八十六話
「札を取るたびにキャベツが飛び散るわ!」という駆の至極当たり前な一言から一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、雅な和楽器の調べとともに、どこか高級料亭のような格式高い生配信がスタートしていた。
タイトル:『【知性派】キャベツはお休み!? 秋の旬の味覚かるた&特製絶品松茸ご飯で風流雑談!』
サーカスのアクロバットから一転、まさかの風流な秋の味覚&競技かるた企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「まさかのキャベツ封印!?」「急に秋の味覚フェア始まって草」「ヒューガの袴姿イケメンすぎる」「たまには普通の食レポが見たいww」と大歓喜し、開始数分で同接数は135万人を軽々と突破していた。
【秋の味覚かるたきたあああ!】
【部室に畳マットと本格的なかるた札が並んでて草】
【松茸の香りが画面越しに漂ってくるんだが】
【ヒューガの黒紋付袴たすかる】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の中に敷き詰められた琉球畳のマットと、中央に並べられた特製かるた。黒紋付袴をビシッと着こなしたヒューガと、紅葉柄の艶やかな振袖姿の天宮ミルク(3D)が静かに座っている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。本日は天宮さんから『いつもキャベツばかりだから、今日はリスナーのみんなに秋の全国の絶品味覚を教える!』という奇跡のような提案があり、キャベツは完全封印です。目の前に『丹波の松茸』『新米コシヒカリ』『種なし巨峰』『旬の戻りカツオ』が並んでいます。奇跡的に平和です。助けてください」
「こんミルク〜! 秋の味覚の美味しさを世界に届ける風流V・天宮ミルクです〜!」
「本当にキャベツが一分一厘も映ってないのが逆に怖いわ!! なんでこんなに豪華なんだよ!! 予算どうなってんだ!! あと俺の袴姿をまじまじ見るな!! 恥ずかしいだろ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のキャベツ完全封印ツッコミ】
【予算の出処が謎すぎるww】
【黒紋付袴のヒューガてぇてぇ】
そこへ、秋の味覚の栄養素と風流さを評価すべく、Discord経由で仲間たちが雅に通信を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、その丹波産松茸に含まれるグアニル酸と新米の相乗効果は、脳の幸せホルモンを通常の320%分泌させます』
「めちゃくちゃまともな美味しさのデータ出してきたな!! 確かに匂いだけでヨダレが出てくるわ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が魔界の秋の味覚『漆黒の巨峰(※ただの高級ぶどう)』の輝きを!』
「ただの巨峰を魔界の果実みたいに言うな!! 甘くてジューシーで美味すぎるんだよ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの競技かるた解析データにより、かるたで札を確実に取る秘策が判明しました!「札を取った瞬間に『秋味!!』と絶叫して相手の鼓膜を威嚇する」です!』
「威嚇で札取るな!! 風流さが台無しだろ!!」
【幸せホルモン320%ww】
【ただの高級巨峰草ww】
【絶叫『秋味!!』で威嚇するなww】
【同接破竹の165万人突破!】
仲間たちの歓談を挟みつつ、二人は秋の味覚の絵札を使った「秋味かるた」を開始!
「……『よ』! 【芳醇な 香りを放つ 丹波栗】!」
読まれた瞬間に、素早い手さばきで「はいっ!」と札を弾き飛ばす駆!
「速いですヒューガさん! サムライみたいです〜!」
「フッ、これくらいお安い御用だ。……で、取った札の食べ物が食べられるルールだったな?」
札を取るたびに、ホクホクの丹波栗、脂の乗った戻りカツオのタタキ、そして炊きたての松茸ご飯を美味しそうに頬張る二人。
「……う、美味すぎる……!! 米の一粒一粒に松茸の出汁が染み込んでて、栗は甘くてホクホクだし、カツオは口の中でとろける……! キャベツもいいけど、やっぱり日本の秋の食材って最高だな……!」
「ふふふ、そうでしょう〜! 旬の美味しさは、心も体もぜんぶ幸せにしてくれるんです〜!」
キャベツの爆走ノリを封印し、純粋に秋の味覚の素晴らしさと雅なかるた勝負を楽しむ二人の姿に、同接185万人のリスナーから「飯テロすぎる」「食レポ神回」「キャベツなくても最高に面白い」「ヒューガの食いっぷり好き」とスパチャの雨が降り注ぎ、秋の味覚配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。畳を片付け、静かになった夕暮れの部室。
袴の帯を緩め、温かいお茶を飲みながらホッと息をつく駆。
「……ハぁ……。美味かったな……。たまにはこうやって、いろんな季節の味覚を楽しむのも……本当に最高だな」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で振袖の袖を少し折り返しながら、冷たい缶のいちごミルクを飲んでいたみずきが、愛おしそうに駆の顔を見つめる。
「日向くんが『美味い!』って目を輝かせて食べてくれたのが、ミルク一番嬉しかったです!」
駆はお茶を一口流し込み、照れくさそうに首の後ろを掻きながら、心底満足そうに柔らかく笑った。
「……たく。お前が変な暴走しないで、美味しいものを準備してくれたおかげだ。……ごちそうさま」
みずきは嬉しそうに目を細めると、夕陽よりも温かい飛び切りの笑顔を咲かせた。
「はいっ! キャベツも美味しいけれど、世界中には美味しいものがもっともっといっぱいありますから! これからも日向くんと一緒に、いろんな『美味しい』を見つけたいです!」
「へいへい。……で、最高に美味しかった秋の味覚会も終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『秋の味覚のあとは秋の運動会! 部室で100個の巨大柿を転がす爆走キャベツ(?)大玉転がしレース配信』です!」
駆は夕暮れのキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「柿とキャベツを混ぜて転がすんじゃない!!!! 潰れて部室が果汁まみれになるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
橙色の夕空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。
秋の味覚を心ゆくまで堪能し、次なる秋の運動会(?)の暴走へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




