八十一話
「海外送料で破産するわ!」という駆の悲痛な悲鳴が夜空に消えてから一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、画面の端々に世界各国の国旗が舞う、グローバル(?)な雰囲気の生配信がスタートしていた。
タイトル:『【世界進出】部室が輸入倉庫に!? 海外から取り寄せた激レア「世界のキャベツ」を食べ尽くす!』
80話の祝宴から一転、まさかのワールドワイドな食レポ企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「破産ルート回避したのかww」「海外通販のガチ勢」「関税で引っかかってなさそうで安心」「ヒューガの英文読解力に期待」と大盛り上がりで集結し、開始数分で同接数は130万人を軽々と突破していた。
【世界のキャベツきたあああ!】
【部室の後ろに見たことない木箱が積まれてて草】
【※関税および植物検疫は正規に通過済みです】
【ヒューガの探検家衣装てぇてぇ】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の中央に積まれた英語やドイツ語が書かれた大量の段ボールと木箱。探検家風のサファリハットをかぶったヒューガと、双眼鏡を首から下げた天宮ミルク(3D)が画面前に立っている。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の宣言通り、世界の珍しいキャベツが届きました。植物検疫と関税の手続きで昨夜は徹夜でした。俺のクレジットカードの利用可能枠が瀕死です。助けてください」
「こんミルク〜! 世界のキャベツを味わい尽くして『グローバルキャベツV』を目指す天宮ミルクです〜!」
「カードの請求額を見て青ざめた俺のメンタルもケアしろ!! なんでヨーロッパから巨大なサヴォイキャベツ(縮みキャベツ)とか、紫色の三角キャベツが送られてきてんだよ!! 食材のスケールが違いすぎるだろ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のカード利用枠瀕死ツッコミ】
【検疫手続きで徹夜するヒューガ草ww】
【紫の三角キャベツの圧倒的存在感】
そこへ、海外の珍品キャベツの成分を分析すべく、Discord経由で仲間たちが次々と参戦してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、そのフランス産サヴォイキャベツのビタミンC含有量は国産の1.4倍です。煮込み料理にすると旨味成分が120%引き出されます』
「めちゃくちゃ美味そうな調理法のアドバイス助かる!! でも今は生配信でそのまま実食レビューする流れなんだよ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……世界のキャベツだと……!? 我が暗黒の魔眼で見破ってやろう! その紫キャベツは、食べると魔力が2倍になる伝説の『赤紫の毒胞子』だ!(※ただの新鮮な野菜)』
「毒胞子って言うな!! 視聴者が食中毒を心配するだろ!! ただのポリフェノール豊富な紫キャベツだよ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの海外キャベツ食レポデータにより、世界中で大バズりする決め台詞が判明しました!「一口食べた瞬間に『メルシー! キャベツ!!』とフランス語で叫ぶ」です!』
「フランス以外の国のキャベツの時どうすんだよ!! どこ産でもメルシーで押し通す気か!!」
【ビタミンC1.4倍ww】
【毒胞子呼ばわりされる紫キャベツww】
【全部『メルシー! キャベツ!!』で乗り切る秘術】
【同接破竹の155万人突破!】
仲間たちのカオスな口出しを受けながらも、みずきが手際よく切り分けたドイツ産の超巨大キャベツやフランス産のキャベツを、特製の塩とマヨネーズで実食していく二人。
「……ん! 味覚が濃くて、加熱するとめちゃくちゃ甘みが引き立つな……! うまいぞこれ!」
「わぁ〜! 日向くん、すっごく美味しそうに食べますね! ほら、このオランダ産の丸ごとキャベツも『メルシー!』ですよ!」
「だからオランダ産でメルシー(フランス語)を使うんじゃない!! ……でもマジで美味いなこれ」
世界のキャベツの美味さに感動しつつ、最後は二人で特製キャベツスープを作って完食。
同接175万人のリスナーから「食レポ上手すぎる」「海外のキャベツ食べたくなった」「神回」「クレジットカードの心配スパチャ送っとくww」と大量のスパチャが降り注ぎ、グローバル配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。空になった段ボールを畳み、静かになった夜の部室。
サファリハットを脱ぎ、温かい缶コーヒーを飲みながらホッと一息つく駆。
「……ハぁ……。カードの請求額を見た時は血の気が引いたが……まあ、世界には面白い野菜があるんだな……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で双眼鏡を外し、冷えた缶のいちごミルクを美味しそうに飲むみずきが、愛おしそうに駆の横顔を見つめる。
「日向くんが美味しそうに『うまい』って食べてくれたから、ミルク、カードのことも吹っ飛ぶくらい嬉しかったです!」
「カードの請求は吹っ飛ばすな!! 俺の口座から引き落とされるんだぞ!!」
駆のツッコミに、みずきはくすくすと可愛らしく笑い、それから夕陽のように温かい笑顔を咲かせた。
「えへへ、ちゃんとミルクのお小遣いから半分出しますから安心してください! 日向くんと一緒に世界を感じられて、すっごく楽しかったです!」
駆は一口コーヒーを流し込み、照れくさそうに顔を横へ背けた。
「……たく。お小遣いでおごってもらう形にするなよ。……まあ、たまにはこういう世界各国の味覚を試すのも……悪くはなかったけどな」
みずきは嬉しそうに目を細めると、パッと太陽のような笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、地球のどこにいたって最高に美味しい大冒険です!」
「へいへい。……で、世界のキャベツも味わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『世界の味覚のあとは日本の伝統! 部室で特大杵と臼を使って100回連続キャベツ餅つき配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「部室の床で重い臼をつくな!!!! 床が抜け落ちて下のフロアの教授に激突するわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。
世界の味覚を攻略し、次なる日本の伝統(?)の暴走へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




