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七十六話

「友情が崩壊して配信が終わるわ!」という駆の悲痛な叫びが夕闇に消えてから一夜。

翌日の20時。天宮ミルクのチャンネルでは、いつもと違う怪しく重々しいBGMとともに、緊張感漂う生配信がスタートしていた。

タイトル:『【24時間(?)】部室がボドゲ王国に!? 負けたら即罰ゲームのカタン&人狼ガチバトル!』

モフモフ猫カフェの余韻を完膚なきまでに吹き飛ばす頭脳戦企画。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「友情崩壊(物理)の予感」「ヒューガの顔芸とガチギレが楽しみすぎる」「また徹夜枠かww」と大歓喜し、開始わずか数分で同接数は130万人を軽々と突破していた。

【ボドゲガチバトルきたあああ!】

【部室の机に大量のボードゲーム積まれてて草】

【カタンで資源の強奪が始まる】

【ヒューガの目の下のクマ(予定)】

――20時ジャスト。配信スタート。

画面に映し出されたのは、部室中央の長机を埋め尽くすボードゲームの箱と、本格的なダイスタワー(サイコロを転がす筒)。探偵風のハンチング帽をかぶったヒューガと、ディーラー風の緑のサンバイザーを装着した天宮ミルク(3D)が対峙している。

「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。昨日の癒やし空間は消え去り、ここは奪い奪われる暗黒のボードゲーム王国となりました。天宮さんが『24時間やる!』と聞き出さなかったので、今回は【カタン】と【人狼】の2本勝負で早く負けた方が『特製・激辛キャベツジュース』を一気飲みです。助けてください」

「こんミルク〜! 持ち前のド天然スルーで相手の心理戦を全て無効化するボドゲ界の暴君・天宮ミルクです〜!」

「自分で暴君って言うな!! 心理戦を無効化するんじゃなくてお前がルールを理解せずにサイコロ振ってるだけだろ!! なんでディーラーのサンバイザー被ってイカサマ師みたいな顔してんだよ!!」

【wwwwwwwwwwww】

【開幕0秒のボドゲ暴君ツッコミ】

【ド天然スルーで心理戦無効化草ww】

【激辛キャベツジュースの存在感】

そこへ、ボードゲームの噂を聞きつけた仲間たちが、オンラインプレイヤーとしてDiscord経由で続々と参戦してくる。

黒羽レン『……ヒューガさん、カタンにおける資源配置とダイスの確率論を完全計算しました。僕が勝利する確率は99.2%です』

「理系特有のデータ戦術でマウント取るな!! 確率通りにサイコロの目が出ないのがボードゲームだろ!!」

鳳凰院カグラ『クックック……人狼ゲームだと……!? 我が暗黒の力で全員の正体を暴いてやろう! ちなみに我は村人だ!(※開始0秒の CO)』

「開幕0秒で役職(村人)をCOするなアホ魔王!! 人狼ゲームの醍醐味を自らドブに捨てるんじゃない!!」

星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの人狼盤面解析データにより、最も勝率が高い騙り(かたり)の方法が判明しました!「開始直後に『私がキャベツです!』と存在しない役職を主張する」です!』

「存在しない『キャベツ役』を主張するな!! 狂人(きょうじん)より手に負えない謎の第三陣営が誕生するだろ!!」

【確率計算99.2%ww】

【開幕村人COする魔王草ww】

【役職『キャベツ』爆誕生】

【同接破竹の150万人突破!】

仲間たちも交えたカタン決戦では、理詰めを重ねるレンと駆に対し、みずきが「わぁ〜! 麦がたくさん取れました〜! 日向くんにキャベツ(※木材)と交換してあげます!」と謎の超優遇交易(えこひいき)を発動!

「……え!? 木材3つと麦1つの交換でいいのか!? お前それ完全に俺が得する交易だぞ!?」

「えへへ、日向くんには勝ってほしいですから〜!」

レン『……天宮さん、それはあまりにも露骨な不平等条約です! 盤面のバランスが壊れます!』

「ゲームのルールを無視した愛情交易(えこひいき)で盤面を破壊するな!! 勝っても全方位から叩かれるわこんな勝利!!」

続く人狼ゲームでも、みずきの「日向くんは絶対に人狼じゃないです! だって今日のおやつを半分くれたから!」という無敵のフィーリング推論(※実際に駆は人狼だった)に騙され、人間陣営が全滅!

「……勝った……俺(人狼)が勝ったのに……なんでこんなに罪悪感で心が痛いんだ……!!」

泥沼(?)の心理戦と天才的なド天然プレイの連続に、同接170万人のリスナーは大爆笑。「えこひいきカタン草」「人狼のメンタル破壊ゲーム」「V界最高の心理戦(カオス)」というスパチャが殺到し、ボドゲ耐久配信は大盛り上がりのうちに幕を閉じたのだった。

――配信終了後。ボードゲームのコマを箱に片付け、深夜の部室。

負けた責任をとって激辛キャベツジュースを一口飲み、「辛ぁぁぁい!!」と悶絶したあとに温かいお茶をすする駆。

「……ハぁ……。頭脳戦のはずなのに、なんで脳みその変な筋肉が疲れてんだ俺は……」

「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」

隣でカードを綺麗に揃えていたみずきが、申し訳なさそうに、でも愛おしそうに微笑みかける。

「日向くんと一緒にお顔を見合わせてボドゲするの、すっごくハラハラして楽しかったです!」

駆はお茶を飲み干し、口元の辛さを拭いながら照れくさそうに顔を横へ向けた。

「……たく。お前の破天荒なプレイに振り回されただけだっつの。……まあ、たまにはこういう頭使うゲームも……悪くはなかったけどな」

みずきは一瞬驚いたように目を丸くし、それからパッと夜空を照らすような笑顔を弾けさせた。

「はいっ! 日向くんと一緒なら、どんな難しいゲームだって最高に楽しいアトラクションです!」

「へいへい。……で、ボドゲ王国も終わったし、明日は何やる気だ?」

みずきは悪戯っぽく目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。

「明日は『頭を使ったあとは体を張る! 部室に超巨大な流しソーメン(キャベツスライダー)を設置して超高速キャベツキャッチ配信』です!」

駆は夜のキャンパスに向かって、本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。

「部室の中に竹のコースを組むんじゃない!!!! 水浸しになってパソコンが壊れるわ!!!」

「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」

夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声。

泥沼の心理戦を乗り越え、次なる流しソーメン(?)の暴走へ。

世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、どこまでも賑やかに未来へ続いていく。

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