八十四話
「部室が虫の王国になるわ!」という駆の至極全当な絶叫が静けさに溶けてから一夜。
翌日の17時。天宮ミルクのチャンネルでは、なぜかパチパチと薪が燃える音と鳥のさえずりが響き渡る、超本格的な大自然生配信がスタートしていた。
タイトル:『【部室激変】部室の中にリアルな芝生!? 100種の人工昆虫と楽しむまったり室内インドアキャンプ!』
深夜の百物語から一転、まさかの部室全面緑化キャンプ企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「また部室の床が酷い目にあってるww」「本物の虫じゃなくて人工昆虫で安心した」「ヒューガのキャンプ服かっこよすぎ」と大盛り上がりで集結し、開始数分で同接数は125万人を軽々と突破していた。
【部室キャンプきたあああ!】
【床一面にロール人工芝が綺麗に敷かれてて草】
【※虫はすべて精密なリアル昆虫フィギュアです(概要欄記載)】
【ヒューガのアウトドアコーデてぇてぇ】
――17時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、隙間なくクッション付きの人工芝シートが敷き詰められた部室。中央には可愛らしいワンタッチテントと、LEDの擬似焚き火台がセットされている。マウンテンパーカー姿のヒューガと、可愛らしいサロペットとバケットハットを被った天宮ミルク(3D)が芝生の上に正座していた。
「……みなさんこんにちは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の俺の悲鳴を受け、本物の土や虫ではなく『最高級リアル人工芝』と『ガチャガチャのリアル昆虫フィギュア』による完全室内仕様キャンプとなりました。虫に刺される心配も土汚れもありません。……が、なんで部室の中にテントが張られてんだよ。助けてください」
「こんミルク〜! 部室で大自然の風を感じる『インドアキャンパー天宮』です〜!」
「大自然の風じゃなくてエアコンの送風だろ!! なんで部室の中でマシュマロ焼き始めようとしてんだよ!! あと人工芝の隙間にリアルなカブトムシのフィギュアを100個隠すな!! 踏んだら足裏が激痛なんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の完全室内仕様ツッコミ】
【人工芝を踏むと痛いカブトムシww】
【エアコンの送風=大自然の風】
そこへ、キャンプの生存戦略(?)を伝授すべく、Discord経由で仲間たちが野外通信風に接続してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、LED擬似焚き火のゆらぎ効果(1/fゆらぎ)により、ヒューガさんの脳波からα波が分泌され、ストレスが73.2%軽減されます』
「ゆらぎ効果はありがたいけど足元の人工昆虫を踏むたびにストレスが100%増加して相殺されるわ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……野に放たれし我が暗黒の魔獣(※ラジコンの巨大クワガタ)の脅威を味わうがいい!』
「人工芝の上でラジコンクワガタ走らせるな魔王!! テントのポールに激突して倒れるだろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのキャンプ飯解析データにより、最も映えるアウトドア料理が判明しました!「丸ごとキャベツの中にマシュマロとチーズを詰めて焚き火で焼く」です!』
「甘いのか塩辛いのかどっちかにしろ!! 謎の融合スイーツで胃を壊させるんじゃない!!」
【ストロース増加のカブトムシww】
【ラジコンクワガタ暴走草ww】
【マシュマロキャベツチーズ焼きww】
【同接破竹の155万人突破!】
仲間たちのカオスな口出しを受けつつも、LED擬似焚き火の前でゆっくりと温かいホットサンドとキャベツスープを作る二人。
「……あ、これ……外はカリッとしてて、中はキャベツととろけるチーズでめちゃくちゃ美味いな」
「ふふふ〜! 室内キャンプでも、こうやってみんなで囲んで食べると特別な味がしますよね〜!」
締めにはテントの中でランタンを灯し、まったりとランタンの灯りに包まれながらリスナーからのマシュマロ(質問)に答える癒やしの時間。
同接175万人のリスナーから「最高の癒やし回」「部室キャンプ楽しそう」「ヒューガとミルクの距離感てぇてぇ」「神回確定」とスパチャの雨が降り注ぎ、部室ソロキャンプ配信は大成功のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。テントを折りたたみ、人工芝の上で仰向けに寝転ぶ夜の部室。
ランタンの優しい明かりを見つめながら、温かい缶コーヒーを飲む駆。
「……ハぁ……。外に出なくても、部室の中でキャンプってのは……思いのほか心が落ち着くもんだな……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でバケットハットを脱ぎ、自分の膝を抱えながらみずきが愛おしそうに駆の横顔を見つめる。
「日向くんがテントの中でほっと一息ついた顔、すっごく好きです。……部室が、本当の秘密基地みたいでしたね!」
駆は一口コーヒーを流し込み、人工芝を手のひらで撫でながら、照れくさそうに柔らかく笑った。
「……たく。秘密基地なんて歳でもねぇよ。……まあ、お前とこうやって静かに喋る時間も……悪くはねぇけどな」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それからパッと太陽のような飛び切りの笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、部室の床がどこだって世界一素敵なキャンピングカーです!」
「へいへい。……で、部室キャンプも終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『静寂のあとはド迫力! 部室をサーカス小屋にして一輪車に乗りながらキャベツお手玉をする超絶アクロバット配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「部室の中で一輪車に乗るんじゃない!!!! バランス崩して壁に大穴が開くわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
部室の大自然を満喫し、次なる体当たりアクロバット(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




