八十五話
「バランス崩して壁に大穴が開くわ!」という駆の至極当たり前な悲鳴がキャンパスにこだましてから一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、陽気でクラシカルなサーカスBGMとともに、賑やかすぎる生配信がスタートしていた。
タイトル:『【世界最高峰(?)】部室がサーカス小屋に!? 一輪車×キャベツ5個お手玉の超絶神業に挑む!』
前回のまったり部室キャンプから一転、まさかの体当たり大道芸企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「一輪車は壁どころか人間が物理的に崩壊するww」「壁の補強シート貼られてて草」「ヒューガの団長衣装たすかる」と大盛り上がりで集結し、開始数分で同接数は130万人を軽々と突破していた。
【部室サーカス開演きたあああ!】
【壁一面に衝突防止用の厚手マット完備で草】
【※特別な訓練(?)を受けて撮影しています】
【ヒューガのシルクハット&シルク衣装かっこよすぎ】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、壁全体に極厚の衝撃吸収マットが敷き詰められた部室。赤と金の豪華なサーカス団長風衣装を着たヒューガと、ピエロ風のカチューシャをつけた天宮ミルク(3D)が立っていた。傍らには一輪車と、手のひらサイズのミニキャベツが5個転がっている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の俺の激怒を受け、天宮さんが部室の壁全体に衝撃吸収マットを貼り巡らせました。壁に穴は開きません。……ですが、俺が一輪車に乗る練習をさせられています。足がプルプル震えています。助けてください」
「こんミルク〜! 奇跡の大道芸でみんなに笑顔を届ける『天宮サーカス団』の団長代理です〜!」
「勝手に団長代理を名乗るな!! なんで俺が団長衣装で一輪車に跨がりながらキャベツお手玉をしなきゃいけないんだよ!! 運動神経の限界に挑ませるんじゃない!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の衝撃吸収マットツッコミ】
【足プルプルヒューガ草ww】
【キャベツ5個お手玉のハードルが高すぎる】
そこへ、技の成功率を物理的に試算すべく、Discord経由で仲間たちが実況解説者として次々と参戦してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、一輪車上で体幹を保ちつつ5個のミニキャベツをジャグリングする場合、成功率は0.004%です』
「0%に等しい数値をドヤ顔で提示するな!! 絶対失敗する計算だろそれ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が魔導サーカスの真骨頂『火の輪くぐり』を用意してやったぞ!(※フラフープに赤い折り紙を貼ったもの)』
「紙の火の輪を持ち込むな魔王!! ショーのチープさが跳ね上がるだろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのジャグリング解析データにより、一輪車の上で倒れない秘策が判明しました!「落ちそうになった瞬間に『サーカス最高!!』と叫んで重心を物理で戻す」です!』
「絶叫で物理法則がねじ曲がるわけねぇだろ!! 気合で重心は戻らないんだよ!!」
【成功率0.004%ww】
【紙の火の輪草ww】
【絶叫で物理法則を捻曲げる秘術】
【同接破竹の160万人突破!】
仲間たちのカオスな歓声に背を押され(?)意を決して一輪車に飛び乗り、見事な体幹でバランスを取る駆!
「おおおお……立ち上がった! ヒューガさんすごいです〜! ほら、キャベツ投げますよ〜!」
「待て天宮一気に5個投げるな――うおっ!? っととと!!」
飛んできたミニキャベツを瞬時に空中でお手玉し始める駆! 一輪車のタイヤがキコキコと音を立て、キャベツが美しいアーチを描く!
しかし、4個目のキャベツをキャッチした瞬間、バランスを崩して壁の衝撃吸収マットへダイブ!
ドスン! という重厚な音とともに、壁のマットにふかふかと埋もれる駆。
「……ふぅ……マットのおかげで無傷だが……惜しかったな……」
「ヒューガさん! 3個目まで完璧でした! まるでプロのサーカス団員です〜!」
最後は二人でお辞儀をし、同接180万人のスパチャの雨と「リアクション最高」「ヒューガの体幹凄すぎる」「最高のサーカス回」という大絶賛のコメント欄に包まれ、部室サーカス配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。衝撃吸収マットを片付け、汗を拭う夜の部室。
シルクハットを脱ぎ、温かい缶コーヒーを飲みながら深く息をつく駆。
「……ハぁ……。一輪車でお手玉なんて、二度とやらんぞ……全身の筋肉がバキバキだ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でピエロのカチューシャを外し、冷えた缶のいちごミルクを両手で持って笑いかけるみずき。
「でも、日向くんが一輪車の上でピシッとポーズを決めた瞬間、すっごく格好良くてドキドキしちゃいました!」
駆は一口コーヒーを流し込み、照れくさそうに首の後ろを掻きながら顔を横へ背けた。
「……ッ、格好良くねぇよ。マットに突っ込んで終わっただろ。……まあ、お前が満足したならそれでいいけどよ」
みずきは嬉しそうに目を細めると、太陽のような飛び切りの笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、部室の小さなステージも世界一のグランドスラムです!」
「へいへい。……で、アクロバットサーカスも終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『体を張ったあとは知性派! 部室で特大百人一首大会を開催してキャベツカルタで爆走バトル配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「カルタの札をキャベツにするんじゃない!!!! 札を取るたびにキャベツが飛び散って部屋が悲惨なことになるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。
部室サーカスを完走し、次なる伝統カルタ(?)の暴走へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




