九十五話
「築城資材で部室の床が抜けるわ!」という駆の至極まっとうな悲鳴が秋のキャンパスに響き渡ってから一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、重厚なホラ貝の音色と戦国スペクタクルな太鼓のBGMとともに、どこか威厳あふれる(?)生配信がスタートしていた。
タイトル:『【天下統一】部室に巨大天守閣誕生!? 100箱のダンボールで「キャベツ城」を築城&天下分け目の雑談合戦!』
前回のボタニカルな癒やしジャングルから一転、まさかの本格・戦国築城企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「また部室にダンボールが帰ってきたww」「天守閣のクオリティが無駄に高い」「ヒューガの若武者姿かっこよすぎ」「合戦って何するんだよww」と大盛り上がりで集結し、開始数分で同接数は140万人を軽々と突破していた。
【部室キャベツ城きたあああ!】
【シャチホコがキャベツの形してて草】
【※建築学科の友人に耐荷重を(略)安全確認済み】
【ヒューガの陣羽織&鉢巻き姿てぇてぇ】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の奥に威容を誇る、全高2メートル超のダンボール製『難攻不落・キャベツ城』。てっぺんには鮮やかな緑色の「キャベツのシャチホコ」が光り輝いている。赤地の綺麗な陣羽織を羽織ったヒューガと、可愛らしい姫様風の和装に身を包んだ天宮ミルク(3D)が、城門の前に立っていた。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の俺の激怒を受け、例によって建築学科の友人に補強計算を依頼し、床の安全性を確保した上で天守閣が建ちました。床は抜けません。……が、なんで部室の中に城がそびえ立ってんだよ。助けてください」
「こんミルク〜! 世界一の城主を目指す『天宮城主』です〜!」
「勝手に城主を名乗るな!! なんで俺がその配下の武将みたいな陣羽織着せられてんだよ!! あとシャチホコをキャベツの形にするんじゃない!! 妙に丸みがあって強そうに見えないんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の安定の建築学科信頼ツッコミ】
【キャベツのシャチホコ草ww】
【配下武将ヒューガのイケメン度が高い】
そこへ、天下分け目の合戦に参入すべく、Discord経由で仲間たちが戦国武将気取りで通信を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の軍略計算によれば、そのキャベツ城の城門は横からの圧力に弱く、紙鉄砲の衝撃波でも12.4%の確率で崩壊します』
「紙鉄砲で崩れる城を『難攻不落』って呼ぶな!! 豆腐建築かよ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が暗黒の魔軍『黒炎騎兵隊』の総攻撃を受けよ!(※画面手前に走ってくるラジコンの黒馬)』
「城門の前でラジコンの馬走らせるな魔王!! 陣羽織の裾に引っかかって転ぶだろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの戦国合戦解析データにより、一瞬で敵の士気を挫く秘策が判明しました!「城壁の上から『キャベツ美味いぞー!』と叫んで兵糧攻めにする」です!』
「相手の腹を減らせるか!! 単なる和やかな食レポの叫びだろ!!」
【紙鉄砲で崩れる豆腐建築ww】
【ラジコン馬で攻め込む魔王草ww】
【叫んで兵糧攻め提案ww】
【同接破竹の175万人突破!】
仲間たちのハチャメチャな合戦攻撃(?)を陣羽織をはためかせて打ち払い、二人で手作りの「スポンジ製キャベツ弾(※安全素材)」を投げ合う平和すぎる『キャベツ城合戦』が開幕!
「いざ出陣ですヒューガさん! えいっ〜!(※ぽふっ)」
「おおっと! ……投げ方が優しすぎて打撃ゼロなんだよ!」
手作りの城の上で無邪気にキャベツ弾を投げ合い、笑い転げる二人。
しかし、みずきが「天守閣から勝鬨をあげます〜!」と身を乗り出した瞬間、足元のダンボールが少しぐらりと揺れた!
「あっ……きゃぁっ!?」
「うおっ、危ねぇ!!」
駆は咄嗟に階段を駆け上がり、グラついた天守閣の上でしっかりとみずきの腰を抱き寄せて引き戻す!
パタンと軽やかに崩れる城の壁と、駆の胸の中にすっぽりと収まるみずき。夕陽が差し込む部室の中、二人の距離は息が触れ合うほどゼロに。
「……たく。慌てるなって言っただろ、姫様」
「……っ! ……ひ、日向くん……っ」
駆の無意識の「姫様」呼びと、抱き寄せられた強引で優しい腕の力に、みずきは顔を耳まで真っ赤にして胸をキュッと掴む。
カメラの画角いっぱいに広がるその甘すぎる一瞬に、コメント欄とスパチャは大爆発を起こした!
【姫様呼びきたあああああああ!!】
【抱き寄せ方の手慣れ感ヤバい】
【キャベツ城崩壊と引き換えに最高の萌えが誕生した】
【全人類尊死(本日も無事死亡)】
「~〜〜っ!? あ、いや! 今のはその、衣装が姫様っぽかったからでだな……っ!」
赤面して慌てて手を離し弁明する駆と、胸を押さえたまま恥ずかしそうに嬉しく笑うみずき。
同接195万人のリスナーから「ヒューガのイケメン無自覚攻撃えぐい」「ごちそうさまでした」「神回」「スパチャ投げまくります」と歓喜のスパチャが降り注ぎ、築城合戦配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。崩れたダンボール城を二人で綺麗に片付け、静かになった夜の部室。
陣羽織を脱ぎ、冷えた缶コーヒーで火照った顔を冷やす駆。
「……ハぁ……。城を建てるのも壊すのも、一苦労だな……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で着物の裾を整え、冷たい缶のいちごミルクを持ってみずきが、上目遣いで愛おしそうに駆の横顔を見つめる。
「日向くん……さっき『姫様』って守ってくれたとき……すっごくかっこよくて、ミルク、本当のお姫様になったみたいでした」
駆は一口コーヒーを流し込み、自分の首の後ろを真っ赤に染めながら、照れくさそうに明後日の方向へ顔を背けた。
「……ッ、口が滑っただけだっつの。……まあ、お前が怪我しなかったなら、それでいいけどよ」
みずきは嬉しそうに目を細めると、夕陽よりも温かい、飛び切りの笑顔を咲かせた。
「はいっ! 日向くんが守ってくれるなら、ミルクは世界で一番幸せなお姫様です!」
「へいへい。……で、築城合戦も片付いたし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『合戦の後は超・静寂! 部室で100個の特製キャベツキャンドルを灯すアロマ癒やし雑談配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「アロマキャンドル100個は火気厳禁で火災報知器が(デジャヴ)発動するわ!!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
天下統一の合戦(と甘い不意打ち)を乗り越え、次なる癒やしの暴走(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




