デートの約束
「メアリア、どうして彼女を庇ったんだい?」
「へ?」
月末試験を終えた日の、昼食の時間。アティナ様も含めた三人で食堂にいると、ルルーナ様から問いかけられた。
“彼女”だけだと誰のことだかピンと来なかった私に、ルルーナ様は言葉を重ねる。
「カーバンクル嬢のことさ。君が彼女を庇う理由なんて、どこにもないだろう?」
「え、と……それは……」
確かに、私はベアトリーチェ様に対して、何一つ良い印象がない。
何かに付けて突っかかって来るし、この前なんて一日だけとはいえ派手に虐められもしたし、そもそもあの事故だって、ベアトリーチェ様が理論も何もなく無理に真似しようとしたのが悪い。自業自得だ。
でも……うん。
「誰だったとしても……見ていられなかったから」
私はベアトリーチェ様を助けたかったんじゃない、あの……たった一人を寄って集って責め立てるような空気に、耐えられなかっただけ。
そんな私に、ルルーナ様は小さく微笑む。
「やっぱり、優しいね、君は。そういうところも好きだよ」
「うぐっ……」
またこの王女様は臆面もなくそういうことを……!
などと思っていたら、今度はアティナ様が隣に椅子を寄せて来た。
「私もそう思う。“親友”として、誇りに思うわ」
「あ……ありがとうございます……」
アティナ様にそう言って貰えるのはすごく嬉しいんだけど……なんだろう、すごく圧を感じる。
その正体が全く分からないまま戸惑っていると、後ろからやけに大きな足音が聞こえた。
「随分と楽しそうですわね」
「あ……ベアトリーチェ様……」
いつもの取り巻きも連れず、一人でやって来た彼女は、私をジロリと睨み付ける。
ひぃっ、怖い……。
「礼は言いませんし、謝罪もしませんわ。ただ……今回は、私の負けです。この借りは、必ず返しますから……覚えておいてくださいまし」
「あ……はい……」
言いたいことだけさっさと言って、ベアトリーチェ様は去っていく。
なんだったんだろう、一体。
「彼女も、少しは反省したようだね」
「そうですね、これでちょっとは学園が過ごしやすくなります」
「????」
ルルーナ様とアティナ様は、なんか察した風な空気を出してるけど……今ので何が分かったの!? 何を反省してたの!? さっぱり分からないんですけど!?
「過ごしやすく、といえば……メアリア、あなた寮の部屋はもう直ったのよね?」
「え? あ、はい。ひとまず、普通に過ごせる状態にはなりました」
「じゃあ……試験も終わったし、明日二人で調度品を見に行かない?」
部屋がめっちゃくちゃに荒らされた件は、私に責任はないってことで学園側が補填してくれたから、私に負担らしい負担はなく元に戻ってる。
ただ、最低限の備品は用意してくれたけど、逆に言えばそれだけで……随分と殺風景な状態だ。
アティナ様は、それを気にしてくれているらしい。
「い、いいんですか……? アティナ様にご迷惑じゃ……」
「ちょうど私も、欲しいインテリアがあるの。だから、ね? 一緒に選びましょ?」
「ありがとうございますぅ……!!」
やった! アティナ様とお出かけだ!
そんな風に喜んでいたところで、ふと気付いた。
あれ? ルルーナ様がやけに大人しいなって。
デートみたいなものだし、反応しそうなものなのに。
いや、女の子同士でデートも何もないんだけどね??
「残念ながら、僕は休みの日はほとんど公務があってね。王女として正式に立ったばかりだから、やらなければならないことが山積みなんだ」
「そうなんですか?」
シンプルに、大変そうだなーって思う。
でも……ルルーナ様自身は、特に負担とも思っていないのか、楽しそうに微笑んだ。
「これも、君達と一緒に学園生活を送るためだと思えば、苦でもないさ。というわけで、僕達のデートはまた今度だ。明日は、アティナと二人のデートを存分に楽しんで来るといい」
「デートじゃないですから!!」
全く、ルルーナ様はいつもそうやって私を揶揄うんだから。
ぷりぷりと憤慨していると、隣でアティナ様が心外そうに呟いた。
「あらメアリア、私とはデートしてくれないの? 私はデートのつもりで誘ったのに」
「…………へ?」
アティナ様が何を言っているのか、しばらく分からなくて、私はただ呆然と固まってしまう。
こうして私は、何がなんだか分からないうちに、アティナ様とのお買い物デートに出掛けることになってしまうのだった。




