八十九話
「近所迷惑で警察が飛んでくるわ!」という駆の至極当たり前な絶叫が夜空に轟いてから一夜。
翌日の19時。天宮ミルクのチャンネルでは、いつもと違うスタジオレベルの静けさから、一転してド派手なライブ照明が明滅する生配信がスタートしていた。
タイトル:『【爆音解禁】部室をプロ仕様防音室に改造!? 100枚の防音マットで全力熱唱カラオケ大会!』
粘土100キロの大格闘から一転、まさかの本格アニソン&Vソング熱唱企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「防音対策ガチすぎて草」「部室がプロの録音スタジオになってる」「ヒューガのカラオケ助かる」「警察回避ルートきたww」と大歓喜し、開始数分で同接数は135万人を軽々と突破していた。
【爆音カラオケきたあああ!】
【壁と天井に隙間なく壁厚防音シートが敷き詰められてて草】
【※音響工学科の友人の協力で騒音レベル検証済みです】
【ヒューガのロック風衣装&サングラス姿てぇてぇ】
――19時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、壁から天井、ドアの隙間に至るまで、極厚のプロ仕様防音マットで完全に覆われた部室。中央にはカラオケマイクとスタンド、本格的なスピーカーセットが設置されている。黒のレザージャケットにサングラスをかけたヒューガと、アイドル風のドレスでマイクを構えた天宮ミルク(3D)が立っていた。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の俺の激怒を受け、天宮さんが音響工学科の友人を連れてきて部室を完全防音空間に改造しました。外への音漏れはゼロデシベルです。警察は来ません。……ですが、俺が革ジャンを着せられてアニソンを熱唱する流れになっています。恥ずかしさで死にそうです。助けてください」
「こんミルク〜! 圧倒的声量で世界を震わせる『ロックシンガー天宮』です〜!」
「勝手にロックシンガーを名乗るな!! なんで防音工事のクオリティだけV界最高峰なんだよ!! あと俺にグラサン掛けさせるな!! 視界が暗くて歌詞モニターが見えねぇんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の完全防音&外漏れゼロツッコミ】
【音響工学科の友人何者だよww】
【サングラスでモニター見えないヒューガ草】
そこへ、盛り上げ役(&採点審査員)として、Discord経由で仲間たちがライブ会場の熱気さながらに通信接続してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、その防音室の残響時間は0.2秒です。声の通りが最高になるため、音程正確率が98.5%まで上昇します』
「精密な音響データを出してプレッシャーをかけるな!! 普通に歌わせろ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が魔界の爆音シャウト『デスボイス・オブ・カオス』を響かせてやろう!(※スピーカーからの大音量エコー付きシャウト)』
「防音室の中でデスボイス出すな魔王!! マイクの入力レベルが振り切れて音が割れるだろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのカラオケ高得点解析データにより、100点を叩き出す秘策が判明しました!「サビの決めフレーズで『キャベツ!!』と絶叫して加点対象にする」です!』
「どんな採点システムもキャベツの絶叫を加点対象に認定しねぇよ!! 減点どころか採点不能になるわ!!」
【残響時間0.2秒のガチ環境ww】
【音割れデスボイス魔王草ww】
【採点不能の『キャベツ絶叫』ww】
【同接破竹の170万人突破!】
仲間たちのハチャメチャな合いの手を受けながら、二人による『爆音カラオケLIVE』が開幕!
まずは天宮ミルクが可愛らしいオリジナルソングを弾ける笑顔で熱唱し、部室は一瞬でライブ会場へ!
「続いてはヒューガさんです! 魂の熱唱、いってみましょう〜!」
「……覚悟を決めるしかねぇか……! いくぞ天宮ぁぁぁ!!」
マイクを握り締め、サングラスを跳ね上げた駆が、高音のハイトーンボイスで本格的なロックアニソンを圧巻の歌唱力で熱唱! 完璧な音程と持ち前の熱量に、部室の防音壁が震える!
「……す、すごいですヒューガさん!! めちゃくちゃ格好良すぎます〜!!」
「フッ……歌いきってやったぜ……!(※ドヤ顔)」
二人の圧倒的な歌唱とギャップに、同接190万人のリスナーから「ヒューガ歌上手すぎてギャップ萌え死ぬ」「V界トップクラスの歌唱力」「最高のライブ配信」「神回確定」とスパチャの雨が怒濤のように降り注ぎ、爆音カラオケ配信は大熱狂のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。機材の電源を落とし、防音室の静寂が戻った夜の部室。
レザージャケットを脱ぎ、温かい缶コーヒーを飲みながら喉を潤す駆。
「……ハぁ……。叫びすぎて喉がカラカラだ……だが、たまには大声で思いっきり歌うのも……悪くねぇな」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でマイクを片付け、冷えた缶のいちごミルクを美味しそうに飲むみずきが、目を輝かせて駆の横顔を見つめる。
「日向くんがマイクを握って歌う姿、本当に本当にかっこ良くて……ミルク、胸がキュンってしちゃいました!」
駆は一口コーヒーを流し込み、自分の喉を指で触りながら、照れくさそうに顔を真っ赤にして横へ背けた。
「……ッ、か、格好良くねぇよ。……お前が横でノリノリで歌ってたから釣られただけだっつの」
みずきは嬉しそうに目を細めると、ライブ会場の照明よりも眩しい飛び切りの笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんの歌声は、ミルクにとって世界で一番大好きなナンバーワンソングです!」
「へいへい。……で、爆音カラオケも大成功したし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『大熱唱のあとは大宇宙! 部室をプラネタリウムにして特大キャベツ座を探すロマン星空鑑賞配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「存在しない『キャベツ座』を探すんじゃない!!!! 宇宙の法則を折り曲げるな!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
完全防音の熱唱LIVEを乗り越え、次なる宇宙のロマン(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




