおるんが、吸血鬼騒動の被害者と……見舞いに来たその家族や」


『…………』


 そーっと中を覗き込むと……思っていたよりは、穏やかな空気が流れていた。


 入院着を身に着けた人達が、ベッドで横になったままボーッと天井を見つめていたり、家族とたわいない話をしていたり……そんな感じ。


 まだ死者がいるって話はなかったはずだから、それも“怪物に襲われた被害者達”にしては落ち着いた雰囲気の理由だろうか。


 ただ……完全に回復して、退院した人もまだいないらしい。


「ああカラルバさん、お疲れ様です」

「いつもお勤めご苦労様です」

「息子のために、こうして施設まで無料で解放してくださって……」


「あー、かまへんかまへん、オレもこれで国や侯爵様から給料(もろ)とるからな。それに、犯人逮捕に必要な協力はして貰うさかい、それでおあいこや」


 カラルバさんを見るや否や、被害者の家族らしき人達が口々に感謝の言葉を伝えていく。


 見るからに怖い人だけど……慕われてるんだなぁ……。


「というわけで、こっちの女が新しく派遣された“王宮魔導師”や。なんと王家から直接指名を受けとるからな、この事件もバシッと解決してくれるはずやで!」


『はえ……?』


「おお、それはすごい!」

「まだお若いのに、さぞ優秀な方なんでしょうねぇ」


 なぜか私が王宮魔導師ってことにされてるし、この人達も当たり前のようにそれを受け入れてる。


 ちょっと理解が追い付かなくて混乱していると、カラルバさんが仲の良さをアピールするかのように自然な感じで私と肩を組んで……ドスの利いた声で囁いた。


「ええか? 余計なことは言うな。オレらこの事件が起きて早々、中央にこういう件に精通したマブダチがおるから、そいつ来たら一発で解決や言うてんねん」


『どうしてそんな、大言壮語を……』


「恐ろしい化け物がおるかもしれへんのに、そいつの正体も分からなければ解決手段も不透明だなんて言うたら、街中パニックなるやろがい。これも仕事やと思って、合わせい」


『な、なるほど……』


 その理屈は理解出来るし、それも仕事だと言われたら拒否も出来ない。


 事前に相談しといて欲しかったなーとは思うけど……なぜかそれを言うと藪蛇になりそうな気がしたので、やめておいた。


『それでは、その……診察していきますね』


 まさか王宮魔導師待遇で始まるとは思ってなかった仕事だけど……そのお陰というかなんというか、診察は驚くほどスムーズに進んだ。


 被害者……はちょっと無気力というか無反応というか、あんまり関係なかったんだけど、被害者家族の協力がすごくスムーズに得られるの。


 王宮魔導師の肩書きってすごいんだなぁって、改めて理解させられた気分。


『被害に遭われた時、あなたはどこで何をしていましたか……?』


「…………」


 脈拍、呼吸、魔力の流れ等の体の状態を魔法でチェックし、軽い問診。


 被害者の手を握りながら、問い掛けるんだけど……被害に遭って日が浅い人達は、覚えてる覚えてない以前に反応がほとんどない。


 それでも構わず質問し続ける私に、家族の人も思わずといった様子で口を挟む。


「あの、うちの子は事件の日から、ほとんど口が利けなくて……」


「大丈夫やセラの婆ちゃん。こういうのはな、“反応がない”ってトコも含めて確認してくことに意味があるんやで」


「そうなのね……ごめんなさい、邪魔しちゃって」


『い、いえ……』


 私があまり上手に説明出来ない分は、カラルバさんが適宜フォローしてくれたのも、正直ありがたい。


 そんな感じで、サクサクと診察を終えた私は、一旦部屋を出て(リサーナちゃんは病室に残したまま)、情報を纏めるために廊下の壁にもたれかかった。


「どうや? 何か分かったか?」


『そうですね……身体的な怪我は首筋の噛み跡のようなものだけで、内蔵機能等は正常。無気力かつ無反応ですが、体は健康体と言って差し支えないでしょう』


 倒れた原因は貧血と記憶障害、という話を聞いていたけど、少なくとも今診察した限りでは貧血を起こしている様子すら全くなかった。


 運び込まれた直後はそうだったのかもしれないけど、一日二日で改善するなら元からそうだったとは考えにくい。


『噛み跡から、僅かに本人の物とは違う魔力の痕跡がありましたが、魔法を撃ち込まれたという感じでもありません。どちらかというと……魔物に襲われた時に出来る、魔力痕に近いかと』


「せや、それがこの騒動を“吸血鬼の仕業”やとする証拠って事になっとるな」


 今の口ぶりからして、カラルバさんは本当に吸血鬼が存在するとは思っていないのかもしれない。


 吸血鬼の仕業っていうことにしたい何者かが、何かの目的で動いてるって考えなのかも。


『……襲われた人達は、男性に偏っています。襲撃は夜間なので、そもそも夜間に外を出歩いている人間のほとんどが男性ということもあるのかもしれませんが……実はもう一つ、共通点があります』


「共通点?」


『全員、魔力量が少なかったです。仕事で多少の魔法を使っている人もいたのに』


 魔力それ自体は、生きていれば誰しもが持っている生命エネルギーだ。

 消耗すると無気力、倦怠感、吐き気や全身の疲労感などといった症状に襲われるものの、大抵の場合は一日経てば回復する。


 だというのに……どうもこの被害者達は、その魔力が減少したまま回復していないみたいなんだ。


 被害に遭ってから日が経って、少しは受け答えも出来るくらい回復した人は、それもある程度元に戻ってるみたいだけど。


「吸血鬼の狙いは、魔力やと?」


『魔力というより、その源泉……“魂”かもしれません』


「はあ? 魂ぃ?」


 魔力の生成メカニズムについては、まだハッキリとは解明されていない。


 ただ、魔法は精神面の影響を非常に強く受けることから、魔法の源たる魔力を生み出しているのは、生命体が持つ魂なのではないか……とする学説だ。


『ここに来る前、私なりに吸血鬼の伝承についても調べたんですが……吸血鬼が人を襲って血を啜るのは、血液そのものが目的ではなく、血液を媒介に相手の魂を吸い取ることで、欠けてしまった自分の魂を復元し、本当の命を取り戻そうとしているんだ、なんて話がありまして』


 全部、私のタチの悪い妄想だと言われたら、否定はしない。


 でも今回の診察で、この件の犯人が、明らかにただの魔法では成し得ないことを……“生まれ持った魔力量の変動”なんて偉業を、一時的にしろ達成しているという事実が浮かび上がって来た。


 つまり。


『案外、本当にいるのかもしれませんね……吸血鬼』


 もしくは、それくらいとんでもない……化け物クラスの何かが。


 そんな私の考えに、カラルバさんも否定するだけの根拠が思い付かなかったのか、ただ緊張のあまり唾を呑み込んでいた。

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