九十話
「存在しないキャベツ座を探すんじゃない!!!!」という駆の満天の星空をも切り裂くツッコミが響き渡ってから一夜。
翌日の20時。天宮ミルクのチャンネルでは、静けさに満ちたピアノの音色と重厚な星座解説BGMとともに、神秘的な生配信がスタートしていた。
タイトル:『【ロマン】部室が満天の星空に!? 高性能プラネタリウムで夜空を鑑賞&伝説のキャベツ座を探せ!』
前回の爆音カラオケ熱唱から一転、まさかの本格・天体観測ロマン企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「前回の防音壁にそのまま星空投影してて草」「暗闇配信助かる」「ヒューガの天文学者風メガネ姿てぇてぇ」「マジで部屋がキレイすぎるww」と大歓喜し、開始数分で同接数は140万人を軽々と突破していた。
【部室プラネタリウムきたあああ!】
【防音シートの黒壁が最高のスクリーンになってて草】
【※天文台仕様の超本格プロジェクターを導入しています】
【メガネヒューガ×天体望遠鏡の破壊力】
――20時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、前回取りつけた黒い防音シートに覆われ、完全に真っ暗となった部室。天井と壁一面には、息をのむほど美しい億万の星々がキラキラと輝いている。インテリ風のメガネをかけたヒューガと、星座柄の可愛らしいワンピース姿の天宮ミルク(3D)が、天体望遠鏡の横に座っていた。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の防音シートがそのまま遮光シートとして機能し、業務用プラネタリウム投影機によって部室が完全に銀河系になりました。非常に綺麗です。……が、なんで俺は黒縁メガネをかけさせられて天文学者のフリをしてるんだよ。助けてください」
「こんミルク〜! 宇宙のロマンと乙女心を星に届ける『天体観測士ミルク』です〜!」
「勝手に観測士を名乗るな!! なんで部室の中で本格的な天体望遠鏡を覗いてんだよ!! プロジェクターのレンズを覗き込んだら目が眩むだろ!! あと暗闇の中でキャベツ座を探すな!! 88星座のどこにも登録されてねぇんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の業務用プロジェクターツッコミ】
【プロジェクターのレンズ覗き込むなww】
【キャベツ座は存在しない(全天88星座調べ)】
そこへ、宇宙の真理と星座の歴史(?)を語るべく、Discord経由で仲間たちが怪しい通信を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、北東35度の位置にある秋の四辺形の横に、星の配置が奇跡的に『葉っぱの丸み』を描く仮想領域が存在します。あれが新発見のキャベツ座です』
「強引に星を結んでキャベツの形にするな!! それただの歪なペガスス座の一部だろ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が漆黒の深淵『暗黒の邪竜座』の威光を!(※レーザーポインターで赤い点を星空に走らせる)』
「レーザーポインターで壁の星を追うな魔王!! 猫じゃねぇんだから光を追わせるんじゃない!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの天文学解析データにより、キャベツ座から流れ星が流れる秘策が判明しました!「星に向かって『キャベツ美味い!』と叫ぶと願いが叶う」です!』
「流れ星のロマンが台無しだわ!! 宇宙規模でキャベツを推してくるんじゃない!!」
【ペガスス座の一部をキャベツ座認定ww】
【レーザーポインター追う猫ちゃんスタイル】
【宇宙規模のキャベツ推しww】
【同接破竹の175万人突破!】
仲間たちのハチャメチャな天体解説(?)に呆れつつも、暗闇の中で天井に広がる満天の天の川を見上げる二人。
「……まあ、でも……部室の中にいながらこんな綺麗な星空が見られるってのは……なかなか風情があっていいな……」
「ふふふ〜、そうでしょう〜! ほらヒューガさん、あそこの星の並び……ふたりで並んで座ってるみたいに見えませんか?」
「あん……? どれだ? ……あー、なるほどな。確かに寄り添ってるように見えるな……」
プロジェクターが映し出す幻想的な天の川の下、隣同士で静かに星を見つめ合うふたり。
そのあまりにもエモく美しい光景に、同接195万人のリスナーから「美しすぎる……」「神回」「てぇてぇの最高到達点」「映画のワンシーンかよ」「スパチャ投げまくるわ」と、スパチャの雨と感動のコメントが画面を埋め尽くし、部室プラネタリウム配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。プラネタリウムの電源を落とし、小さな室内灯を点けた夜の部室。
メガネを外し、温かい缶コーヒーを飲みながらホッと息をつく駆。
「……ハぁ……。暗闇の中で静かに星を見るってのも……思った以上に癒やされたな……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でワンピースの裾を整え、冷たい缶のいちごミルクを両手で飲みながらみずきが嬉しそうに駆の横顔を見つめる。
「日向くんと一緒に見上げた星空……一生忘れられないくらい綺麗でした!」
駆は一口コーヒーを流し込み、照れくさそうに首の後ろを掻きながら、柔らかく笑った。
「……たく。お前がロマンチックな企画出してきたおかげだな。……綺麗な星空見せてくれて、ありがとな」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それから夜空のどの星よりも眩しい飛び切りの笑顔を咲かせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、部室の天井だって宇宙の一番近くになっちゃいます!」
「へいへい。……で、大宇宙のロマン鑑賞も終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『90話到達記念! 部室を100個の風船で埋め尽くして感謝の大パーティー&過去の暴走企画振り返り雑談配信』です!」
駆は静まり返った夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「部室を風船で埋め尽くしたら酸欠になるわ!!!! 90話まで来ても相変わらず暴走が止まらないな!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。
満天の星空を二人で見上げ、記念すべき大感謝パーティー(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




