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ルルーナとの情報共有

 吸血鬼。

 ドラゴンが実在するこの世界でも、ほとんど創作の中でしか登場しない、伝説の存在だ。


 なんていうか、人型のファンタジー生物がトコトンいないんだよね。ゴブリンもエルフも獣人すらいないし。


 で、何の話だっけ? そうそう、吸血鬼だ。


 吸血鬼は、人の生き血を啜ることで永遠の命を得る一方、太陽の光が苦手で、逆に血を与えることで人間を自分と同じ吸血鬼へと変え、眷属にすると言われている。


 ルルーナ様の話が正しければ、それが東部に出現したらしい。


 正直、にわかにはその話を信じられなかった私は、より詳しい情報を得るために、ルルーナ様がいる学園の寮へと向かった。


 ……今更だけど、なんで王族が普通に寮暮らししてんの?


「やあ、よく来たね」


「お邪魔しまーす……」


 笑顔で迎えてくれたルルーナ様の部屋は……思っていたよりも、普通だった。

 いや、私の部屋よりずっと広いし家具も立派なんだけど、逆に言うとそれだけというか。


 華美な調度品もないし、精々大きな本棚が置いてあるくらいの、すごく落ち着いた雰囲気で……うん、意外。


「メアリアは、どんな部屋だと思っていたのかな?」


「……私の、というか“仮面の魔女”の姿絵とか写真とか、めちゃくちゃ飾られてるのかと思ってました」


「僕をストーカーか何かだと思っているのかい?」


 確かに、私の知らないところでそんなものを集めて、部屋中に飾ってるようなイメージを持っていたなんて、変質者扱いしてるようなものだよね。


 ほぼ初対面で愛人にされそうになった身としてはあんまり変わらないんだけど、王族相手にそれは確かに失礼……。


「君の写真や姿絵は、こうしてきちんとアルバムに纏めて、いつでも見られるようにしているんだ」


「待ってください、まさかそのバカデカい本棚全部私関係の本なんですか!?」


「そうだが?」


 流石に気になって、一冊適当に引っこ抜いて確認すると……本当に、私の写真と絵で埋め尽くされていた。


 この世界、写真技術は魔法のお陰でかなり発達してるし、何なら人の記憶を直接紙に投射して絵にする魔法すら存在するんだけど……なまじ魔法が必要だから、“盗撮”の概念はまだ希薄なんだよね。


 それをいいことにこの王女様、私の日常生活のほとんどを盗撮してた。マジデスカ。


「これは君が学食に好物の唐揚げを発見した時の写真。こっちはアティナと楽しそうに話している時の写真だね。どれもよく撮れているだろう?」


「撮れているだろう? じゃないですが!? 何してるんですか!?」


「専用の魔道具を使った方が、より鮮明な写真になるんだが……流石に、ふとした瞬間を咄嗟に記録するのは難しいから、専属の映写魔導師を雇って、僕の記憶から毎日現像して貰っているよ。最近は、僕自身も映写魔法を学んでいてね、これがなかなか面白いんだ」


「執念が凄すぎる!!」


 立派にストーカーだよこの人!!

 たまに部屋に閉じ籠って出て来ない時があると思ってたら、こんなことしてたのか!!


 ていうか、このアルバムの中の私、やけに可愛いなと思ったら、記憶からの現像だからか!! それだと本人の認識フィルター挟まるもんね!!


 え、つまりルルーナ様の目から見たら私、こんな美少女に映ってるってこと? マジですか?


「出来れば、このままじっくりと君の可愛らしい姿について語って聞かせたい気持ちはあるんだが……今は東部の件が優先だ、それはまた今度にしようか」


「うぐぐ……」


 半分私のせいではあるけど、話が脱線したのは主にルルーナ様のせいですからね!?


 そんな抗議の気持ちを込めて睨んでみるも、ルルーナ様は素知らぬ顔だ。

 なんでこういう気持ちは読んでくれないんですか??


 そんな文句を胸に抱きながら、私はルルーナ様と一緒にソファに腰掛けた。


「吸血鬼が東部に出現した、というところまでは話したね。中央貴族はその話を信用せず、支援を引き出すための適当な方便だと思っている」


「……言ってはなんですが、私もあまり信じられません。本当に吸血鬼の仕業なんですか?」


「分からない。だが、被害が出ているのは本当らしい。夜な夜な、街を出歩く人々が襲われ、酷い貧血を起こして倒れているところを発見される、という事件が相次いでいるようなんだ」


「……普通に貧血で倒れているだけ、なんて事はないんですよね?」


「被害者は健康そのもので、急に貧血を起こすような人間は誰一人いなかったらしい。加えて……被害者全員、首元には牙を突き立てられたような噛み跡があったそうだ」


「…………」


 それは確かに、吸血鬼と結び付けて考えちゃうよねぇ……。


「更に、被害者は一様に倒れた前後、酷い時は数日前までの記憶を失っているのだとか。ただの貧血で、記憶障害まで起こすような事態はそうそう起こらないだろう」


「うーん……死者は出ていないんですか?」


「ああ。それも、中央の腰が重い原因の一つだろうね」


 明らかに不審な事件だ。それも、話を聞く限りでは一度や二度じゃないっぽい。


 死人が出ていないのはいいことだけど、このままだといつ取り返しの付かない事態になるか分からないし、放ってはおけないよね。


「これを解決するため、東部はアドバイザーとして魔導師の派遣を要請している。東部は武闘派揃いだから、頭を使うのは苦手なんだろう」


「その言い方、当人達に聞かれたらぶっ飛ばされたりしません?」


「聞かれてないから大丈夫さ」


 しかし、アドバイザーか。

 武力よりも、知恵を貸してほしいって意味なら、必ずしも王宮魔導師である必要はないと思うけど……。


「僕が頼れるのは君だけなんだ。お願い出来ないかな?」


 ……私“だけ”って言われると、何だかルルーナ様の特別になれた感じがして、ちょっぴり自己肯定感が上がる。


 嬉しくてにやけちゃった顔を見られないために、私はぷいっとそっぽを向いた。


「ま、まあ、とりあえずその、吸血鬼が本当にいるのかどうか、それを調べればいいんですよね? いいですよ、それくらい引き受けてあげます」


「……ありがとう、メアリア。君には本当に、助けられてばかりだ」


 さっきまでのおちゃらけた態度が嘘みたいに、ルルーナ様が頭を下げる。


 思わぬ展開に、私は慌てふためく。


「僕の護衛の件も、西部を救ってくれたことも……まだちゃんとしたお礼も出来ていないのにね。これが片付いたら、今度こそ君の貢献に報いると誓うよ」


「あ、頭を上げてください! そんなの、別に気にしてませんから! ほら、友達を助けるなんて、当然のことですし!」


「……ふふ、そうか」


 ルルーナ様が、笑みを浮かべる。

 けれど、その笑顔はどこか元気がなくて、無理をしているように見えてしまった。


 気まずい沈黙。

 それを打ち破るために、私は「そうだ!」と声を上げる。


「ベアトリーチェ様って、確か東部の出身ですよね!? 彼女も吸血鬼のこと、知ってるんでしょうか?」


 ベアトリーチェ・カーバンクル。

 東部地域を束ねる大貴族、カーバンクル侯爵家のご令嬢で……プライドが高く、私にとっては苦手な相手だ。


 咄嗟に出て来たその名前に、私自身少し顔を顰めていると……ルルーナ様は、なんだか困惑した表情を浮かべていた。


「カーバンクル嬢は、吸血鬼騒動が始まる少し前から、休学して実家に帰っているよ。もしかしたら、僕達が把握するよりも前の段階から、何かしらの情報を得ていたのかもしれないね」


「…………」


 全っ然知らなかった……。


 私が普段如何に周囲に気を配っていないのかが得てして発覚してしまい、余計に気まずくなった空気はそのままに。


 私は、ルルーナ様の依頼を受けて、東部地域へ向かうことになるのだった。

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