九十二話
「暴走して部室を破壊される未来しか見えないわ!」という駆の預言のような叫びが夜空に溶けてから一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、どこかSFチックな電子音と近未来的なインジケーターが明滅する、ハイテクな生配信がスタートしていた。
タイトル:『【未来到来】部室に最新AI給仕ロボがやってきた!? キャベツ自動給仕システムで完全自動化配信!』
前回の甘酸っぱい風船恋バナ雑談から一転、まさかの最新テクノロジー暴走企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「昨日の余韻どこ行ったww」「急に近未来SF始まって草」「ヒューガの白衣姿たすかる」「絶対後半でロボが暴走するフラグ」と大歓喜し、開始数分で同接数は140万人を軽々と突破していた。
【ハイテク給仕ロボきたあああ!】
【部室の中央に配膳ロボットがアームをウネウネさせてて草】
【※工学部ロボティクス学科の試作機を正式にお借りしています】
【ヒューガの白衣&メガネ姿てぇてぇ】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、工学部から借り受けてきた自律走行型の配膳ロボット『キャベツ配給くん一号』。白衣を羽織り理系仕様のメガネをかけたヒューガと、メカニック風のアームカバーをつけた天宮ミルク(3D)が、ロボットの両脇に立っていた。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。天宮さんが工学部の友人から最新型の自律給仕ロボットを借りてきました。大学の正式な実証実験として申請済みです。……ですが、このロボットのセンサーが俺をターゲットとしてロックオンしています。アームの威圧感がすごいです。助けてください」
「こんミルク〜! 未来の部室生活を完全自動化する『ハイテク技術者天宮』です〜!」
「技術者じゃなくてただの実験台だろ!! なんでロボットのアームが俺の顔面に千切りキャベツを高速射出する角度で待機してんだよ!! 角度調整がガバガバなんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の実証実験申請済みツッコミ】
【千切りキャベツを高速射出するロボww】
【ヒューガをロックオンするAI】
そこへ、AIのシステム開発者(?)として、Discord経由で仲間たちがリアルタイムでデバッグ(妨害)を仕掛けてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕が組み込んだ最新深層学習AIプログラムにより、配給くん一号はヒューガさんの『ツッコミの音圧』を検知して自動でキャベツを供給します』
「ツッコミの音圧でキャベツ出すな!! 俺が叫べば叫ぶほどキャベツが連射される地獄のシステムじゃねぇか!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が闇のハッキング『オーバーロード』により、配給くん一号の限界を超えたフルパワーを見せてやろう!(※外部コマンド入力)』
「勝手にハッキングして怪しいコマンド打つな魔王!! ロボットのランプが真っ赤に点滅し始めたぞ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの暴走停止データにより、ロボットを沈静化させる唯一のコマンドが判明しました!「ロボットに向かって『お前が一番キャベツだ!』と絶叫してAIを論理破綻させる」です!』
「ロボットを論理破綻させる前に俺の喉が破壊されるわ!!」
【ツッコミ音圧連射システムww】
【魔王のハッキングで赤点滅草ww】
【論理破綻『お前が一番キャベツだ!』ww】
【同接破竹の175万人突破!】
カグラの怪しいコマンドとレンのツッコミ音圧検知が最悪のシナリオで噛み合い、ウィーン! という警告音とともに『配給くん一号』が制御不能に!
「警告:キャベツ供給モード、最大出力。目標:ツッコミ担当ヒューガ」
「うわあああ!? ホントに千切りキャベツをマシンガンのように連射し始めたぞ!!」
「ヒューガさん危ないです〜!」
キャベツの射撃を敏捷にかわしながら、ロボットの背後に回り込み、緊急停止ボタンに向かって全身全霊の拳を叩き込む駆!
「暴走してんじゃねえええええ!!(※緊急静止ボタン点灯)」
ピピ……と電子音が鳴り、ロボットは静かに沈黙。部室には大量の千切りキャベツと、息を荒らげる駆の姿が残された。
「……ふぅ……。機械なんぞに……俺たちの部室を支配されてたまるかよ……!」
同接195万人のリスナーから「V界最高のSFアクション回」「ヒューガの緊急停止かっこよすぎ」「AIに勝利する男」「腹抱えて笑った」とスパチャの雨が降り注ぎ、AI暴走配信は大爆笑のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。飛び散った千切りキャベツを綺麗に清掃し、ロボットを返却した夜の部室。
白衣を脱ぎ、温かい缶コーヒーを飲みながら深く息をつく駆。
「……ハぁ……。ロボットの相手をするのが一番疲れるぞ……。やっぱり給仕は人間がやるに限るな」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でメカニックアームを外し、綺麗なお皿に盛ったドレッシング付きのキャベツサラダと、冷たい缶のいちごミルクを持ってみずきが微笑む。
「はいっ! 機械の自動給仕よりも、ミルクが『はい、日向くん!』って渡す手作りの方が、絶対に美味しいですよね!」
駆はお皿を受け取り、シャキシャキとキャベツを一口頬張ると、照れくさそうに柔らかく笑った。
「……まあな。お前が笑って渡してくれる方が、100億倍マシだわ」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それからパッと太陽のような飛び切りの笑顔を咲かせた。
「えへへ! 日向くんの専属給仕係は、世界でミルクだけの特権です!」
「へいへい。……で、AIロボ暴走も片付いたし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『ハイテクの後は超・アナログ! 部室で100枚の特大ダンボールを使って巨大キャベツ迷路脱出配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「部室の中にダンボール迷路を作るんじゃない!!!! 狭すぎて出口にたどり着けないわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
ハイテクの暴走を人間の絆で打ち破り、次なる巨大ダンボール迷路(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




