少女の隠れ家(?)
リサーナちゃんを助けた私は、そのまま彼女の隠れ家に連れて行かれた。
秘密基地みたいなものかなー、と思ってたら……街に張り巡らされた地下水道に作られた、割としっかりした隠れ家でびっくりだよ。
ランプの魔道具まで常備してあるし。
『ね、ねえ……ここって、勝手に入っていいところなの……? ていうか、こんなところよく見付けたね……?』
絶対、この街の貴族……カーバンクル家が緊急時用に作った隠れ家でしょこれ。
サンフラウ家にもあるって言ってたもん、アティナ様が。
「平気平気、何度も来てるけど、一度もバレたことないから!」
そりゃあ、緊急避難用の隠れ家なんて、そう頻繁に人を出入りさせたら意味ないもんね。
本当に最低限の保全だけで済ませてるなら、入り浸ってもバレないのは理解出来る。
それもいつまで持つの? って話をしてるんだけどね!?
「ほらお姉ちゃん、こっちこっち!」
促されるままにリサーナちゃんに着いていくと、持ち込んだリュックから大きめの敷物を取り出し、地面に広げた。
そこにちょこんと座ったリサーナちゃんは、更にお菓子の詰まった袋を取り出して……。
「ほら、仮面のお姉ちゃんも、一緒に食べよ!」
そう、誘って来た。
『えと……いいの? リサーナちゃんのお菓子でしょ?』
「もちろん! お姉ちゃんは私を助けてくれたんだし、それに……お菓子は、他の人と一緒に食べた方が美味しいし!」
な、何という圧倒的な陽キャオーラ!!
私では全く口にする度胸も出ない誘い文句を、こうも容易く……!! 子供、恐るべし!!
『じゃ、じゃあ……ちょっとだけお邪魔して』
誘われるままに、リサーナちゃんの隣に腰掛ける。
こういう時、実際の体格と幻影との差を意識して位置取りを調整するのが、ちょっと面倒なんだけど……そこは腐っても“仮面の魔女”、きっちり違和感が出ないようにやり切った。
差し出されたクッキーを手に取って、パクリと……。
『……美味しい』
え、何これすごく美味しい。
パッと見は地味で普通にありふれたクッキーなのに、使われているバターの風味が普段私の食べている物とは段違いだ。
「でしょー? お姉ちゃん、多分この街の人じゃないもんね。この辺は牛さんをたーくさん育ててるから、バターも牛乳もすっごく美味しいんだよ!」
『へえ〜、そうだったんだ……リサーナちゃん、物知りだね』
「ふふふ、いっぱいお勉強してるからね!」
えっへん、と胸を張るリサーナちゃんに、私も思わず笑顔になる。
ああ、癒されるなぁ……。
『って、そうじゃなくて!! 結局、あの男達はどこの誰だったの? リサーナちゃん、どうして追われてたの?』
なんだか雰囲気に流されて誤魔化されるところだったけど、今一番重要な話はそこだ。
それを確認しないことには、私も今後どう動けばいいか分からない。
まさか、このままお菓子パーティーだけしてはい解散、ってわけにもいかないだろうし。
「ちっ」
ん? 今この子舌打ちした?
「実は私、体の中に恐ろしい力が宿っていてね……そのせいで私、普段はずっと部屋に閉じこもってるんだ。でも窮屈で仕方ないから、こうやって時々抜け出してたんだけど……さっきの男の人達に見つかっちゃって。それで、追われてるの」
『なるほど……』
力っていうのが何なのかは分からないけど、それに気付いた男達に狙われてるんだ。
もし捕まったら、人体実験コースってこと……? こんなにも小さい子が?
それは、許せないな。
『分かったよ、リサーナちゃん。私が絶対に守ってあげるから、安心して!』
「……あ、うん……ありがとう……」
なぜか、すごく複雑な顔をしているリサーナちゃんに首を傾げつつ、私は更に質問を重ねていく。
力って具体的にどんなの? とか、帰る家は安全なの? とか。
返ってきた答えは、力については「よく分からない」で、家については「安全だよ」だった。
『じゃあひとまず、その家に帰ることを目標にしよっか』
「大丈夫だよ、ここで待ってれば、そのうち迎えに来てくれるから」
『えっ、そうなの?』
家の人にまで隠れ家のことバレてるって、色々とダメじゃない? ここカーバンクル家の避難所だよ? ……多分だけど。
「だから、ね? それまでは……私と一緒に遊ぼ? お姉ちゃん」
『う、うん』
なんだか釈然としない思いを抱えながらも、リサーナちゃんとのお菓子パーティーを楽しむ。
そんな時間が、しばらく何事もなく過ぎていって……ふと、私はこの隠れ家の近くに仕掛けておいた探知魔法に反応があることに気が付いた。
「お姉ちゃん?」
『ごめんね、ちょっとここで待っていてくれる?』
最初は、リサーナちゃんの言うお迎えが来たのかと思った。
でも、それにしては数がやたらと多いし、発している魔力もどこか剣呑としたものを漂わせている。
だから、すぐに分かった。
来たのは……さっきの男達だって。
「よう、自分から出迎えてくれるとはサービス精神に溢れてるやん」
外に出て、少し進んだところで、私は黒服の男達と対峙した。
ゾロゾロと、十人以上引き連れてるけど……一番警戒するべきなのは、先頭に立っている細目の男だ。
体格はそこまで大きくないけど、この場の誰よりも大量の魔力を保有してるし……何より、その魔力が完璧に制御され、隙間なく全身を覆っている。
間違いなく、手練の魔導師だ。
「一応聞くけど、あの子は無事なんか?」
『もちろんです。けど、あなた達には渡しませんよ』
「ははっ、これは手厳しいなぁ。オレらなんも悪いことしてへんのに」
まあええわ、と男は笑う。
そして……纏う雰囲気が、スイッチみたいに切り替わるのを感じた。
「自分、“仮面の魔女”やろ? 西の方で随分とまあ活躍しとるみたいやけど……せっかくの機会や、どれほどのモンか、試させて貰おうやないか」
細目の男が手を挙げると、部下の人達は一斉に後ろへ下がった。
まるで、ボスの邪魔はしないというかのように……ただ、光源になっているランプの魔道具だけを高々と掲げて。
「このオレ……“影刃の魔導師”カラルバ様がなぁ!!」
『……え?』
“影刃”? それってまさか……王宮魔導師!?
そんな私の驚愕と同時に、背後に伸びた私の影から、魔力で構成された魔法の刃が伸びてきて──
私の体を、容赦なく貫いた。




