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サンフラウ家での訓練

 アティナ様の服装は、結局傷んでも問題ない古いドレスに収まった。

 私にコーディネートなんて出来るわけないもんね、知ってたよ。


 でも、魔法の指導くらいはちゃんと出来る(はずだ)から……これだけは、アティナ様の期待を裏切らないようにしないと!!


「というわけで……アティナ様、行きますよ」


「ええ、いつでもいいわよ……!」


 サンフラウ家の訓練場。本来は騎士達が使うはずのその場所で、私はアティナ様と向かい合っていた。


 “強くなりたい”と願ったアティナ様のため、私が教えようと決めた魔法はただ一つ。


 防御魔法だ。


「《光球リヒトボール》」


 出現させたのは、ただ光ながら球状に纏まった魔力の塊。

 それを五つ、私の周りに順番に出現させると、それを一斉にアティナ様へけしかける。


「《魔盾マジックシールド》!!」


 当たっても痛くない、ただの光の塊を防ぐべく、アティナ様は結界を構築した。


 一定エリア内に入り込んだ剥き出しの魔力を拡散させることで、魔法の構成そのものを崩壊させることを目的とした、最も基本的な対魔法結界。


 難点は、その特性上当たれば自分の魔法も防いでしまうこと。

 そのため、目の前一方向だけを防ぐ“盾”の形で構築するのが一般的だ。


 その点、アティナ様の結界は実に模範的で、構築も綺麗。発動速度も申し分ない。


 でも……だからこそ、攻略するのは非常に簡単だった。


「きゃあっ!?」


 先行していた一発の光球がアティナ様の結界に当たった瞬間、魔力が拡散する。光の属性を帯びたまま。


 つまり、強烈な閃光によってアティナ様の目を眩ませたんだ。


 その衝撃と目の痛みで、完全に無防備な姿を晒すアティナ様に、残る四つの光球が大きく弧を描きながら殺到する。


 為す術もなく四発全て直撃し、分かりやすく当たった箇所を輝かせる私の魔法。


 頭、横腹、太もも、背中側から心臓の位置を突いた私の攻撃は、どれも見事に人体の急所だ。


 それを、アティナ様もよく分かっているからだろう。ガックリと肩を落とした。


「今日も、五秒と持たなかったわね……メアリアがすごいのは分かっているつもりだったけど、こうして対峙すると益々実感するわ」


「あはは……ありがとうございます……」


 このちょっとした一騎打ちは、アティナ様への指導に入る前に必ずやっている。

 こういうのは、自分の身で体験した方が早いから。


「結界魔法は、魔法戦闘の基本中の基本ですが……基本だからこそ、実践では如何に早く相手の結界を破るか、という戦いになります。自分の中で、どの結界がどんな魔法に強く、どんな魔法に弱いのか。咄嗟に判断出来るように、反復と勉強あるのみです」


「うん、この一ヶ月、メアリアにボコボコにされて本当に痛感したわ。結界って、奥が深いのね。……ちなみに、メアリアが逆の立場だったら、さっきのはどう防いでいたの?」


「一番確実なのは、反属性……つまり、闇の魔法で相殺することですね。撃ち落とせればベストですけど、閃光による目くらまし程度なら、結界に薄く闇属性を帯びさせるだけでも全然効果がありますよ」


 実際に結界を張り、実演してみせる。

 本来なら無色透明、光の加減で薄らと魔力の燐光が見える程度の結界が、やや黒ずんだ鏡みたいになったのを見て、アティナ様はなるほどと頷いた。


「他にも、結界の構成を弄って自然の光も全て反射する鏡にしてしまうとか。最初から鏡状にしていると意味がありませんが、相手の狙いを見切ったタイミングで切り替えると、良い隙を作れることもあります。それから、単純に目を手で覆い隠してしまうというのも、シンプルですがバカになりませんね。どうせ隙が出来ると思われるかもしれませんが、完全に目が焼かれるよりはずっと立ち直りが早いので、案外間に合います。その一瞬すら危険だと判断したなら、いっそ割り切って《神ノ盾(エイジス)》のような完全防御特化の全周魔法で閉じ籠ってしまうのも一手でしょう。立ち直る時間くらいは稼げるはずです。それから……」


「ご、ごめんメアリア、メモを取るから、もう少しゆっくり話してくれる?」


「あ……す、すみません……私、つい……!」


 またやってしまった……! もう、私はどうしてこう、魔法の話になるといつも喋り過ぎちゃうの!? そんなんだから、せっかく魔法学園に入学したのに、一向に友達が増えないんだぞ!! 分かってるのかメアリア!?


 ……自分で言ってて悲しくなってきた。ぐすん。


「それにしても……メアリアは、どうやってこんなにもたくさんの魔法の知識を身に着けたの? 応用と実践までなんて……私も相当の英才教育を受けて来たつもりだったのだけど、全然知らなかったことにまで詳しいし」


「あー、えっと、それはその……お、お姉ちゃんが優秀な人だったので、その影響といいますか……」


 ごめんなさい、嘘です。五歳の時から魔法一筋、他の全てを捨ててそれ一本で勉強し続けて、学んだことは近くの山に出る獣や魔物相手に試してただけです。


 あの頃の私は本当に頭がおかしかったというか……無茶しまくって何度死にかけたか分からないし、とても人様に言えるような成長の仕方じゃない。


 それが万が一にもアティナ様に知られて、「えー……メアリアってそんなことしてたの……? ちょっとドン引きかも……」なんて言われてしまった日には、私は即座に首をくくるしか選択肢がなくなってしまう……!


「そう……そんなに優秀なお姉さんなら、私も会ってみたいわね」


「あ、あはは……そ、そのうち……機会があれば、ということで……」


 ごめんなさいお姉ちゃん。私の嘘を守るために、お姉ちゃんには一生天使と謁見出来ない縛りを与えます。不出来な妹を許してください。


「機会といえば……ルルーナ殿下は元気かしら? あの方にもたくさん助けて頂いたのに、まだちゃんとお礼も言えていなかったから、どこかのタイミングで改めて挨拶しないとなって思っていたのだけど」


「あー、ルルーナ様ならちゃんと元気ですよ。……元気過ぎて、色々と大変なくらいで……」


 話題が変わったことで、嬉々としてそれに乗ろうと思ったんだけど……そっちはそっちで、色々とアレな話題だった。


 いやその、アティナ様がいなくなって、私が学園でぼっちしてることが増えたからか、いつにも増して傍に引っ付いて来るというかなんというか。


 しかも、私自身ルルーナ様のお陰でぼっちを回避出来ているのが嬉しくて、それを半ば受け入れてしまっているんだよね。


 これは、非常にマズイ。だって……。


「そうなんだ……ルルーナ殿下、メアリアの恋人の座をルカリオ殿下と争ってるって言っていたものね。二人きりになれば、優位に立つためにそういうことになっても……」


「違いますからね!? 私はルカリオ殿下とも、ルルーナ様とも恋人じゃありませんから!!」


 王族の恋人だなんて重すぎる役割、私には絶対に無理だから!!


「じゃあ、例えばだけど……ルルーナ殿下が王族じゃなかったら、メアリアは受け入れていたの?」


「え……?」


 それは……えっと、どうなんだろう? 考えたこともなかったな。


 衝撃の質問過ぎて、またナチュラルに心を読まれていたことにも気付かなかった私の反応を見て、アティナ様はむっと頬を膨らませる。


「思っていたよりも揺れてるわね、こうなったら……メアリア」


「は、はい……なんでしょう……!?」


 唐突に、何の前触れもなく、アティナ様に抱き締められた。

 何が起きたのか全く理解出来ないでいる私の耳元に、アティナはそっと口を寄せる。


「大好きよ、メアリア。私達、ずっと親友でいましょうね」


「っ〜〜!! は、はい……」


 ぞくぞくって!! 今全身ぞくぞくってなった!!

 アティナ様、こんな急に、なんてえっちなことをするんですか!! 私じゃなかったら襲ってましたよ!?


「……あ、ああ!! なんか通信魔道具に着信入りました!! ちょっと外しますね!!」


「そう? ……仕方ないわね、じゃあ待ってるから」


 アティナ様に断りを入れ、逃げるようにその場を離れる。

 未だにバクバクしてる心臓を落ち着かせながら、物陰で魔道具を起動して……案の定聞こえて来た声に、私は開口一番文句を言った。


『やあメアリア、聞こえているかい?』


「聞こえてますよ!! もう、ルルーナ様のせいで、こっちは大変ですよ!!」


『え? 特に心当たりはないけれど、何かあったのかい?』


「それは……」


 あなたのせいで、アティナ様をえっちな目でしか見れなくなりました!! なんて言えるはずもなく、黙り込む。


 そんな私の情緒不安定な反応を『まあいいか』で見事スルーしてみせたルルーナ様は、すぐさま話題を切り替えるように本題に入った。


 ちょっとありがたい。


『実は君に……“仮面の魔女”に、頼みたいことがあるんだ。聞いてくれるかい?』


「え? ……ルルーナ様がそんなこと言うなんて、珍しいですね。そんなに厄介な事件が?」


 私の“仮面の魔女”としての主な活動は、王都の騎士団に所属しているお姉ちゃんからの情報を頼りに、“勝手に”人助けしているだけだ。誰かの命令は受けていないし、受ける権利もない。


 なぜなら、私はどこまで行っても非正規の魔導師だから。

 正規の魔導師がこなすべき仕事を、私みたいな非正規の魔導師に割り振ってこなして貰うなんて、私はともかく命じる側であるルルーナ様の外聞が悪い。


 本来いるはずの、正規の魔導師を信用してないってことになるからだ。


 護衛の件も、アティナ様のために西部地域で大暴れしたのも、色々と例外的な感じだし。


『厄介は厄介だね。厄介すぎて、中央の頭の固い連中は、支援の必要は無いと断じてしまったみたいなんだ。僕はそう思わなかったんだけど……残念ながら、僕に王族としての力なんて無きに等しい。動かせるとしたら、君しかアテがなくてね』


「はあ……裏事情は分かりましたが、結局どこで何があったんですか?」


 政治のことはよく分からないけど、中央貴族が支援を出し渋ったことが問題なら、行先は恐らく西部か東部。アティナ様に困っている様子はなかったから、東部かな?


 そんな私の予想は一応当たっていたらしく、ルルーナ様は『東部からの要請でね』と口にする。


 ただ……その後に続いた言葉は、予想外にも程があった。


『出たらしいんだよ、吸血鬼が。それを探し出して、討伐して欲しいそうだ』


「……は?」

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