九十八話
「部室を飛び出しても俺の胃痛は終わらねぇ!」という駆の諦め混じりの言葉から一夜。
秋休み初日の午前10時。天宮ミルクのチャンネルでは、ガタゴトと心地よい線路の走行音と、窓の外を爆速で流れる日本の原風景とともに、待望の全国ロケツアー開幕生配信がスタートしていた。
タイトル:『【全国出張ロケ編#1】新幹線の車内から生配信!? 目的地の金沢を目指してキャベツ駅弁&車内限定トーク!』
部室を完全に飛び出した記念すべき旅の第1弾。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「本当に部室飛び出してて草」「新幹線から生配信とか予算どうなってんだww」「ヒューガの私服(秋物コート)イケメンすぎ」「金沢に行くのか!?」と大熱狂し、開始わずか数分で同接数は145万人を軽々と突破していた。
【全国ロケ編開幕きたあああ!】
【新幹線のグランクラス(※貸切区間)で配信してて草】
【※JR各社および関係各所に正式に許可を得て撮影しています】
【私服ヒューガ×天宮ミルクの旅デート感ヤバい】
――10時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、最新型新幹線のシックでラグジュアリーな車内。落ち着いたキャメル色の秋コートを着たヒューガと、ベレー帽にチェック柄のトレンチ風ワンピースを着た天宮ミルク(3D)が、ゆったりとしたリクライニングシートに隣同士で並んで座っている。
「……みなさんこんにちは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の宣言通り、部室を飛び出しました。現在、北陸新幹線の車内にいます。JRさんおよび関係各所への正式な撮影許可と音量規制を厳守して配信しております。……ですが、隣の天宮さんが旅の興奮で朝5時からハイテンションです。助けてください」
「こんミルク〜! 全国ロケツアーの第一弾『北陸金沢・歴史と美食の旅』に出発した、旅するV・天宮ミルクです〜!」
「朝5時に俺の部屋のドアを連打して起こすんじゃない!! こっちは寝不足なんだよ!! あと『移動中もお腹が空かないように』って持ち込んできたその駅弁の重みが異常なんだが!? 何が入ってんだこれ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の正式許可済み&朝5時凸ツッコミ】
【寝不足ヒューガ草ww】
【重すぎる駅弁の正体とは】
そこへ、車内での移動を追跡(?)すべく、Discord経由で仲間たちが旅のナビゲーターとして通信を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、現在の走行速度は時速260キロです。トンネル通過時の電波減衰に備え、配信ビットレートを自動最適化しています』
「電波の最適化まで裏でやってくれて助かる!! でも『時速260キロでツッコミを飛ばす男』とか妙なキャッチコピーを画面下にテロップで出すな!!」
鳳凰院カグラ『クックック……北陸の地よ! 我が闇の使者たる二人に『金沢の魔界グルメ(※金沢カレー)』の試練を与えてやろう!』
「金沢カレーはただの超美味しいご当地グルメだろ魔王!! 試練でもなんでもねぇよ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの旅ロケ解析データにより、車内で絶対に盛り上がる秘策が判明しました!「富士山が見えた瞬間に『キャベツ山!!』と絶叫する」です!』
「北陸新幹線から富士山は見えねぇし車内で絶叫したらマナー違反で降車させられるわ!!」
【時速260kmでツッコミを飛ばす男ww】
【金沢カレー=魔界グルメ草ww】
【マナー違反で途中下車提案ww】
【同接破竹の180万人突破!】
仲間たちのハチャメチャな通信をさばきつつ、旅の醍醐味である「特製・金沢出張記念駅弁(※能登牛と越前蟹と、なぜか隅に添えられたキャベツの浅漬け)」を開いて二人で食レポを開始!
「……う、美味い……! 能登牛の脂が口の中でとろけて、蟹の出汁が米に染み込んでる……! 移動中の車内で食べる飯って、なんでこんなに美味いんだろうな……」
「ふふふ、そうでしょう〜! ほらヒューガさん、あーんして一口あげます〜!」
「~〜〜っ!? お、おいバカやめろ!! 配信中だぞ!! リスナーが見てんだろ!!」
照れまくる駆と、「えへへ、美味しいものは半分こです!」と無邪気に笑うみずき。二人だけの甘すぎる車内の距離感に、コメント欄とスパチャは大爆発を起こした!
【あーんきたああああああ!!】
【新幹線の車内でバカップル(?)誕生】
【ヒューガの顔が能登牛より赤くて草】
【てぇてぇの過剰摂取でリスナー死亡】
同接200万人のリスナーから「全国ロケ編神すぎる」「私服の二人がお似合いすぎる」「金沢行きたくなった」と大量のスパチャが降り注ぎ、新幹線車内LIVEは大熱狂のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。トンネルを抜け、金沢の街並みが見え始めてきた車内。
コートの襟を少し緩め、冷たいお茶を飲みながら窓の外の景色を見つめる駆。
「……ハぁ……。配信で『あーん』なんてさせられた時はどうしようかと思ったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でベレー帽を整え、冷たい缶のいちごミルクを飲みながら、みずきが愛おしそうに駆の横顔を覗き込む。
「でも、日向くんが美味しそうに食べてくれて嬉しかったです。……部室を飛び出して、二人で遠くまで行くの……なんだかドキドキしちゃいますね」
駆はお茶のペットボトルを手に持ったまま、自分の首の後ろを真っ赤にし、照れくさそうに柔らかく笑った。
「……たく。お前が隣で子供みたいにハシャいでるからだろ。……まあ、たまにはこんな旅も悪くねぇよ」
みずきは嬉しそうに目を細めると、窓から差し込む秋の光よりも眩しい、飛び切りの笑顔を咲かせた。
「はいっ! 金沢に着いたら、もっともっと美味しいものと楽しい思い出、たくさん見つけましょうね!」
「へいへい。……で、新幹線ライブも終わったし、金沢に着いたら最初に何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『金沢到着! 兼六園の美しい庭園で100枚の金箔を貼り付けた超豪華キャベツ金箔ソフトクリーム食レポ配信』です!」
駆はガタゴトと揺れる新幹線の車内で、本日一番の快晴のような爆音ツッコミ(※小声)を叩き込んだ。
「名物の金箔ソフトにキャベツを突き刺すんじゃない!!!! 金沢の伝統工芸と美味しいスイーツを一度に台無しにするわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
流れる車窓の風景と、二人の弾けるような笑い声。
部室を飛び出し、舞台は伝統と美食の街・金沢へ!
世界一のツッコミと世界一のド天然の旅路は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく――。




