七十八話
「お前が途中でくしゃみして全倒壊する未来が見えるぞ!」という駆の預言のようなツッコミから一夜。
翌日の19時。天宮ミルクのチャンネルでは、前回の激流流しソーメンとはうって変わって、静まり返った部室からの生配信がスタートしていた。
タイトル:『【極限集中】1個も倒すな! 部室を埋め尽くす1000個のキャベツドミノ完成耐久バトル!』
激流スライダーからのまさかの超・極限静寂企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「寒暖差で風邪ひいた」「ドミノ=フラグでしかない」「ヒューガの胃痛回」と期待に胸を膨らませ、開始わずか数分で同接数は120万人を軽々と突破していた。
【ドミノ耐久きたあああ!】
【100個って言ってたのに1000個に増えてて草】
【床一面にカラフルなドミノが並んでる】
【※吐息ひとつで全滅する世界線】
――19時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の床一面に敷き詰められたキャベツのイラスト付き特製ドミノ牌。現在、800個目まで慎重に並べられている。息を殺して正座するヒューガと、ピンセットを手にブルブル震えている天宮ミルク(3D)が画面中央に並んでいる。
「……( whispering / 囁き声)みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の約束(100個)を大幅に裏切り、天宮さんが1000個のドミノを用意しました。現在850個目です。部屋のエアコンも切っています。俺の呼吸一つで全てが崩壊します。助けてください」
「……(囁き声)こんミルク〜! 1000個のキャベツドミノを成功させて『世界一集中力があるユニット』を目指す天宮ミルクです〜!」
「……(囁き声から我慢限界で小声ツッコミ)集中力を目指す前にそのブルブル震えてる手を止めろ!! ピンセットで牌を叩いたら一発で全全倒壊するだろ!! なんでこんなに息苦しい空間で2時間耐えなきゃいけないんだ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒の極小声ツッコミ】
【手震えまくってて草ww】
【エアコンOFFは過酷すぎる】
そこへ、過酷な静寂の極限状態を察した仲間たちが、Discord経由で(静寂を破る勢いで)囁き乱入してくる。
黒羽レン『……(極小声)ヒューガさん、僕の計算によれば、現在の室内湿度と空気抵抗により、921個目のコーナー部分でドミノが自然倒壊する確率が78.3%です』
「……(囁き声)不吉な予言を叩き出すな!! 921個目のコーナーは俺が慎重に置くから余計なプレッシャーをかけるんじゃない!!」
鳳凰院カグラ『……(低音ボイス)クックック……我が暗黒の咆哮でこのドミノを一瞬にして……(くしゃみの予感:ハックショイ!!!)』
「……(小声絶叫)回線切れ魔王!! 通話先でくしゃみすんな!! マイクの音声振動で牌がピクッて揺れただろ!!」
星空ルチア『……(囁き声)ヒューガ先輩! AIのドミノ成功データにより、絶対に倒れない秘術が判明しました!「1個並べるごとにキャベツの千切りを1むしゃむしゃ食べる」です!』
「……(囁き声)咀嚼音で集中力が途切れるわ!! 口の中の水分が奪われて喋れなくなるだろ!!」
【魔王のくしゃみ恐怖すぎるww】
【音声振動で揺れる牌ww】
【同接破竹の145万人突破!】
仲間たちの妨害(?)を乗り越え、ついに999個目まで到達。最後の1個(ゴール用の特大キャベツタルト型ドミノ)を置く大役は、天宮ミルクに託された。
「ひ、ヒューガさん……ミルクの手が……手が止まりません……!」
「落ち着け天宮! 息を止めて、ゆっくり……床に置くだけだ……!」
150万人のリスナーが息を飲んで見守る中、プルプルと震える手で最後の1個が置かれ――
カチャッ。
「「……できたあああああ!!!!」」
見事、1000個のドミノが完成! 歓喜の声をあげた天宮ミルクが、嬉しさのあまりピョンッと跳ね上がった。
その着地の振動が、床を伝わり――
カタタタタタタタタタッ!!!!
「あ。」
1000個のドミノが、完璧なピタゴラスイッチのような美しい音を立てて、ゴールに向かって怒濤の勢いで全倒壊! 最後の特大キャベツタルト牌が見事にパタンと倒れてフィニッシュ!
【奇跡の全倒壊きたあああ!!】
【跳躍の振動でスタートしたww】
【予定調和にして完璧なオチ】
【V界最高のドミノ動画誕生】
「……全倒壊した……けど……めちゃくちゃ綺麗なフィニッシュになったな……!?」
「やりましたヒューガさん! 『跳びはねスタート』大成功です〜!」
「跳びはねスタートじゃねえよ奇跡的にうまくいっただけだろ!!」
同接175万人のスパチャの嵐と「神回」「腹抱えて笑った」「最高のドミノ」という絶賛のコメント欄に包まれ、ドミノ配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。散らばったドミノを箱へ片付け、エアコンを点けて涼む夜の部室。
汗を拭い、冷えた缶コーヒーを飲みながら深くため息をつく駆。
「……ハぁ……。息を殺して1000個並べるの、精神的な体力が完全にゼロになったぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でドミノの箱を抱えたみずきが、冷たい缶のいちごミルクを駆の頬にポンと当てて微笑む。
「でも、最後の1個を置くとき、日向くんが優しく声をかけてくれたから成功しました!」
駆はコーヒーを一口流し込み、照れくさそうに顔を横へ背けた。
「……たく。お前の手が震えてたから声をかけただけだっつの。……まあ、最後の全倒壊は素直にスゴかったけどな」
みずきは嬉しそうに目を細めると、パッと太陽のような笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、倒れたドミノも全部が最高の輝きになっちゃいます!」
「へいへい。……で、極限ドミノも終わったし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『集中力のあとは究極の開放感! 部室で特製巨大紙飛行機を作って大学の屋上から飛ばすロマン飛行配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「大学の屋上は立入禁止なんだよ!!!! 飛ばした紙飛行機が教授の頭に直撃したら停学になるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
極限のドミノを乗り越え、次なる大空(?)のロマンへ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




