七十九話
「飛ばした紙飛行機が教授の頭に直撃したら停学になるわ!」という駆の至極全当な説教が夜空に轟いてから一夜。
翌日の16時。天宮ミルクのチャンネルでは、突き抜けるような秋の青空の下から生配信がスタートしていた。
タイトル:『【ロマン飛行】部室から屋上へ!? 特大ダンボール紙飛行機で飛距離日本記録に挑戦!』
ドミノの極限集中から一転、まさかの屋外ダイナミック企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「立ち入り禁止の屋上どうしたww」「※特別な許可を得て撮影しています(お約束)」「ヒューガの停学回避策に期待」と大盛り上がりで集結し、開始数分で同接数は120万人を軽々と突破していた。
【屋上ロマン飛行きたあああ!】
【概要欄に『大学施設課の許可取得済み』って書いてあって草】
【紙飛行機が想像の3倍デカいんだがww】
【ヒューガのパイロット風ゴーグル姿てぇてぇ】
――16時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、大学の屋上広場。その中央には、翼長2メートルを超える巨大なダンボール製紙飛行機『キャベツウイング号』が鎮座している。パイロット風の革ジャンとゴーグルを装着したヒューガと、白いマフラーを首に巻きつけた天宮ミルク(3D)が風を感じながら立っていた。
「……みなさんこんにちは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。大学施設課に土下座……ではなく正当な書類手続きを行い、本日限定で屋上の使用許可を取りました。停学は回避されました。ですが、目の前に翼長2メートルのモンスター紙飛行機があります。風で煽られています。助けてください」
「こんミルク〜! 大空のロマンを求めて『紙飛行機・世界飛距離記録』を更新しようとしている天宮ミルクです〜!」
「書類審査を通した自分の交渉力を褒めたいわ!! なんで紙飛行機のサイズが軽自動車並みなんだよ!! これ投げる時に腰が砕けるだろ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の書類審査通過ツッコミ】
【翼長2メートルは紙飛行機の域を超えてるww】
【投げる時に腰が砕けるヒューガ】
そこへ、風速と弾道軌道を物理演算(?)すべく、Discord経由で仲間たちが次々と参戦してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、現在の南西の風3メートルに乗せて仰角15度で投擲した場合、飛距離は120メートルに達し、校庭の真ん中に着地します』
「校庭の真ん中に着地させるな!! 体育の授業中の学生に直撃したら大惨事だろ!!」
鳳凰院カグラ『クックック……大空を統べし者よ! 我が暗黒の疾風(※巨大団扇)で、さらなる揚力を与えてやろう!』
「屋上で巨大団扇を仰ぐな魔王!! 煽り風で投げる前の俺たちが吹き飛ばされるだろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの空気抵抗解析データにより、最も飛距離が伸びる秘策が判明しました!「先端に『重し』として小さく丸めたキャベツを1個詰める」です!』
「先端にキャベツ詰めたら紙飛行機じゃなくて投石器の弾になるわ!! 危険度跳ね上げるんじゃない!!」
【校庭着地ルート草ww】
【団扇で吹き飛ばされる二人ww】
【投石器の弾化はあかんww】
【同接破竹の150万人突破!】
仲間たちの暴走アドバイスをかわしつつ、二人は息を合わせて『キャベツウイング号』の両翼を抱える。
「いきますよヒューガさん! 1・2の3で投げます〜!」
「おう! 角度は水平だぞ! せーの……そらぁぁぁっ!!」
二人の全身全霊の投擲によって放たれた『キャベツウイング号』は、秋の心地よい上昇気流に乗り、優雅に大空へと舞い上がった!
「飛んだぁぁぁぁ!! 見てくださいヒューガさん! まるで鳥みたいです〜!」
「マジかよ……!? 想像以上にめちゃくちゃ綺麗に滑空して……おい待て、あっちの方向は……!?」
優雅に風に乗った紙飛行機が向かった先は――なんと、屋上で日向ぼっこをしていた学長特製の『キャベツプランター(試作品)』のど真ん中!
吸い寄せられるように、プランターの土へソフトランディング!
「「……学長のプランターに着陸した!?」」
「奇跡的な制度の命中率見せるな!! プランター破壊しなくて良かったけど心臓が止まるかと思ったわ!!」
165万人のリスナーから「奇跡の着陸ww」「神回避すぎる」「腹抱えて笑った」というスパチャの雨が降り注ぎ、ロマン飛行配信は大喝采のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。紙飛行機を回収し、夕陽が差し込む屋上のベンチ。
ゴーグルを首にかけ、冷えた缶コーヒーを飲みながらホッと一息つく駆。
「……ハぁ……。大空に投げる瞬間、人生で一番胃が縮み上がったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でマフラーを外し、冷たい缶のいちごミルクを美味しそうに飲むみずきが、嬉しそうに横顔を見つめる。
「でも、日向くんと一緒に投げた飛行機が空を飛んだ瞬間、すっごく胸がワクワクしました!」
駆は一口コーヒーを流し込み、橙色に染まる大空を見上げながら、照れくさそうに柔らかく笑った。
「……たく。無茶な工作ばっかり思いつきやがって。……まあ、青空を飛んでいく景色は……悪くはなかったけどな」
みずきは嬉しそうに目を細めると、夕陽よりも眩しい飛び切りの笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、紙飛行機だってどこまでも飛んでいけちゃいます!」
「へいへい。……で、屋上飛行も無事に終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『大空のあとは大宴会! 部室で100人前の中華鍋を振るう超高火力キャベツ炒飯爆走配信』です!」
駆は夕暮れのキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「部室で高火力のバーナー使うな!!!! 火災報知器が鳴って今度こそ大学を叩き出されるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
橙色の夕空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と快晴のような叫び。
大空のロマンを攻略し、次なる食の(高火力)暴走へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




