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デジ組との契約

「大変申し訳ございませんでした……」


 色々あって、私はカラルバさんが拠点としている事務所に連れて来られた私は、軽い応急処置を受けてすぐに全力で土下座していた。


 如何にもヤの付く人達が使っている事務所って感じのその部屋で、椅子に座って私を見下ろすカラルバさんは、これでもかというくらい大きな溜息を吐く。


「まあ、お前さんが本気でお嬢のためを思って動いとったんは、最後の行動でよう分かった。そうやなかったらとっくに海に沈めとる」


「お、お慈悲を頂きありがとうございます……」


 いや本当に、大反省会だ。

 見た目が如何にも悪そうな人達だったし、リサーナちゃんも追われてるって言ってたから、完全に悪人だって決めつけちゃってたよ。


 よくよく考えてみたら、リサーナちゃんは一度も"捕まったら酷いことされる"とも、"男達が悪い人だ"とも言ってなかったんだよね。


 そうでなくとも、ちゃんとカラルバさん達の話も聞く耳を持っていれば……ああ、もうこのまま消えてしまいたい……。


「で? お前さん、なんでこんなところおんねん。今西部もガタガタなんやろ? お前さん正式な王宮魔導師じゃないとはいえ、故郷が大変な時に何しとるん?」


「それはその……実は……」


 恐る恐る、私は懐からルルーナ様の手紙を取り出す。

 訝しみながらもそれを受け取ったカラルバさんは、手紙を開いて読み進め……更に巨大な溜息を吐く。


「お前……これがあるのにあんなところでホンマ何しとん? 真っ先に寄り道せずカーバンクル家行っとけば、話拗れずにスムーズに話進んどったやんけ」


「返す言葉もございません……」


 床に頭を擦りつけながら、私はとにかく謝り倒す。

 いやもう本当に、最初から私が変に躊躇せずにカーバンクル家に行ってれば、リサーナちゃんを探しに行ってくれって頼まれてた可能性もあるしね……今回は私が全面的に悪くて何一つとして擁護の余地がない。


 泣いていいかな?


「しかし、吸血鬼騒動の解決のために送り込まれて来たのが、こないなガキ一人とは……舐められたもんやな、オレらも」


 あ、やっぱりそういう反応になりますよね!? 仮面を被ってるならまだしも、今は完全に素の状態だし、最初っからいきなり盛大にやらかしてるし、頼りないですよね……。


 生きててごめんなさい。出来るだけ痛くない方法を選んで処して頂けると助かります。


「……と、ホンマなら文句の一つも言いたいとこやけど、ガチでやり合って実力が確かなんはよう分かった」


 ふっと、カラルバさんが険しい表情から一転して、笑みを浮かべる。


 ……笑ってる顔も怖いって思っちゃったのは内緒。


「ええわ、せっかく来てもろたんやし、期待しとるで」


「あ、ありがとうございますぅ……!!」


 やった!! 生き延びた!! 私、生き延びたよお姉ちゃん!! 助かったんだ!!


 安堵のあまり、心の中で号泣していると、カラルバさんは呆れ顔で言った。


「改めて自己紹介と行こか。オレはカラルバ・デジータス。"影刃"の二つ名をもろた王宮魔導師で、この"デジ組"を取り仕切るボスをやっとる。よろしゅうな」


「あ、その……メアリア・アースランド、です……一応その、"仮面の魔女"って呼ばれてて……正体は、内緒にしていただけると、助かります、です……」


 デジ組って……ネーミングまで、完全にそっち系の人じゃん……。


「事情は知らんけど、ずっと姿まで偽って正体隠さなあかんなんて大変やなぁ。……んでお前さん、いつまで土下座しとんねん、はよ顔上げぇや。話の続きが出来へんやろがい」


「あ……はい……」


 許可も頂けたので、私は恐る恐る顔を上げる。

 そんな私を見て、カラルバさんはボソリと。


「お前さん……戦っとる時はあんなに堂々としとった癖に、なんで今はそんなオドオドしとんねん……」


「せ、戦闘中は、ハイになっていると言いますか……これでも、終わった後はちょっと……頭抱えてるんです……」


 幻影魔法を使う都合上、出来るだけ会話を重ねて相手を惑わせたり、自分を大きく見せた方が良いっていう事情はあるんだけど……それでもやっぱり、大言壮語を繰り返しながら戦ってるから、思い出すと顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。


「ホンマ変わっとるやっちゃな……んで、いくら欲しいんや?」


「はい……?」


「せやから、報酬の話や。西部の流儀はよう知らんからな、まずは希望を聞いたる言うてんねん」


「……ほう、しゅう……?」


 全く予想していなかった話の展開に、理解が追い付かない。

 一方で、そんな私の反応こそを予想していなかったかのように、カラルバさんは表情を引き攣らせた。


「お前さん……まさか、無報酬でやるつもりやったんか? ……ああ、もしかして、この王女様から報酬はもう受け取っとるから、これ以上いらんよって話か? それならそれで、王家に礼をせなアカンのやけど」


「いえ……そんな予定はないですけど……」


「…………」


 しばし、その場を沈黙が支配する。

 ふぅー、と息を吐いたカラルバさんは、椅子から立ち上がって私の前まで来て……。


「ドアホかお前は!!!!!!」


 脳天にチョップを落とされた。痛い。


「働いたら報酬貰うのが当然やろうが!! 何を当たり前みたいにタダ働きしようとしとんねん、トチ狂っとんのか自分!?」


「と……友達の、頼みだったので……」


「友達だからなんやねん!! 貸し借りキッチリせん奴を友達とは言わん!! それとも何か? お前の王女様ともだちは、友達なら奴隷みたいにこき使ってもええと思っとるクズなんか!?」


「そ、そんなことないです!! ただ、私が……私が、それを受け取ったら……"友達"じゃなくて、"ビジネス"の関係になりそうだから、嫌なだけで……」


 そんな私の気持ちを、カラルバさんはどう思ったのか。

 この短い間で既に三度目の特大溜息を吐きながら、頭を掻いた。


「魔法はともかく、中身は見た目通りのガキやな。……まあええわ、そういうことなら、報酬はこっちの流儀で払わせて貰う。オレはお前と友達やのうて、ビジネスの関係を築こうと思っとるからな」


「……はい」


「それから、これは年長者としてのアドバイスや」


 一体いつの間に用意していたのか、部下の人達が持って来た契約書を軽くチェックしたカラルバさんが、私に押し付けて来る。


 それを慌てて受け取る私に……カラルバさんは、今日初めて見せる優しい眼差しで言った。


「一方的に施すだけの関係は、今は良くてもいつか必ず歪む。貸したら、貸した分だけ絶対に取り立てろ。ビジネスに限らず、どんな人間関係でもそれが一番健全やで」


「……分かり、ました」


 思い出すのは、ここに来る前……ルルーナ様の「必ず報いる」という言葉を拒否した時の、彼女が見せた寂しそうな表情だ。


 ……ルルーナ様も、気にしているんだろうか。

 私は……私と仲良くしてくれるだけで、十分見返りになってるのに……。


「さて、こんな湿っぽい話はもう終いや! 仕事の話をしよか」


 手を叩いて、カラルバさんが話を切り替える。


 私も、それは今ここで悩んでも仕方ないことだと、頭を振って余計な思考を追い出し、改めてカラルバさんと向き合った。


「吸血鬼の正体を暴いて、討伐するのがお前さんの目的やろ? 具体的にどうするのか、方針は決まっとるんか?」


「ええと……まず、吸血鬼に襲われたっていう、被害者の方達を……診察したい、です」


 私が知っているのは、"何か"に襲われて、貧血と記憶障害を起こした人が複数人いるっていうことだけだ。


 だからまず、明確に存在するその被害者から調べたい。


「その"吸血鬼"が……どんな手を使って、何を目的に、その人達を襲ったのか……調べたい、ので」


「ふぅん……分かった、ほな付いて来い。被害者が療養しとる病院まで、案内したる」


 こうして私は、少しばかり(?)遠回りしながらも、本来の目的だった吸血鬼騒動の調査に乗り出すのだった。

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