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八十話

「火災報知器が鳴って今度こそ大学を叩き出されるわ!」という駆の魂の絶叫が夕空に響き渡ってから一夜。

記念すべき第80話の19時。天宮ミルクのチャンネルでは、部室の中とは思えない香ばしいゴマ油の香りと共に、熱気あふれる生配信がスタートしていた。

タイトル:『【祝・80話】火力全開! 部室で100人前の中華鍋を振り回す超高火力パラダイス炒飯配信!』

前回の「屋上ロマン飛行」から一転、まさかの本格中華爆走企画。節目の80話を見届けようと、チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちが押し寄せ、開始わずか数分で同接数は130万人を軽々と突破していた。

【80話おめでとうううう!】

【部室に業務用中華バーナーが置かれてて草】

【消防法に全力で挑むVTuber】

【ヒューガの料理人姿かっこよすぎ】

――19時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、厳重に防火シートが敷き詰められた部室中央。そこには巨大な業務用プロパンガスバーナーと、大人ひとりがすっぽり入るほどの超巨大中華鍋が鎮座している。

白のコック服姿のヒューガと、チャイナドレス姿で巨大なおたまを構えた天宮ミルク(3D)が立っていた。

「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……祝・第80話。いつも応援ありがとうございます。……で、画面をご覧ください。天宮さんが『80話の祝宴だから!』とどこからか借りてきた巨大中華鍋と高火力バーナーです。大学の防災課から『火気使用一時許可証』を正式に取得しました。消防署への届出も完了しています。助けてください」

「こんミルク〜! 80話の感謝を込めて『世界一パラパラな極上キャベツ炒飯』を作ろうとしている天宮ミルクです〜!」

「書類手続きの手際だけがプロ級になっていくんだよ!! なんで俺まで中華の料理人みたいな格好させられてんだよ!! この巨大中華鍋、米とキャベツ入れたら総重量15キロ超えるだろ!! 腕の筋肉が千切れるわ!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒の消防署届出済みツッコミ】

【書類手続きのプロVww】

【総重量15キロの中華鍋振りww】

そこへ、80話の節目を祝うべく、Discord経由で仲間たちが一斉に通信接続してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、80話おめでとうございます。僕の熱力学計算によれば、そのバーナーの火力を最大にすると、米粒内部の水蒸気圧が急上昇し、炒飯が部室の天井に跳ね飛ぶ確率が91.8%です』

「天井に米粒を打ち上げるな!! どんな花火大会だよ!! 80話の祝賀でお掃除大変にするんじゃない!!」

鳳凰院カグラ『クックック……80話の祝宴か! 我が暗黒の紅蓮炎『黒炎陣』で炒飯に極限の香ばしさを加えてやろう!(※ドライヤーの温風音)』

「ドライヤーで米粒を吹き飛ばすな魔王!! 風圧でパラパラどころか散乱するだろ!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの中華料理解析データにより、炒飯を世界一美味しくする隠し味が判明しました!「鍋を振る瞬間に『シェイシェイ!』と絶叫してスパイスにする」です!』

「絶叫は隠し味にならねぇんだよ!! 単なる騒音被害だわ!!」

【天井に打ち上がる炒飯ww】

【ドライヤーで散乱する米草ww】

【隠し味=シェイシェイ絶叫ww】

【同接破竹の155万人突破!】

仲間たちの暴走を全力でさばきつつ、白米、卵、そして細かく刻んだ特製キャベツを投入し、腕の全筋力を振り絞って巨大中華鍋を煽る駆!

「ぬぁぁぁぁぁっ!! 飛べ米粒!! 混ざれキャベツ!! シェイシェイ!!!(※やけくそ)」

「すごいですヒューガさん! 米粒とキャベツが金色の龍みたいに空を舞っています〜!」

強火の炎と絶妙なキャベツの食感が合わさり、部室中に香ばしい最高の香りが充満。

皿に山盛り装われた『80話記念・特製キャベツパラダイス炒飯』を、駆けつけた他サークルの学生たちと一緒に完食!

同接180万人のリスナーから「80話おめでとう!」「美味しそうすぎる」「V界最高の料理回」「ヒューガの中華鍋捌き神」とスパチャの雨が降り注ぎ、記念配信は大熱狂のうちに幕を閉じたのだった。

――配信終了後。片付けが終わり、すっかり静かになった夜の部室。

コック服の胸元を緩め、腕の痛みを摩りながら温かい缶コーヒーを飲む駆。

「……ハぁ……。80話目にして、人生で一番腕の筋肉を使ったぞ……」

「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」

隣でチャイナドレスのまま、温かい缶のいちごミルクを飲んでいたみずきが、愛おしそうに駆の横顔を見つめて微笑む。

「でも、日向くんが振ってくれた炒飯、世界で一番美味しかったです! 80話まで一緒に来られて、ミルク本当に幸せです!」

駆は一口コーヒーを流し込み、照れくさそうに首の後ろを掻きながら、小さく、でも心底嬉しそうに笑った。

「……たく。お前が無茶な企画ばっかり持ち込むから、付き合うこっちの身にもなってみろってんだ。……まあ、炒飯が美味かったから許してやるけどな」

みずきは嬉しそうに目を細めると、太陽のような飛び切りの笑顔を弾けさせた。

「はいっ! 100話でも1000話でも、日向くんと作る炒飯も配信も全部が世界一の宝物です!」

「へいへい。……で、80話の祝宴も終わったし、明日は何やる気だ?」

みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。

「明日は『80話の次は世界進出! 部室に超巨大世界地図を広げて全世界の珍しいキャベツをネットで買い漁る爆買い配信』です!」

駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。

「部室を輸入業者の倉庫にするんじゃない!!!! 海外送料で破産するわ!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。

80話を越えて、どこまでも加速していく賑やかで愛おしい青春。

世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、最高の笑顔と共に、どこまでも未来へ続いていく。

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