八十三話
「暗闇で火気を使うな火災報知器が!!」という駆の魂の説教もむなしく、翌日の深夜23時。
天宮ミルクのチャンネルでは、画面全体が漆黒と怪しい青い光に包まれた、本格的なホラー生配信がスタートしていた。
タイトル:『【深夜の恐怖】部室で100本のローソク(※LED)を灯す! 恐怖のキャベツ百物語耐久!』
伝統の餅つき大会からのまさかの深夜オカルトホラー企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「火気厳禁を守ってLEDローソクにしてて草」「ヒューガのビビリ顔が見れるぞ」「深夜枠たすかる」と大興奮し、開始わずか数分で同接数は125万人を軽々と突破していた。
【百物語きたあああ!】
【LEDローソク100個の青い光がガチで怪しいww】
【※火災報知器対策完璧です(安全)】
【ヒューガの浴衣姿(黒)てぇてぇ】
――23時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、真っ暗な部室の床に円状に並べられた100個の怪しく光る青いLEDローソク。黒い涼しげな浴衣を着たヒューガと、白い着物に三角頭巾(※幽霊コスプレ)をつけた天宮ミルク(3D)が正座している。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……現在深夜23時。ご覧の通り、火災報知器に配慮して全全全100個のLEDローソクを用意しました。火気は一切使っていません。……ですが、部屋が暗すぎて不気味です。天宮さんの幽霊コスプレが絶妙に怖いです。助けてください」
「こんミルク〜! 100個の怪談を語って『V界一のホラークイーン』を目指す、うらめしミルクです〜にめ〜!」
「『うらめし』と『こんミルク』を混ぜるな!! あと深夜の部室で怪談話なんかしたら本当に変な怪異が寄ってくるだろ!! なんで俺まで黒浴衣着せられて真顔で正座させられてんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のLEDローソク&安全対策ツッコミ】
【うらめしミルク草ww】
【黒浴衣ヒューガのイケメン度無駄に高い】
そこへ、暗闇の怪異現象(?)を科学的・魔術的に検証すべく、Discord経由で仲間たちが怪しい声で通信を入れてくる。
黒羽レン『……(低音)ヒューガさん、僕の計算によれば、怪談を1話語るごとに部室内の室温が0.3度下がり、100話目には氷点下となります』
「エアコンの自動制御で室温を極寒にする設定を勝手に組み込むな!! 恐怖じゃなくて物理的な寒さで凍えるわ!!」
鳳凰院カグラ『……クックック……闇の夜よ! 我が封印せし『暗黒の怪異』をこの通話越しに解き放ってやろう!(※背後でラップ音が鳴る効果音ボタンを連打)』
「効果音アプリでラップ音を連打するな魔王!! 演出がチープすぎて1ミリも怖くないんだよ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIのホラー撃退データにより、幽霊を一瞬で成仏させる最強の呪文が判明しました!「霊に向かって『キャベツ太郎を食え!』と絶叫する」です!』
「成仏どころか霊も『は?』って困惑するわ!! 駄菓子で霊道が開けるか!!」
【室温低下の物理攻撃ww】
【ラップ音連打する魔王草ww】
【成仏呪文『キャベツ太郎を食え!』ww】
【同接破竹の150万人突破!】
仲間たちのカオスなアシスト(?)で怖さが半減する中、順調に怪談(※なぜか全部キャベツがオチに関係するシュールな話)を語り、LEDローソクを1個ずつ消していく二人。
「……そして、深夜のキッチンで冷蔵庫を開けると……そこには、切っていないキャベツが……ずっしりと鎮座していたのです……!」
「……で、オチは!?」
「……美味しかったです〜!」
「ただの深夜の夜食の思い出話じゃねえか!! どこがホラーなんだよ!!」
そんなコントのような百物語が続き、ついに100個目のローソクを消したその瞬間――!
ガタタッ!! と窓の外で大きな影が揺れた!
「きゃぁぁぁぁっ!? ひ、ヒューガさん! 本当にで、でたぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁッ!? な、なんだ!?」
暗闇の中でパニックになり、互いに抱きつき合うふたり! ……しかし、懐中電灯で窓の外を照らすと、そこにいたのは……夜間巡回中の大学の警備員さん(※手元にキャベツの差し入れ付き)。
「「……警備員さん!?」」
「深夜に怪しい青い光が漏れてたから見に来たよ〜」というオチに、同接175万人のリスナーは大爆笑。「神オチすぎるww」「抱きついたふたりてぇてぇ」「最高のホラー(ギャグ)回」というスパチャの雨が降り注ぎ、深夜の百物語配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。照明を点け、部屋を片付けた深夜1時過ぎの部室。
浴衣の襟元を緩め、温かい缶コーヒーを飲みながらホッと息をつく駆。
「……ハぁ……。警備員さんの影が見えた瞬間、マジで心臓が口から飛び出るかと思ったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で幽霊の三角頭巾を外し、冷えた缶のいちごミルクを両手で持ってみずきが申し訳なさそうに、でも愛おしそうに微笑む。
「でも、怖かった時、日向くんが真っ先にミルクをかばって抱きしめてくれたの……すっごく嬉しかったです」
駆は一口コーヒーを流し込み、自分の腕を見つめてから、耳まで真っ赤にして顔を横へ背けた。
「……ッ、か、かばったわけじゃねぇよ!! とっさに腕が引っかかっただけだっつの!! ……たく、心臓に悪い企画ばっかりやりやがって」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それからパッと夜空を照らすような温かい笑顔を咲かせた。
「えへへ、日向くんの温かい腕、世界で一番安全なバリアでした! 一緒に百物語できて、すっごく楽しかったです!」
駆は照れくさそうに首の後ろを掻き、小さく溜息をつきながら柔らかく笑った。
「……へいへい。お前が無事ならそれでいいよ。……で、恐怖の百物語も終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『深夜の恐怖のあとは大自然! 部室を全面芝生化して100種の昆虫と触れ合うまったりソロキャンプ(?)配信』です!」
駆は静まり返った深夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「部室の床に土と芝生を敷き詰めるんじゃない!!!! 虫を放し飼いにしたら部室が虫の王国になるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
暗闇の恐怖(?)を乗り越え、次なる部室大自然化(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




