七十七話
「水浸しになってパソコンが壊れるわ!」という駆の至極全当な悲鳴が夜空に溶けてから一夜。
翌日の18時。天宮ミルクのチャンネルでは、部室の中とは思えない水のせせらぎ(※激流の音)が響き渡る生配信がスタートしていた。
タイトル:『【部室激流】水浸し覚悟!? 超巨大キャベツスライダーで爆速流しそうめん&キャベツキャッチ!』
頭脳戦のボドゲ回から一転、涼しげ(?)かつ破天荒な流しそうめん企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「部室に竹コース組むのはアカンww」「機材の防水対策大丈夫か!?」「夏の風物詩(※季節無視)」と大盛り上がりで集結し、開始数分で同接数は125万人を軽々と突破していた。
【部室スライダーきたあああ!】
【本当に竹のコースが部屋を一周してて草】
【機材全体にビニールシート被せられてるのガチすぎる】
【ヒューガのハッピ姿てぇてぇ】
――18時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、部室の四隅をぐるりと一周し、中央のデスクへ向かって高低差をつけられた巨大な竹製スライダー。精密機器には厳重に防水シートが被せられている。青いお祭りハッピを着たヒューガと、ねじり鉢巻きをしめた天宮ミルク(3D)が箸とザルを構えて立っていた。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。部室の中に竹のコースが敷設されました。天宮さんが『機材は防水シートで囲ったから大丈夫!』と胸を張っていますが、床には防水シートが敷かれていません。失敗したら床が水浸しです。助けてください」
「こんミルク〜! 激流を制して『キャベツスライダーマスター』を目指す天宮ミルクです〜!」
「床の心配をしろ床の!! なんで部室の中で清流のせせらぎが聞こえてんだよ!! あと流れてくるのがそうめんだけじゃなくて、たまにミニキャベツが丸ごと一玉流れてくる構造になってんのはなんでなんだよ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【開幕0秒のキャベツスライダーツッコミ】
【床の防水忘れるの詰んでて草ww】
【ミニキャベツ丸ごと流すなww】
そこへ、水流と落下速度の物理計算(?)を行うべく、Discord経由で仲間たちが次々と参戦してくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、僕の計算によれば、傾斜角15度の竹コースを流れる丸ごとミニキャベツの到達速度は時速22キロです。箸で受け止めようとすると指の骨が折れます』
「箸で球速22キロのキャベツを受け止められるわけねぇだろ!! 凶器を流すんじゃない!!」
鳳凰院カグラ『クックック……見よ! 我が召喚せし『暗黒の激流(※水道の蛇口全開)』の威力を! スライダーの流速を極限まで高めてやったぞ!』
「勝手に蛇口を全開にするな魔王!! コースから水が溢れて部室がプールになるだろ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの流しそうめん解析データにより、超高速キャベツを確実にキャッチする方法が判明しました!「コースのゴール地点でザルを持たずに直接口を開けて飛び込む」です!』
「顔面に時速22キロのキャベツが直撃して前歯が吹き飛ぶわ!! どんな命がけの食べ方だよ!!」
【時速22キロのキャベツww】
【蛇口全開でプール化草ww】
【前歯全滅のキャッチ法ww】
【同接破竹の150万人突破!】
「いきますよヒューガさん! 流しスタート〜!」というみずきの掛け声とともに、激流に乗ってそうめんとミニキャベツが爆速で流れてくる!
「おい待て速すぎる!! そうめんが白い閃光みたいになって見えねぇ!!」
「ヒューガさん! 後ろから『黄金の完熟キャベツタルト(防水フィルム包み)』も流れてきました〜!」
「スイーツまで流すな!! 破砕されるぞ!!」
激流と化したコースに対し、駆は持ち前の驚異的な運動神経と必死のツッコミスピードを解き放ち、ザルと箸をフル活用して見事な連続キャッチを披露!
最後は二人で無事にキャッチしたそうめんとタルトを美味しそうに頬張り、床への浸水もギリギリ最小限(※バケツ3杯分)で回避。
同接170万人のリスナーから「V界一アクロバティックな流しそうめん」「箸さばきがプロ」「神回確定」と大量のスパチャが降り注ぎ、激流配信は爆笑のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。濡れた床を雑巾で綺麗に拭き上げ、ハッピを脱いだ夜の部室。
パイプ椅子に深く腰掛け、タオルで頭を拭きながら缶コーヒーを飲む駆。
「……ハぁ……ハぁ……。流しそうめんでここまで命の危険を感じたのは人生で初めてだぞ……」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣でねじり鉢巻きを外し、冷えた缶のいちごミルクを美味しそうに飲むみずきが、嬉しそうに目を輝かせる。
「でも、日向くんの超高速キャッチ、すっごく格好良かったです! まるでサムライみたいでした!」
駆は一口コーヒーを流し込み、雑巾を抱えたまま照れくさそうに顔を横へ背けた。
「……たく。サムライじゃねえよ。お前が変な速度で流すから夢中で手が出ただけだ。……まあ、そうめん自体は冷たくて美味かったけどな」
みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それからパッと太陽のような笑顔を弾けさせた。
「はいっ! 日向くんと一緒なら、部室の中の小さなスライダーも世界一の大冒険になっちゃいます!」
「へいへい。……で、激流スライダーも片付いたし、明日は何やる気だ?」
みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『激しい水遊びのあとは超静寂! 部室で100個のドミノを並べて倒さずに完成させる超繊細ドミノチャレンジ配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「動と静の寒暖差で風邪ひくわ!!!! お前が途中でくしゃみして全倒壊する未来が見えるぞ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。
激流スライダーを乗り越え、次なる極限の集中力勝負(?)へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。




