九十九話
「伝統工芸とスイーツを一度に台無しにするわ!」という駆の車内での静かな(爆音)ツッコミから数時間。
金沢に到着した翌日の15時。天宮ミルクのチャンネルでは、雅な琴と尺八の調べとともに、秋色に染まる加賀百万石の名勝・兼六園の広大な映像から生配信がスタートしていた。
タイトル:『【全国出張ロケ編#2】金沢・兼六園に降り立つ!? 輝く金箔ソフト&加賀伝統文化体験で和の極み(?)配信!』
全国ロケツアー第2弾は、日本三名園のひとつ・兼六園とその周辺の茶屋街。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「兼六園の紅葉綺麗すぎる!」「ヒューガの着流し和装姿イケメンすぎだろww」「金箔ソフトにキャベツは阻止されたのか!?」と大歓喜し、開始直後に同接数は150万人を軽々と突破していた。
【金沢ロケ本番きたあああ!】
【和装のふたりが絵になりすぎて和風映画かと思った】
【※兼六園および周辺施設より撮影許可を得て配信しています】
【ヒューガの羽織姿たすかる】
――15時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、色づき始めた木々と徽軫灯籠を背景に立つふたり。シックな紺色の羽織着物を粋に着こなしたヒューガと、紅葉柄の可憐な和モダン着物に身を包んだ天宮ミルク(3D)が、金箔ソフトクリームを手にして並んでいた。
「……みなさんこんにちは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。金沢・兼六園です。特別に許可を得て撮影しております。昨日の俺の猛抗議により、ソフトクリームにキャベツを刺す愚行は回避されました。眩しいほどの本格金箔ソフトです。……が、天宮さんが金箔の眩しさにテンションが上がりすぎて、ソフトクリームを持つ手が震えています。落とすなよ。助けてください」
「こんミルク〜! 和の心と金の輝きを纏った『加賀の姫君天宮』です〜!」
「勝手に姫君を名乗るな!!(※デジャヴ) なんで金箔ソフトを両手に持って『金の二刀流です〜!』って構えてんだよ!! 溶けて手に垂れてきてんだろ!! 早く食え!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のキャベツ回避&二刀流ツッコミ】
【金の二刀流草ww】
【羽織姿のヒューガと着物のみずきが完全にお似合いカップル】
そこへ、金沢の伝統と文化を深掘りすべく、Discord経由で仲間たちが遠遠隔実況を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、その金箔の厚さは約0.0001ミリです。風速3メートル以上の風が吹くと金箔のみが飛散する計算です』
「風で金箔が飛んでいく計算すんな!! 落ち着いて食べられなくなるだろ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……金沢の地よ! 我が『黄金の錬金術』により、そのソフトクリームを真の黄金へと変えてやろう!(※画面越しに怪しい印を結ぶ)』
「ソフトクリームを本物の金に変えたら歯が折れるわ!! 普通に美味しく食わせろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの金沢観光解析データにより、兼六園で100%映える写真ポーズが判明しました!「ふたりで手でハートを作って背景の灯籠を囲む」です!』
「なんで観光地でカップルみたいな写真を撮らなきゃいけないんだよ!! リスナーが画面の前で大暴動を起こすわ!!」
【金箔飛散計算ww】
【歯が折れる黄金ソフト草ww】
【ハート囲みポーズ提案ww】
【同接破竹の185万人突破!】
仲間たちのハチャメチャな通信を速攻で片付け、濃厚なミルクと金箔の贅沢な味わいを堪能するふたり。
「……う、美味い……! 金箔のふわっとした食感と、ソフトクリームのコクが凄まじいな……」
「ふふふ〜! 美味しいですね日向くん! ……あ、日向くん、お口の横にちょっとクリームがついてますよ?」
「ん? どこだ……あ」
みずきが着物の袖を少し抑えながら、半紙で優しく駆の口元を拭ってやる。超至近距離で重なる視線と、ふんわりと漂う和菓子の甘い香り。コメント欄とスパチャは本日一番の大爆発!
【口元拭いたあああああああ!!】
【完全にデート配信です本当にありがとうございました】
【ヒューガの顔が紅葉より赤くなってて草ww】
【てぇてぇの極み!!】
「〜〜〜っ!? お、おいバカっ!! 自分で拭けるわっ!!」
真っ赤になって慌てて後ろへ下がる駆と、「えへへ、日向くんのお顔が赤くて金箔より綺麗です〜!」と嬉しそうにキャッキャと笑うみずき。
同接200万人を突破したリスナーからの「金沢編神回すぎる」「永遠に金沢にいてくれ」「尊すぎて昇天した」という大歓喜のスパチャとコメントに包まれ、兼六園生配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。夕暮れのひがし茶屋街。情緒ある石畳の街並みを、ふたり並んでゆっくりと歩く帰り道。
羽織の裾を揺らしながら、温かい加賀棒茶のテイクアウトカップを持つ駆。
「……ハぁ……。兼六園で口元拭かれた時は、マジで心臓が跳ね上がったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で着物の歩幅に合わせてちょこちょこと歩くみずきが、夕陽に照らされた横顔で愛おしそうに駆を見上げる。
「でも……日向くんと一緒に着物を着て、金沢の街を歩けて……ミルク、夢みたいに幸せでした」
駆は加賀棒茶を一口飲み、夕空を見上げながら、照れくさそうに柔らかく笑った。
「……たく。お前が嬉しそうに着物でハシャいでたからな。……まあ、たまにはこういう和風な旅も、悪くねぇよ」
みずきは嬉しそうに目を細めると、金箔の輝きよりも眩しい、飛び切りの笑顔を咲かせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、どんな街も世界一特別な場所になっちゃいます!」
「へいへい。……で、金沢ロケも大成功で終わったし、明日はどこへ行く気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『金沢の次は温泉と美食! 飛騨高山に移動して100グラムの超高級飛騨牛&巨大キャベツ露天風呂(?)食レポ配信』です!」
駆は情緒ある茶屋街の夕空に向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミ(※小声)を叩き込んだ。
「露天風呂にキャベツを浮かべるんじゃない!!!! 高級温泉宿の支配人に怒られて即出禁になるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
茜色に染まるひがし茶屋街の石畳と、二人の弾けるような笑い声。
次なる舞台は、飛騨高山の温泉街へ!
記念すべき100話の節目を目前に、世界一のツッコミと世界一のド天然の旅路は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく――。




